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- 2015/07/15 掲載
地方創生特区で、なぜ秋田県仙北市がもっとも注目されるのか
温泉、田沢湖で東北地方有数の観光地に
このうち、宮城県仙台市は規制緩和で「ソーシャル・イノベーション(社会変革)創生特区」と題し、起業の拡大を狙っている。これまで2カ月必要だった申請書類の縦覧期間を2週間に短縮するなどNPO法人設立手続きを簡素化するとともに、公証人が公証役場外で定款認証の手続きをできるようにして、起業しやすい環境を作ろうとしている。愛知県は、2016年に開校する「県立愛知総合工科高等学校専攻科」の運営を民間に任せ、製造業の担い手育成を目標としている。
ともに規制緩和の上で意味ある挑戦と受け止められているが、あくまで大都市圏での事業だ。過疎や少子化、高齢化で存亡の危機に立たされている地方の取り組みには当てはまらない。地方創生特区と銘打った以上、世間の関心はどうしても仙北市に集まっている。
仙北市は秋田県東部、岩手県との境界に面した内陸の地方都市だ。2005年に仙北郡の角館町、田沢湖町、西木村が合併して誕生した。面積は約1100平方キロ。東京都のざっと半分の広さを持ち、市域の8割を山林が占める。もともと秋田スギの産地として栄えたが、昭和の高度経済成長期以降、外国材に押されて活気を失った。
ただ、水深が日本一深い田沢湖や「みちのくの小京都」と呼ばれる武家屋敷の町並み、玉川、西木、乳頭などの温泉、スキー場という観光資源に恵まれている。秋田新幹線が田沢湖、角館と市内2カ所に停車することもあり、年間600万人近い観光客が訪れる東北地方有数の観光地だ。
しかし、人口は減少の一途をたどっている。1960(昭和35)年に4万3700人いた住民は、2015年5月末で2万8000人余り。実に35.2%も少なくなった。2005年市発足時の3万2600人と比べても13.2%の減少だ。しかも高齢化率は40%近くに達し、過疎と高齢化社会の進行に苦しんでいる。医師不足から救急病院が減り、地域の救急病院まで2時間ほどかかるなど、福祉、医療面での問題も浮上してきた。そこで打ち出したのが「田沢湖、玉川温泉を中核とした医療・農村ツーリズム特区」だ。
湯治型の医療ツーリズムを推進
市によると、構想は3つの柱で構成されている。最初の柱は、温泉を利用した「湯治型の医療ツーリズム推進」だ。そのために外国人医師の受け入れを目玉施策に掲げている。外国人医師は日本国内で日本人への治療や公的医療保険の利用ができないばかりか、研修の場所も大学病院などに限定されている。さらに病院内に別の診療所を設けることや温泉療法に健康保険を適用することも認められていない。これらの規制を取り払うことで地域の医師不足を解消するとともに、国内外から温泉療法を求める湯治客を呼び込もうというわけだ。【次ページ】仙北市は国内外との競争を勝ち抜けるか
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