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  • 2015/12/11 掲載

東証が挑んだビジネスモデル改革、世界から選ばれるための「3つの条件」とは

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2005年、重大なシステム障害を発生させた東京証券取引所ではシステムの強化に着手、2010年には新たな株式売買システム「arrowhead」のサービス提供を開始した。同時に日本取引所グループ(JPX)のプライマリサイト内で、arrowheadと投資家の発注システムを直結するコロケーションサービスの提供も開始、システム強化と併せてビジネスモデルの変革も実現した。その取り組みについて、元日本取引所グループのCIOで、証券保管振替機構 常務執行役 CIOの鈴木義伯氏が明らかにした。

執筆:レッドオウル 西山 毅、構成:編集部 松尾慎司

執筆:レッドオウル 西山 毅、構成:編集部 松尾慎司

レッド オウル
編集&ライティング
1964年兵庫県生まれ。1989年早稲田大学理工学部卒業。89年4月、リクルートに入社。『月刊パッケージソフト』誌の広告制作ディレクター、FAX一斉同報サービス『FNX』の制作ディレクターを経て、94年7月、株式会社タスク・システムプロモーションに入社。広告制作ディレクター、Webコンテンツの企画・編集および原稿執筆などを担当。02年9月、株式会社ナッツコミュニケーションに入社、04年6月に取締役となり、主にWebコンテンツの企画・編集および原稿執筆を担当、企業広報誌や事例パンフレット等の制作ディレクションにも携わる。08年9月、個人事業主として独立(屋号:レッドオウル)、経営&IT分野を中心としたコンテンツの企画・編集・原稿執筆活動を開始し、現在に至る。
ブログ:http://ameblo.jp/westcrown/
Twitter:http://twitter.com/redowlnishiyama

グローバル対応のために、株式売買システムの高度化を図る

photo
証券保管振替機構
常務執行役 CIO
鈴木 義伯 氏
(元日本取引所グループ CIO)
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 「第10回 BPMフォーラム 2015」で登壇した鈴木氏はまず、東証のこれまでの取り組みの経緯について言及。「残念ながら約10年前にITのトラブルがあり、ビジネスモデルを変えるよりも前に、システムを強化する取り組みを行った」と説明した。

 当時の証券取引所のような組織は国内での競争がないと考えている節があり、変化への対応がどうしても後手に回ってしまうところがあったという。

「しかし国内に1つしかない機能であっても、証券取引所の良し悪しは国民に直接影響を及ぼすことになる。東証にとっては直接お金を払ってくれる企業が顧客ではあるが、もちろんその先にいる投資家の皆さまが本当の顧客だ。そういう意識が当時の東証ではまだまだ醸成されていなかった。さらに国内では独占企業であっても、日本企業のグローバル化が進み、さらには国際競争がより激化していく中で、世界から選ばれる企業にならなければならなくなった。これも東証の大きなテーマだった」

 では世界から選ばれる証券取引所の条件とは、一体何か。これには大きく3つの視点があるという。1つめが、IT活用高度化の度合い、2つめが、取引所に上場している企業の品質、そして3つめが、取引所の利便性と信頼性だ。

 1つめのIT活用高度化の度合いは、2000年頃から取引所の評価尺度に加えられた項目で、具体的には取引システムの安定性/信頼性と、取引システム/相場配信システムの高速性だ。

「東証ではこれらに対する感受性が非常に弱く、そのため対応が遅れてしまったが、現在では高速化、信頼性の向上、リニアな拡張性の実現という3つの目標を掲げて、株式売買システムであるarrowheadの高度化を図るための取り組みを継続的に行っている」

 高速化については、投資家から注文を受けてレスポンスを返すまでの時間を短縮した。従来は約3秒かかっていたが、これを10ミリ秒以下にまで低減し、2015年9月のシステム更改でさらに500マイクロ秒以下にまで短縮した。実に6000倍のスピードアップだ。

 信頼性については、99.999%の可用性を実現しており、これは「1年間に約10秒停止するぐらいの信頼性」だという。またリニアな拡張性の実現については、取引件数の変動幅が非常に大きいという取引所の特性に対応するために、キャパシティ予測の2倍の容量を確保すると同時に、1日100万件の取引量の増強に1週間で対応できる構造も構築した。


アルゴリズム取引の増加に合わせ、ビジネスモデルを変革

 一方、2000年以前から証券業界全体では、投資家がマーケットの動向を見ながら端末で発注するという取引から、発注アルゴリズムを備えたソフトウェアを使ってコンピュータが自動発注するという取引形態に大きくシフトしてきた。

「世界のトレンドが、アルゴリズムを使ってコンピュータで発注するという方向に動き始めていた。東証でもその流れに対応するようなモデルに変換しなければならない。そこで2010年のarrowheadの提供開始と並行して、ITを活用した新たなビジネスモデルを企画した。それがコロケーションサービスだ」

 従来、顧客企業から依頼を受けた取引参加者(=証券会社)は自社のデータセンタに設置したディーリング端末からネットワークを介してarrowheadにアクセスしていたが、コロケーションサービスは、arrowheadなど各種システムが置かれているJPXのプライマリサイト内に、顧客企業に発注用サーバを置いてもらうためのコロケーションエリアを用意し、そこから自動発注アルゴリズムを使ってarrowheadに直接発注できるようにしたものだ。

「これによって顧客企業が、香港やシンガポール、あるいはシドニー、英国などから直接JPXのコロケーションエリアにある自動発注アルゴリズムを使って、世界中から注文を出せるという状態にした」

画像
ITを活用した新しいビジネスモデル
(出典:証券保管振替機構)


 いわばJPXのプライマリサイト内に、顧客企業のコンピューティング環境とarrowheadが“同居”する形を作ったわけだが、これによって取引にかかるスピードは劇的に速くなったという。

「従来のモデルでは証券会社からディーリングシステムを介して我々のシステムに発注が行われ、それを受けて売買していた。この場合、通信回線を経由することになるので、1つの取引では3~9ミリ秒かかっていた。これが新しいモデルでは、プライマリサイト内のarrowheadの“脇”に顧客の自動発注エンジンを置くことになるので、約5マイクロ秒で注文ができるようになった。最大で1800倍のスピードアップということだ」

【次ページ】外に“丸投げしない”ことが何よりも重要

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