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  • 2020/08/14 掲載

コロナ時代の学び、変わってしまった世界でいま「ブリコラージュ」が役に立つ

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今回のコロナショックを切っ掛けに、ビジネスパーソンは何を学ぶべきなのか。教育・研修やコンサルティングを中心に多数の業界で活動し、パラレルキャリアの先駆者でもある実践教育ジャーナリストの矢萩邦彦氏が、これからの時代をより善く「生きる力」について、“抽象力”という切り口で語った。

スタディオアフタモード代表 矢萩邦彦

スタディオアフタモード代表 矢萩邦彦

1995年より教育・アート・ジャーナリズムの現場で「パラレルキャリア×プレイングマネージャ」としてのキャリアを積む。1万5000人を超える直接指導経験を活かし「受験×探究」をコンセプトにした学習塾『知窓学舎』を運営、実践教育ジャーナリスト・教育カウンセラーとしても活動。株式会社スタディオアフタモードでは人材育成・メディア事業に従事、教養の未来研究所では「教養・複業・ゲーム」をテーマとした研究を軸に、キャリアコンサルタント・クリエイティブディレクターとして企業の未来戦略やブランディングを手がけている。一つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を目指し探究する独自の活動スタイルについて、編集工学の提唱者・松岡正剛より、日本初の称号「アルスコンビネーター」を付与されている。Yahoo!ニュース個人オーサー。グローバルビジネス学会・キャリアコンサルティング技能士会所属。主な編著書に『中学受験を考えたときに読む本』(洋泉社)など。

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先のまったく見えなくなった時代、どう生きていくべきか
(Photo/Getty Images)


「変化の常態化」という新たな前提

 この十年あまり、経済界において「予測不可能な社会を臨機応変に生きる力」の必要性が叫ばれてきた。しかし、そのような人材を確保することも育成することも簡単なことではない。そこで、いよいよ文科省は戦後はじめて「社会からの要請」による教育改革に着手することになったわけだが、現場では具体的な施策がないまま混乱を窮めていた。

 そこに、追い打ちをかけるように今回のコロナで、業界を問わず大混乱になった。その混乱自体に、私たちがこれから学ぶべきことと、それを阻む構造的な問題が浮き彫りになっているように見える。

 コロナ禍において、臨機応変に動いた組織や人材と、動けなかった・動かなかった組織や人材は明確に二分したが、一体この違いはどこにあったのだろうか。

 クリティカルに考えれば、予測不可能な状態はこれから先も続くと考えるのが無難である。たとえワクチンが開発されたとしても次の新型が現れるリスクは無視できない。つまり構造的に終わりが設定できないわけだ。誰もが当事者で有り続けている状態も、今まで私たちの世代が経験したあらゆる災害とは一線を画す。

 いつ状況が変わるか分からない「変化の常態化」が、新たな前提となりつつある。あらゆる事態を想定し、柔軟に対応できなければこれからの社会で組織を運営することは難しくなるだろう。

 特に「中期計画」は存在意義から考え直す必要があり、目標や仕様を改善しながら進めるプロジェクトベースの「アジャイル」はIT業界に留まらず、あらゆる業界に浸透していくと考えられる。変化を当たり前として捉え、臨機応変にプロジェクトを動かしていく力がこれからの組織における「生きる力」だといえるだろう。


学校では身につかない「抽象力」

 有事の際、臨機応変に動くためには抽象力が必要である。マニュアルにない事態に対処するためには、自分の知識や経験を越境横断して、似ているケースを見つけて検証し、妥当と思われる方法を抽出して行動計画に落とし込む必要がある。その際行われていることは、抽象化と具体化である。

 私はパラレルキャリアの一環として、教育業界に1つの軸足を置いているが、現状の受験と連動した学校教育では「抽象力」すなわち「抽象化する力」や「抽象的に考える力」は圧倒的に身につきにくいと感じている。一般的に説明は具体的であるほど分かりやすい。だから、多くの教師はできる限り具体的に説明しようと心がける。そして、生徒たちのアウトプットにも具体性を求める。

 なぜなら、具体的でなければ定量的な評価ができないからだ。この構造により、学校では「具体的な理解」や「具体化する力」ばかりが強化されて、マニュアル人間を輩出し続けていると考えられる。

 しかし、「なんとなく」や「たぶん」という学校現場ではほとんど評価されることのない直観が、予測不能な事態に対処するためには絶対的に必要なのである。文科省の言う「生きる力」とはまさに抽象と具体を行き来して実行する能力のことではないか。そこに気づかずに「答えのない問い」に立ち向かう教育など出来るはずがないのだが、まだまだ現場では混乱が続いている。

「抽象化して方法を抽出する」ということ

 私は「アルスコンビネーター(ArsCombinator)」という変わった肩書きを持っている。“Ars”はラテン語で技術、芸術を指す単語で、編集工学の提唱者である松岡正剛氏に名付けていただいた肩書だ。多種多様な業界に関わり続ける中で方法や型を理解し、他の業界や職種に生かし合うことで相乗効果を興す役割を担っている。

 まさに抽象と具体を行き来して編集することが職能の中心となる。多業種を越境して戦略的に「気づき」を得て、パーツとして実装するわけだ。

 たとえば、ラジオの番組作りの方法を抽出して、教育現場に持ち込み授業として具体化する、といった具合だ。このコロナ禍では特にこの方法は役に立った。意外に思われるかも知れないが、寿司職人の方法論からもウェビナーやオンライン授業に役に立つものがたくさんあった。

 方法を取り出す際、具体と抽象を二極化して考えてはダメで、その間には繊細なグラデーションがある。たとえば「レモン」と「生物」の間を考えてみたい。「果物」「植物」はすぐに思いつくだろうが、もっと細かく見たらどうだろうか。「黄色い果物」「酸っぱい果物」「ビタミンCが豊富な果物」「ミカン科」「柑橘類」「常緑樹」……とまあ、コツさえ掴めばいくらでも挙げられるだろう。

 次に、それらを実際に抽象度の高低順に並べてみてほしい。どういう位置関係になるだろうか。並べてみればすぐに、それらが直線上に並ぶわけではないことが分かる。ほぼ同じ抽象度のものが横展開していくからだ。

 そういった同じくらいの抽象度を探究することで、抽象化の精度を上げることができる。方法を抽出して別の分野で活用する際に、同じくらいの抽象度にできれば扱いやすい。「方法」として有用な抽象度を捉えることは容易ではないが、そのようなトレーニングが多くの分野で必要になってくるだろう。

【次ページ】対応する日本語がない単語、「ブリコラージュ」

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