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  • 2018/02/21 掲載

日本初の農薬散布用ドローン、TEADの「Mulsan DAX04」誕生秘話

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農地が大規模になればなるほど、農薬散布は農家にとって面倒な重労働になる。これを軽減するのが空中散布だ。農薬の空中散布では一般的に、産業用無人ヘリコプターが使われてきたが、最近ではマルチコプター(ドローン)を使うケースも増えつつある。農薬散布用ドローンの性能を認定するに当たり基準作りから関わったのが、産業用の大型ドローンを得意とするTEAD。同社も初の農薬散布用ドローン「Mulsan DAX04」を開発し、現在好評を博している。同社 ビジネス開拓本部長の古屋誠一氏に開発の経緯や技術上の特徴などを聞いた。

フリーランスライター 大澤裕司

フリーランスライター 大澤裕司

フリーランスライター。1969年生まれ。月刊誌の編集などを経て、2005年に独立してフリーに。工場にまつわること全般、商品開発、技術開発、IT(主に基幹系システム、製造業向けITツール)、中小企業、などをテーマに、雑誌やウェブサイトなどで執筆活動を行なっている。著書に『高すぎ? 安すぎ!? モノのねだん事典』(ポプラ社)『これがドクソー企業だ』(発明推進協会)、共著に『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ)がある。

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農薬散布用ドローン「Mulsan DAX04」
(提供:TEAD)


日本初の農薬散布用ドローン

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 ドローンの産業利用といえば、空撮や測量などがイメージしやすいが、最近では農薬の空中散布への適用も進みつつある。ただ、ドローンだったらどんな機体を使ってもいいわけではなく、一般社団法人農林水産航空協会(以下、農水協)の性能認定を受けた機体でなければ使えない。

 性能認定に関するガイドラインができ、農水協による初の認定が行われたのは2016年4月。TEADの「Mulsan DAX04」が日本ではじめて、農水協の性能認定を受けた。Mulsan DAX04は2016年7月に発売され、これまでに200台強が売れている。

あえて重く作った機体を4枚のプロペラで飛ばす

 Mulsan DAX04のサイズは1650×950×692mmと軽トラックの荷台に余裕で収まり、最大10リットルの農薬を搭載できる。フライト可能時間は10~14分で、8~10分で1ヘクタールに農薬を散布する。

 また、機体重量が競合機種より重く、25キロを超えている。航空法では最大離陸重量が25キロを超える無人航空機は、25キロ未満のそれと比較して要求される機能や性能が厳しくなる。しかし、古屋氏は、「Mulsan DAX04はあえて25キロを超えて作った」と言う。その理由は、「厳しくなる基準をクリアした上で性能認定を取得できれば、機体性能の信頼性がより高いものになるから」と話す。

 しかも、この重い機体を27インチプロペラ4枚で飛ばしている。「これは単に高出力のモーターを採用すれば解決するわけではなく、制御アルゴリズムにまで関わってくることなので、開発当時はどこでもできるものではなかったはずです」と古屋氏。長年大型ドローンを手がけてきた同社には、アドバンテージがあった。

 プロペラを4枚にしたのは、農薬散布時に適した気流が発生できるからでもあった。農薬散布にはダウンウォッシュ(プロペラの回転によって生じる下側に吹き付ける風の強さ)と気流の流れの2つが重要になるが、気流はプロペラの配置の仕方によって変わる。同社の検証では、プロペラ6枚のときの気流と4枚のときの気流を比較したところ、4枚の方が農薬を作物の隅々に行き渡らせる気流ができていたことが確認できた。

 農薬散布の仕組みについては、農水協と産業用無人ヘリコプター大手のヤマハ発動機が確立した基準を元に開発した。農薬を吹き付けるノズルはヤマハ発動機の無人ヘリコプターに搭載されているものとほぼ同じものを活用しているほどだ。

 ただ、無人ヘリコプターとドローンでは発生するダウンウォッシュが異なるので、農薬散布の仕組みが無人ヘリコプターとほぼ同じでもきちんと行き渡るとは限らない。きちんと行き渡らせるために、ノズルの仕様や取り付け位置、角度などの見直しのほか、飛行速度や高度といった飛行条件なども見直しも必要で、1年間かけて検証した。飛行条件は無人ヘリコプターの場合、飛行高度3メートル(作物上)、散布幅7.5メートルだが、Mulsan DAX04は飛行高度2メートル(同)、散布幅4メートルとした。

やまびこと共同開発したモデルも登場

 また、同社は2017年春に、薬剤散布装置の大手であるやまびこと共同開発したMulsan DAX04も発売した。ノズルがモーターの下にあるのが外観上の特徴で、散布装置はやまびこ製だ。

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同じ「Mulsan DAX04」でも薬剤散布装置メーカーのやまびこと共同開発したタイプ。液剤散布装置や農薬散布用ノズルの取り付け位置などが異なる
(提供:TEAD)


 開発の背景は、もともと同社が粒剤散布装置を搭載したモデルの開発を目指していたことにある。ライバル社がとある散布装置メーカーと組んだことから、同社はやまびこに協力を打診。やまびこは、ドローンへの参入機会をうかがっていたことから、ドローンに搭載する粒剤散布装置の開発を快諾したが、やまびこには「液剤散布装置も手掛けたい」という意向があったことから、開発することになった。

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やまびこが開発した粒剤散布装置を搭載した「Mulsan DAX04」。散布装置の下に見える金属板が、アルミ製の専用散布案内板だ
(提供:TEAD)


 やまびこが開発した粒剤散布装置も17年春に発売になっている。特徴は、均一に撒けることにある。

 それまでの粒剤散布装置はインペラーが回転しながら散布するため、均一に拡散しないという問題点があった。しかし、やまびこがMulsan DAX04用に開発した粒剤散布装置は、アルミ製の専用散布案内板を装着したことにより、真下と真横に均一に拡散するようになった。

【次ページ】開発のきっかけは農林水産省からの相談

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