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  • 2021/03/04 掲載

「絶望的に低いスタート地点」からDX企業に生まれ変わるには?運送会社のケース

連載:「日本の物流現場から」

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DX(デジタルトランスフォーメーション)そのもののハードルが高い上、一般論ではあるが運送会社の多くはITリテラシーも低く、事業企画や業務改善などの経験が乏しい(詳細は前回の記事を確認)。運送会社にいる筆者の知人は、「絶望的にデジタル化のスタート地点が低い運送会社に、DXなんて荒唐無稽だ」と言い放った。だが、そんな企業でもDXに取り組む方法はある。筆者が携わったプロジェクトの経験を基に運送会社がDXに取り組む方法を具体的に解説する。この方法論は、運送業界以外のデジタル化が遅れている業種でも活用できると信じている。

執筆:物流・ITライター 坂田 良平

執筆:物流・ITライター 坂田 良平

Pavism 代表。元トラックドライバーでありながら、IBMグループでWebビジネスを手がけてきたという異色の経歴を持つ。現在は、物流業界を中心に、Webサイト制作、ライティング、コンサルティングなどを手がける。メルマガ『秋元通信』では、物流、ITから、人材教育、街歩きまで幅広い記事を執筆し、月二回数千名の読者に配信している。

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どうすれば、デジタル化が遅れている状態からDXを実現できるのか。物流企業へのコンサルティングも行う筆者が、具体的ノウハウを語る
(Photo/Getty Images)

「痛み」を起点に業務改善に着手した運送会社の例

 ある運送会社(以下、A社とする)は、自社でトラックを保有しない、いわゆるノンアセットの運送会社であった。運送は協力会社に委ねているのだが、いくつか課題を抱えていた。

  1. 運送実績については、原則として協力会社側からの自己申告に頼っており、正確な運行実績を把握する方法がなかった。
  2. 協力会社からの申告に基づき請求明細を作成していたが、ボリュームが膨大であり、請求業務に非常に大きな手間がかかっていた。

 A社の仕事は特殊だった。製品の生産計画があいまいな上、「その日生産されたものは、すべて出荷すること」が原則だったのだ。とは言え、協力会社のトラック台数は有限である。そのため、生産数が多いときには、トラックが2往復、3往復する必要があった。A社では、協力会社の実運送実績を正確に把握することはできなかったため、協力会社からの申告に基づき、運賃を支払っていた。だが一部の協力会社は、運送実績をかさ増しし、不正請求を行っている可能性があった。そのため、GPS機器を協力会社のトラックに搭載してもらい、請求明細を検証することを考えたのだが、そこで行き詰まってしまった。

 日々100台以上の稼働している協力会社のトラックから得たGPSログに対し、一台ずつ網羅的に検証する手間をかけることは、A社の体制上、不可能だった。それでなくとも、事務員の皆さんは、膨大な請求明細の作成に多大な労力を費やしていた。この上、GPSログを目視でチェックするリソースを生み出すことは難しい。

 筆者がこの相談を受けたのは、10年近く前のことである。今であれば、スマートフォン・アプリを利用した、安価で使い勝手の良いトラック用動態管理ツールも豊富だが、当時は適当なツールがなかった。そこで筆者は、運行実績一覧を表形式でアウトプットするExcel VBAを書き上げた。ランナーなどが利用するスマートフォン用の無料GPSトラッキングツールを利用してGPSログを取得、解析し、配送先のみならず高速道路利用の有無なども示すものだ。さらにその一覧表から、請求明細も作成できるようにした。


 A社に関して言えば、失礼ながらITリテラシーが高い人もおらず、また業務改善に長けた人もいなかった。だが、業務上の課題、つまりは痛みに対し、「これでは良くない」という問題意識をきちんと認識していたこと。そして、その痛みを放置することなく、外部人材(この場合は筆者)に相談したことが、業務改善の実現へとつながったのだ。

 運送会社がDXに取り組む上で大切なのは、ここで挙げた「痛みをきちんと認識すること」と「外部人材を適切に活用すること」であると、筆者は考えている。

「DXにこだわりすぎないこと」が、DXへの道を拓く

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DXレポート2に掲載された「DXの構造」に、筆者の補足を加えたもの

 前回の記事では、「DXが抱える最大の課題は、『難しい』『分からない』」であると指摘した。DXレポート2では、十分とは言えないものの、DXを噛み砕いて説明しようという姿勢を伺うことができる。その1つが、図表に挙げた「DXの構造」である。

 DXを以下の3つにフェイズ分けし、企業や組織の成熟度などを考慮し、自社(自組織)にマッチしたDXへのアクションをデザインできるように、この「DXの構造」を用意したと、DXレポート2では説明している。

フェイズ1:デジタイゼーション(Digitization)
フェイズ2:デジタライゼーション(Digitalization)
フェイズ3:デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)


 デジタイゼーション(フェイズ1)は、紙などのアナログデータをデジタル化することを指す。デジタライゼーション(フェイズ2)は、「個別の業務・製造プロセスのデジタル化」と説明されている。ただ、デジタイゼーションとデジタライゼーション、つまりフェイズ1とフェイズ2の境界は、ややぼんやりとしている。というのも、アナログデータをデジタル化した場合(=デジタイゼーション)、実際は何かしらのシステムが介在し、業務プロセスのデジタル化が実現したケース(=デジタライゼーション)もありうるからだ。

 デジタイゼーション(フェイズ1)とデジタライゼーション(フェイズ2)を隔てるものは、プロセスのデジタル化に加え、デジタル化によって、生産性向上などの、業務改善・変革に該当する明確なプラス要因の変化があったかどうかで考えるべきであろう。

 「絶望的にデジタル化のスタート地点が低い運送会社に、DXなんて荒唐無稽だ」だと言った知人の発言は、とても悔しくはあるが、運送業界の課題を突いている。だが、スタート地点が低いことは、DXを諦めることにはつながらない。低いならば低いなりに、できることから一歩ずつ着手すれば良いのだ。

 たとえば、口頭とFAXで、配送依頼を受け付けている運送会社は、FAXを紙出力からデータ受信に切り替えるところから、DXへの取り組みを開始しても良い。世の識者の皆さまからは、「そんなものはDXではない!」とお叱りを受けそうだが……。

 ただし、以下のポイントには留意すべきである。

  • そこに、痛みが存在するかどうか?
  • その次に行うべき取り組みが、ぼんやりでもいいので見えているかどうか?

 FAXを紙出力で受信していることに、なんら不便を感じておらず、課題も存在しないのであれば、そこから着手すべきではない。何故ならば、痛みは、次の改善であり変革に対する、道しるべであり、モチベーションとなるからだ。同様の意味で、次に行うべき取り組みが見えていないのであれば、それはDXでない。フェイズ1の「デジタイゼーション」から取り組むのは、最終的にフェイズ3「デジタルトランスフォーメーション」へと昇華させるためである。昇華させる道は、明確でなくても一向に構わない。だか、まるで見えないと言うのであれば、それは考えものである。

 余談だが、残念なことに、現在、「うちのシステムを導入さえすれば、DX対策はバッチリです」などといった売り込みをかけているシステムベンダーが現れている。システム導入をしただけでDXを達成できることなどありえない。システム導入を起点に、業務改善・変革(フェイズ2「デジタライゼーション」)が発生し、さらに全社的な業務変革、ビジネス変革へとつながって、初めてDXにつながるのだ。DXの本質を歪めるようなシステムベンダーの甘言にだまされることのないよう、ぜひ気をつけていただきたい。

【次ページ】痛みの発見は、外部人材を上手に活用すべき

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