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  • 2017/11/10 掲載

なぜホンダは狭山工場を「閉鎖」するのか 自動車メーカーの国内生産体制が変わる理由

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ホンダが国内主力工場のひとつである狭山工場の閉鎖を決定した。国内の自動車市場は縮小が続いており、自動車メーカーにとっては、もはや重要なファクターではなくなりつつあるが、それでも国内生産の維持が日本経済にもたらす利益は大きい。全世界的にEV(電気自動車)シフトが進み、クルマのコスト構造が大きく変わる中、国内の生産拠点をどう位置付けるのか難しい選択が迫られそうだ。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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EVシフトが進む中、各自動車メーカーは国内の生産拠点にどのような役割を求めるのか
(©roibu - Fotolia)


地産地消のホンダとしては、狭山工場の閉鎖は自然の成り行き

 ホンダは2017年10月4日、2021年度をメドに狭山工場(埼玉県狭山市)での生産を、近くにある寄居工場(同県寄居町)に集約すると発表した。狭山工場はこの措置に伴って閉鎖される見通し。狭山工場は同社の基幹工場のひとつであり、オデッセイやステップワゴン、アコードなど主力車種の生産を行ってきたほか、全世界のホンダ工場に生産技術を展開する中核工場としての役割も果たしてきた。

 ホンダが中核工場の閉鎖に踏み切るのは、国内の自動車販売が予想以上に落ち込んでいるからである。2016年度におけるホンダの国内販売台数は約71万台にとどまっている。何とか前年を上回ったものの、販売台数が増加したのは3年ぶりのこと。これはホンダに限った話ではなく、日本の国内自動車市場全体が縮小しており、今後もその傾向が続く可能性が高い(図1)。

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図1 国内販売台数の比率

 もっともホンダは、自動車メーカーの中では工場の海外移転に積極的な企業のひとつであった。現地で生産し現地で販売するという、いわゆる地産地消が進んでいる。

 同社の年間生産台数は約500万台だが、そのほとんどは海外で生産されており、国内で生産されるのはわずか81万台しかない。ホンダの国内販売台数を考えると、国内工場では、事実上、日本で売るクルマしか生産していないということになる。国内工場の稼働率はすでに7割程度まで落ち込んでいるともいわれ、このままでは生産能力の余剰がさらに大きくなる。冷静に数字を見れば、狭山工場の閉鎖は自然な成り行きといってよいだろう(図2)。

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図2 国内生産台数の比率

 かつて、自動車メーカーの工場閉鎖のニュースには、メディアの一面を賑わせるインパクトがあった。1995年に日産が座間工場(神奈川県座間市)を閉鎖(厳密には完成車の生産ラインを閉鎖)した際には大騒ぎとなったが、今回のホンダの決定に対する市場の反応は冷静だった。国内生産が限界に達しつつあることはすでに既成事実となっているようだ。

トヨタが製品戦略を大転換する理由

 一方、大手自動車メーカーの中で、国内生産の維持にこだわり続けているがトヨタである。同社は2016年度に897万台の自動車を生産したが、このうち国内で生産したのは410万台となっている。これはダイハツや日野を加えた数字であり、トヨタ単独では約310万台である。同社では国内生産300万台維持を掲げており、2017年度についても同水準の国内生産を見込む。

 ただ、国内生産に見合うだけの国内販売が維持できるのかというと状況はかなり厳しい。これまでトヨタは圧倒的な国内販売網を生かして、単独で150万台前後の販売台数を維持してきた。一方、国内の自動車市場は縮小が続いているので、トヨタのシェアは拡大していることになるが、縮小市場におけるシェア拡大策には限界がある。いくらトヨタの販売網を駆使しても、これ以上、シェアを伸ばすことは難しいだろう。

 事実、トヨタは国内販売戦略の大転換に踏み切ろうとしている。同社は国内最大手として、常にフルラインナップの製品戦略を基本としてきたが、今後は車種を絞り、地域ごとにカスタマイズした販売戦略を推進していく方針を固めた。具体的には2020年代半ばをメドに約60車種ある車種を約30種に半減し、地域別の販売戦略を担当する新しい組織を設置するという。

 従来なら、市場が拡大していたので、全国一律でフルラインナップの製品戦略を展開すれば、確実に販売が見込めていた。だが縮小市場においては、売れ筋のクルマにリソースを集中しなければ、販売効率が悪くなってしまう。また、地域ごとに売れる車の違いが明確になっていることから、全国一律の販売手法も機能しなくなっている。

 同社の一連の改革は、国内市場の縮小に対応したものだが、ここで問題となってくるのが国内工場の取り扱いである。国内の生産力を維持する場合、国内市場で消化できない分については、輸出に回す必要がある。そうなってくると海外で現地生産している車種との兼ね合いについて、面倒な調整が必要となってくる。

【次ページ】コストの安いEVは国内で生産できるのか? トヨタはどうする?

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