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- 2019/06/11 掲載
人材不足のIT業界で「戦力外オジサン」がはびこるワケ
実は日本社会の縮図?
なぜ人手不足なのに余剰人員が発生する?
経済産業省はIT業界における人材の需給動向について試算を行った。それによると、需要の伸びを年平均2.7%、労働生産性の伸びを0.7%と仮定した場合、2030年には約45万人のIT人材が不足するという。今後、社会のIT化はさらに進むので、IT人材に対する需要が2.7%平均で伸びるというのは妥当な予測だろう。
だが同省では、条件を変えた別の試算も行っている。IT市場について従来型ITサービス市場と先端ITサービス市場に分け、市場ごとに人材需給について分析したものだ。
ちなみに従来型ITサービスというのは、ITシステムの受託開発、保守・運用などを行う、現在、主流となっているITサービスのことを指す。一方、先端ITサービスというのは、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)など、新しい技術を活用したITサービスと定義している。
試算によると、すべてのIT人材の中で、新しい技術にシフトできる人の割合が1%しかいなかった場合、2030年には、先端型人材は55万人不足し、従来型人材は逆に10万人も余剰になるという数字が出ている。もしこのような状況に陥った場合、深刻な人手不足と余剰人員の問題が同時発生することになる。
ここで注目されるのが、IT業界の産業構造である。
日本のIT産業は、先端的なイメージとは裏腹に、重層的な下請け構造が温存されており、前近代的であるとの指摘が少なくない。
年間4%の技術者を新技術にシフトさせるのは至難の業
日本政府はIT業界における大口発注者だが、政府から直接、大規模システムの開発や保守を受注できるのは、事実上、数社に限定されている。政府のシステムは入札で決定されるので、タテマエ上はすべての会社に門戸が開かれているが、現実的に未経験の企業が参入するのは困難である。民間であれば、試験的に新しい企業に発注してみるということが可能だが、政府の場合には、入札の公平性というタテマエがあり、こうした措置が実施できない。システム仕様についてほとんど情報が開示されない中での入札一発勝負となるので、新規参入の会社にはリスクが大きすぎる。
金融機関も政府と並ぶ大口顧客だが、官公庁のカルチャーに近く、直接、受注できる企業は限られてくる。このため、特定の大手企業が独占的にシステムを受注し、それを下請け、孫請け企業に外注するという流れが確立しており、これが生産性を引き下げる大きな要因の1つとなっている。
システムの受託開発を中心とするこれまでの時代であれば、この産業構造も大きな問題にはならなかったが、ここ20年で世界のIT業界は激変した。
基幹系のシステムまでがクラウド上に構築されるようになり、アプリケーションの開発は、アドホック(臨機応変、柔軟)な形にシフトしている。重層的な産業構造は機能不全を起こしつつあり、当然のことながら、新しい時代に対応できない人材が取り残されるリスクが高まっている。
先ほどの試算では、年間4%程度が新技術にシフトできれば、人材の余剰は発生せず、人手不足も緩和されるが、4%の人材を常に新技術にシフトさせるのは容易なことではない。
IT業界では、以前から技術標準が変わるたびに、技術者がそれに対応できないという問題に直面してきた。汎用機が主流だった時代にはCOBOLと呼ばれる言語が使われていたが、COBOLを習得した技術者のうち、かなりの割合が、C++やJavaといった新しい言語に対応できなかった。
今、起こっている変化は、言語やコンピューターのアーキテクチャー(基本設計)が変わるというレベルではなく、ITの概念そのものの変化を伴っているため、さらにギャップが大きくなる。従来以上に技術者のシフトが難しくなるという現実を考えると、1%の人材しか新技術にシフトできないという前提も大げさではないだろう。
実はこの話はIT業界だけにとどまるものではない。これからの時代はITの概念そのものが変わると述べたが、それはITを利用する側にとっても同じことである。
【次ページ】日本企業の内部に400万人もいる「働かないオジサン」
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