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  • 2019/10/17

「統合・再編」対象の病院リスト公表。医療費削減の“荒療治”、地方消滅に拍車の懸念

厚生労働省が医療費削減を目指し、統合再編の対象となる424の公立・公的病院の実名を公表したことに対し、全国の地方自治体から反発の声が広がっている。2025年度に団塊の世代が後期高齢者を迎え、医療費の急増が見込まれる中、病床数の適正化が思うように進まない背景があるが、公立病院は地域コミュニティーを支える存在だけに、統合再編となれば地域に混乱を招くばかりか、人口流出に拍車をかけることにもなりかねない。城西大経営学部の伊関友伸教授(行政学・地方自治論)は「日本は世界各国と比べて病床数が多く、削減の必要性があるが、実名を公表して統合や再編を求めるやり方は乱暴でないか」とみている。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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厚生労働省から統合再編の対象として実名を公表された徳島県鳴門市の徳島県鳴門病院
(写真:筆者撮影)

徳島県鳴門病院には県外からも通院患者

 午前8時55分、兵庫県南あわじ市の淡路島南インターチェンジ。近くに住む83歳の女性は半年に1回、ここから路線バスに乗り込んでいる。大鳴門橋を渡って県境を越え、徳島県鳴門市撫養町黒崎の徳島県鳴門病院で術後の定期検診を受けるためだ。

 女性は鳴門市撫養町小桑島のJR鳴門駅前でバスを降り、タクシーに乗り換えて鳴門病院へ向かう。県境を越すとはいえ、通院時間は30分足らず。いつも9時20分ごろには病院へたどり着く。

 昭和から平成へ時代が変わろうとしていた今から30年前、淡路島には医療設備の整った拠点病院が少なかった。女性は何度か大病を患ったが、その度に鳴門病院で治療を受けてきた。「県は違っても、私にとって近隣の拠点病院。それがなくなったら本当に困る」と不安を口にする。

 鳴門病院は全国社会保険協会連合会が運営する健康保険鳴門病院として1953年に開設された。2004年に問題となった公的年金流用問題で廃止の危機に直面したが、2012年に徳島県が買い取り、地方独立行政法人として再出発している。

 内科、外科、脳神経外科など14の診療科を持ち、病床数が約300床。鳴門市や近隣の板野郡だけでなく、兵庫県淡路島南部、香川県東部から通ってくる患者もいる。

 徳島県医療政策課は「徳島県内は6病院が公表されたが、いずれも地域の医療を支えている。特に鳴門病院は県外からの患者もいる県北部の拠点病院で、影響が大きい。唐突に病院名を公表する以外の方策はなかったのか」と厚労省の方針に反発している。



医療費削減へ「全国一律基準」で対象病院を選定

 厚労省が統合再編の対象となる病院名を公表するのは今回が初めて。全国には民間を含めて約8400の病院があり、うち公立・公的病院は1652。今回公表された424病院は公立・公的病院全体の3割弱に当たる。多くが地方でへき地医療を支える病院だ。

 対象とされたのは、心筋梗塞、脳卒中、救急など2017年度の手術や治療件数を人口規模で分析し、診療実績が一定規模を下回った病院。これらの診療機能を代替できる病院が近隣にある場合も対象に含め、大都市圏、地方に関係なく一律で線引きした。厚労省は都道府県などに対し、2020年9月までに対応策を示すよう求める方針。

 背景には医療費が急速に膨らむ中、病床数の適正化が進まないことへのいら立ちがある。厚労省は2016年度、将来の医療の需要見通しを示す地域医療構想を都道府県に作成させ、公立・公的病院の再編を促したが、期限の2019年3月までに大きな進展がなかった。このため、実名公表で病床数削減に本格的に乗り出す姿勢を示したわけだ。

 現状のまま推移すると、2025年度の病床数見込みは全国で121万8000床になる。地域医療構想で実際に必要とされる119万1000床より2万7000床多い。集中的な医療を提供し、診療報酬が高い「急性期」からリハビリをする「回復期」への病床転換が、経営上の理由で進んでいないことなどが影響している。

 OECD(経済協力開発機構)のまとめによると、日本の人口1000人当たりの病床数は2017年度で13.1床。加盟国の中で際立って高い。2016年の米国と比べれば5倍近く、2017年のドイツやロシアに比べても6割増の高い水準だ。

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 日本国内の概算医療費は2018年度で42.6兆円だったが、政府の試算では2025年度に47~48兆円、2040年度に66~70兆円に膨らむ見通し。国の財政は2018年末で1100兆円の借金を抱える危機的な状態だけに、厚労省は一刻も早く病床数を適正化し、増え続ける医療費に歯止めをかけたいと考えている。

 しかし、人口減少が続く地方では、公立・公的病院が雇用の場となるだけでなく、近隣住民に安心感を与えている。統合再編されれば、人口流出に弾みをつけ、地方創生に水を差す可能性もある。

【次ページ】北海道は道内にある公立・公的病院の約半数が対象に。地方の医療はどうなる?

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