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  • 2018/10/17

人工知能への「失望」、現場はすでに失敗から学びを得ている

メディアで「人工知能(AI)」という言葉を見ない日はない。コンピュータの能力が人間を上回る「シンギュラリティ」がいつかという議論が起こり、人工知能によって多くの人間の仕事が奪われるという説もある。そうした「人工知能ブーム」の実態とはどんなものであるか。すでに、人工知能に取り組み、「失望」した話から人工知能の社会実装へのヒントが見えてくる。

合同会社アイキュベータ 代表 松田 雄馬

合同会社アイキュベータ 代表 松田 雄馬

1982年9月3日生誕(ドラえもんと同じ誕生日)。徳島生まれ、大阪育ち。博士(工学)。2005年京都大学工学部地球工学科卒業。同大学在学中、中国北京大学に短期留学。2007年京都大学大学院情報学研究科数理工学専攻修士課程修了。同年日本電気株式会社(NEC)中央研究所に入所。MITメディアラボとの共同研究、ハチソン香港との共同研究に従事したのち、2008年、東北大学とのブレインウェア(脳型コンピュータ)の共同研究プロジェクトを立ち上げる。2015年情報処理学会にて、当該研究により優秀論文賞、最優秀プレゼンテーション賞を受賞。同年博士号取得。2016年NECを退職し独立。現在、「知能」や「生命」に関する研究を行うと共に、2017年4月、同分野における研究開発を行う合同会社アイキュベータを設立。代表社員。人工知能に関する謎を「生命」という視点から紐解く「人工知能の哲学」(東海大学出版部)や「人工知能はなぜ椅子に座れないのか: 情報化社会における『知』と『生命』」 (新潮選書) 」を執筆。

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いま、人工知能(AI)へのメディアの論調は急激に変化しつつある

(© phonlamaiphoto - Fotolia)

急激に変わりつつある「人工知能」へのメディアの論調


人工知能はなぜ椅子に座れないのか: 情報化社会における「知」と「生命」 (新潮選書)
筆者の最新著作
 「人工知能」という言葉を聞かない日はないほどの熱狂ぶりが冷めやらぬ昨今、「シンギュラリティ」という言葉は、もはや一般用語化しているといってよいかもしれない。アメリカのレイ・カーツワイルという未来学者が唱えた、2045年にコンピュータの能力が、地球上の全人類の能力を合わせたものよりも上回ってしまうとする説である(注1)。

注1:レイ・カーツワイル (著)「シンギュラリティは近い:人類が生命を超越するとき」(NHK出版、2016)

 あくまで1つの学説に過ぎないこの説が1つのきっかけとなり、また、「今ある仕事の半分は将来姿を消すことになる」といった将来予測(注2)も後押しし 、昨今、「人工知能」を脅威のように扱う報道が猛威を振るっている。

 しかしながら、最近の報道を観察していると、この論調が急激に変化していることに気づく。メディアの報道を俯瞰(ふかん)することで、現在、何が起きているのか、また、今後どのようなことが起こり得るのかについて考察したい。

注2:カール・ベネディクト・フレイ、マイケル・A・オズボーン 「未来の雇用」(オックスフォード大学、2013年9月17日)

「人工知能」研究への素朴な疑問

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 2014年、チェコにて、興味深い企業が出現した。「汎用人工知能」と呼ばれる、自分自身で次々に新しいものを学んで賢くなる、人間レベルの知能を持つアルゴリズムを実現するという野心を前面に打ち出した企業である。

「GoodAIの目的はただ一つ『汎用人工知能(General Artificial Intelligence)をできるかぎり早く創ること』につきます。汎用人工知能というのは、一言でいえば『人間レベルの人工知能』のことです。これを使って人類の発展を加速し、宇宙の謎を解き明かしたいのです。知能というものが解けてしまえば、それを利用して、世界のあらゆる重要な問題を解決することができてしまいます」(チェコ発 GoodAIの創業者 マレック・ローサ) (注3)

注3: ゼロからわかる「汎用AI」究極の技術を10年で創る大挑戦(現代ビジネス, 2017年5月7日)

 こうした報道を見ると、まるで、人間を超える「人工知能」が、まもなく出現してしまいそうに思えてしまう。しかしながら、ここで、ふと冷静に考えてみたい。GoodAIのいう「究極の技術」すなわち「汎用人工知能」というものは、一体何なのだろうか。「人間を超える」とは、そもそもどういうことなのであろうか。

 広く知られているように、囲碁や将棋など、盤面上で展開されるゲームに関しては、コンピュータは、人間よりも遥かに優れた勝率を上げるようになった(注4)。囲碁や将棋などの複雑なルールや、複雑な盤面であっても、コンピュータを使うことで、勝率の高い手を瞬時に計算することが可能である。

 コンピュータ(電子計算機)の進化は留まるところを知らず、一昔前には難しいと言われていた囲碁や将棋の盤面であっても、今では高い確率で予測することができるようになった。盤面上で展開される、ルールの決まったゲームを戦う上では、コンピュータは、優に「人間を超えている」と言えるであろう。

注4:斉藤康己 (著)「アルファ碁はなぜ人間に勝てたのか」(ベスト新書、2016)

 しかしながら、私たち人間の営みは、ルールの決まったゲームを戦うことだけではない。曖昧模糊(あいまいもこ)とした現実世界の中で、ルールを決めて新しいゲームを作っていくようなことを、人間はいとも簡単に行っている。そうした人間ならではの「知能」が、コンピュータといかに異なるかということを発見してきたこと自体もまた、「人工知能」研究の歴史でもあるといえる。

メディアに見る「人工知能ブーム」の真実

 GoodAIのように、「人間を超える」ことを目指す企業が出現している一方で、2017年ごろから、メディアで報じられる論調に変化が起こってきた。ここでは、その一端をご紹介したい。

●GoogleのAIのトップは曰く、人工知能という言葉自体が間違っている、誇大宣伝を生む温床だ(注5)
 できれば、人工知能という言葉は使いたくないね。ビッグデータも、そんな言葉のひとつだ。漠然としすぎているし、明確な定義もない。まだ、マシンインテリジェンスの方がましだな。

注5:「GoogleのAIのトップは曰く、人工知能という言葉自体が間違っている、誇大宣伝を生む温床だ」(TechCrunch Japan, 2017年9月20日)

●「AIが人間の仕事を奪う」は嘘だった(注6)
 未来はそんなに暗くないという見方も増えている。減る仕事もあるが増える仕事のほうが多いということだ。たとえば調査会社ガートナーによると、AIのせいで20年末までに180万人が失業する一方、230万の雇用が創出される。差し引き50万の雇用増だ。

注6:「『AIが人間の仕事を奪う』は嘘だった」(Newsweek, 2018年2月14日)

●SXSW 2018で見た「AIブーム」の終焉(注7)
 日本では、未だ「人工知能」をバズワードとしてあおる動きはおさまってはいないが、今なおこのバズワードの動きに踊らされている企業がいるとすれば、世界目線ではかなりの周回遅れになっていると自覚すべきだろう 。

注7:「SXSW 2018で見た『AIブーム』の終焉」(アスキーエキスパート 2018年5月1日)


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「人工知能」という訳からAIをつい擬人的に捉えがちだ
(©kentoh - Fotolia)

【次ページ】「人工知能」への否定的な報道は、過度な期待の裏返し

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