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世界の防衛・軍事産業をリードしているのは欧米勢だ。グローバルランキングをみると、ロッキード・マーティンやボーイング、レイセオンなど、軍事超大国である米国企業が圧倒的だが、BAEシステムズやエアバス・グループなどの欧州勢も並ぶ。近年、これら欧米企業が強化しているのが、サイバーセキュリティ分野への投資だ。一方、日本では2014年4月に「武器輸出三原則」を見直し、自国の安全保障に資するなどの一定条件を満たせば輸出を許可する「防衛装備移転三原則」を策定し、大きな方針転換を果たしている。
コンピュータは軍事技術から生まれた
防衛・軍事産業は、ネガティブなイメージを持たれがちだ。しかし、技術を革新させ、企業を育成するという面があるのも事実だ。軍事用の技術が民生用に使われ、今も生活に役立っている例は枚挙にいとまがない。
そもそもコンピュータが開発されたのは、ミサイルの弾道計算が目的だったことは広く知られている。インターネットも、米軍向けの通信技術「アーパネット」が起源と言われている。
歴史を振り返ってみると、今日の大企業の多くが、戦争を足がかりにして飛躍を遂げている。たとえば、世界的な化学メーカーである米国のデュポンは、19世紀に起こった米国の内戦「南北戦争」で大量の火薬を供給し、巨利を得たことが成長の基盤になった。
防衛産業には、兵器・銃器類(ミサイル・大砲・機関銃など)や弾薬を製造する専業メーカーもあるが、戦艦なら造船会社、戦闘機なら航空機メーカーが製造するといった具合に、メーカーの多くは民生品も製造する兼業メーカーだ。
防衛産業の顧客の多くは、自国の政府、軍隊である。軍用品は、国家機密とからむため、民生品のように諸外国に自由に売って歩くわけにはいかない。米国や中国、ロシアといった軍事大国はともかく、大半の国ではパイが限られ、専業メーカーでは立ち行かないのだ。
その代わり、防衛産業は、国家予算をバックに安定した売上と利益が保障される。事業に関する情報を独占・寡占でき、競争もほとんどないケースが多い。
しかし、東西冷戦の終結以降、防衛産業を支えてきた先進国の軍事費は削減される一方で、軍用品を主力とするメーカーは苦境にあえいでいる。軍事技術の開発費の高騰、EU(ヨーロッパ共同体)の成立などもあって、現在世界的に、軍用品の共同開発・調達の流れが加速しており、防衛産業のM&A(企業合併・買収)、国境を越えた経営統合の動きも目立ってきている。
サイバーセキュリティの分野でも影響力が拡大
防衛・軍事産業のグローバルランキングのトップ25社は次のとおりである。
軍事超大国である米国の企業が、上位を独占しているのが見て取れよう。防衛産業の世界第1位は米国のロッキード・マーティンである。田中角栄元首相が関与した汚職事件「ロッキード事件」で有名なロッキードとマーティン・マリエッタが、1995年に合併して誕生した宇宙航空機器メーカーだ。
田中角栄時代には民間航空機事業も手がけていたが、今は完全に撤退し、戦闘機やミサイル、ロケット、人工衛星などが売上のほとんどを占める。自衛隊も導入するステルス戦闘機(レーダーなどに探知されにくい戦闘機)「F35」の共同開発では、主導的な立場にある。
また、2014年10月には、小型の核融合炉(CFR:compact fusion reactor)に関する技術を開発したと発表しており、10年以内には実用化するという。
さらに、2014年3月にはIndustrial Defenderを買収し、サイバーセキュリティの分野でも影響力を拡大している。2012年には、AMD、インテル、RSA(EMC)などとともに「CSRA(Cyber Security Research Alliance)」を結成している。
第2位は米国のボーイング。1916年に創業した世界最大の宇宙航空機器メーカーで、民間航空機ではエアバス・グループ(オランダ)と世界市場を二分する。ジャンボ旅客機は日本でも有名。一方、売上高で軍事用が36.9%を占めるなど、戦闘機やロケットのメーカーとしても世界屈指の規模を誇る。
サイバーセキュリティの分野にも投資をしているが、2015年1月には傘下のナラスをシマンテックに売却したと
ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じている。
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