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  • 2018/07/03 掲載

完全自動運転実現の鍵は“ゲーム”にあり、「ヒヤリハット」を人工知能に学ばせる方法

連載:中西 崇文のAI未来論

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人工知能(AI)について話題の中心は機械学習だ。人間が経験の積み重ねにより学習をし、徐々に正しい行動、判断ができるようになるのと同じように、機械学習はデータに基づいて学習をすることで結果としてより精度が上がっていく。十分な学習のためには、なるべく精度よく、現実の状況に即したものを収集する必要があった。しかしながらここ最近は、学習のためのデータも自動生成できつつあるのだ。今回はこの点を解説しよう。

武蔵野大学 データサイエンス学部 データサイエンス学科長 准教授 中西 崇文

武蔵野大学 データサイエンス学部 データサイエンス学科長 准教授 中西 崇文

武蔵野大学 准教授、国際大学GLOCOM主任研究員
1978年、三重県伊勢市生まれ。2006年3月、筑波大学大学院システム情報工学研究科にて博士(工学)の学位取得。2006年より情報通信研究機構研究員。ナレッジクラスタシステムの研究開発、大規模データ分析・可視化手法に関する研究開発等に従事。2014年より国際大学GLOCOM准教授・主任研究員。データマイニング、ビッグデータ分析、分脈構造化分析の研究に従事。2019年から武蔵野大学 データサイエンス学部 データサイエンス学科長 准教授。国際大学GLOCOM主任研究員、デジタルハリウッド大学大学院客員教授。専門は、データマイニング、ビッグデータ分析システム、統合データベース、感性情報処理、メディアコンテンツ分析など。

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完全自動運転実現の鍵は「事故になりそうだった場合のデータ」を集めることにある

囲碁の対戦経験を自ら積むAI

 一昔の前のようにも思えるが、2016年3月、韓国のプロ棋士イ・セドルをAlpha GoというAIが囲碁で打ち負かせた事件があった。Alpha GoはGoogle Deep Mind社の囲碁をするプログラムである。韓国のプロ棋士でトップ級の実力者イ・セドルと5番勝負を行い、4勝1敗で勝ち越したのだ。

 当時専門家の間では、囲碁でコンピュータが人間に勝てるようになるのは数十年後とも言われていたが、その難しさを克服した原動力になったのは、データであった。

 Alpha Goがプロ棋士に挑むにあたって、16万局、3000万の盤面を学習のためのデータとして用いたという。膨大な盤面をデータとして学習することで人間の打つ手を模倣するように訓練された。

 それから約1年半後、Deep Mind社は新たなプログラムAlpha Zeroを発表した。Alpha Zeroは囲碁だけでなく、将棋、チェスまで人間を超える強さを誇るという。

 それだけではない。Alpha Zeroは学習のための盤面データを事前に用意する必要がないというのだ。囲碁の対戦をプログラム自らで行うことによって、盤面データを自ら作り、自ら学習することが可能だからだ。

 その結果、チェスでは4時間、将棋では2時間、囲碁で8時間の自己対戦と学習で、世界一レベルに達するようになってしまった。

 ここで重要なことは、「学習のための盤面データを準備する必要がないこと」だ。ルールが明確なものは、プログラム自ら対戦をすることで盤面データを生成し、そのデータを学習していくことが可能なのである。

 つまり、機械学習では大量なデータ、いわゆるビッグデータを準備することが必要だと思われがちであるが、プログラムが自動で学習のためのデータを、ほぼスクラッチから生成できるということだ。

 もちろん、すべての局面でこの方法が可能なわけではない。しかし、ゲームのような、抜けのないルールがある閉じられた世界が定義できるものについては、Alpha Zeroのようにプログラム自らそのルールの中で、試行錯誤して得られたデータで自らを学習していくことも可能なのだ。

画像
完全自動運転を可能にする条件とは
(©chombosan - Fotolia)


現実だけでは取りづらい事象をデータ化するには

 このようなコンピュータが自分自身で学習のためのデータを生成できるのは、ゲームの中だけではない。実は車の自動運転においても仮想空間での自動データ生成が行われつつある。

 たとえば、GPU半導体メーカーNVIDIAの記事にある通り、自動運転の学習のためのデータとして仮想空間でデータを作る取り組みをしているようだ。

 ある調査によると、人間の運転手と同じレベルの精度を達成するためには110億マイルのテスト走行が必要だという。

 2017年11月、Google傘下の自動運転開発会社Waymoは、公道のテスト走行の距離が累積400万マイルを突破したと発表したが、この調査と見比べてみるとそれでもまだまだ足りないことになる。

 もちろん、データは量だけが問題ではないことは、本連載でも述べてきた。自動運転でもしかりなのだが、実は自動運転のデータでなかなか手に入らないわりに重要なデータがある。

 ヒヤリとしたりハッとしたりした経験、いわゆる「ヒヤリ・ハット」のデータである。1つの重大事故の背後には、29の軽微な事故が存在し、その背景には300の異常(ヒヤリ・ハット)があると言われる(ハインリッヒの法則)が、重要なのは「事故の背後のデータ」なのだ。

 一方、人や車の飛び出しなど、「ヒヤリ・ハット」に結びつくような異常はしょっちゅう存在するものではない。公道のテスト走行をどれだけ積み重ねても、なかなか十分な頻度のヒヤリ・ハットを集めることが難しいことが想像できるだろう。

 現実ではなかなか取りづらいが、このヒヤリ・ハットに関するデータを、安心して任せられる自動運転車を作るために何らかの形でAIに入れる必要がある。

 もし、仮想空間上でヒヤリ・ハットを再現できるとしたら、人の飛び出しの場合、さまざまな場所、角度、タイミング、状況などの条件を少しずらしながら試すことが可能だ。

 さらにその環境で自動運転を試し、その可否を判断することができれば、危険を伴うことなく、重大な局面に関する膨大なデータを得ることができる。

 GPUを専門とするNVIDIAが画像処理と機械学習の両者を生かしながら、自動運転の学習に踏み込むことは非常に大きなインパクトだろう。

【次ページ】ゲームから学習データを取得する

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