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  • 2021/02/12 掲載

セールス・イネーブルメントとは? 第一人者・山下氏が解説「営業DXの先」

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「セールス・イネーブルメント」という言葉が日本でも広がりつつあり、すでに全社的に取り組んでいる日本企業も増えている。なぜセールス・イネーブルメントが注目されているのか、具体的にはどのような取り組みなのか、企業規模で取り組み方はどう変わるのか。セールス・イネーブルメントに特化したサービスを提供しているR-Square & Companyの山下 貴宏氏に、セールス・イネーブルメントに関するさまざまな疑問に答えてもらった。
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R-Square & Company
代表取締役社長 共同創業者
山下 貴宏氏

日本ヒューレット・パッカードに入社し法人営業を担当。その後、船井総合研究所、マーサージャパンを経てセールスフォース・ドットコムに入社。セールス・イネーブルメント本部長。日本および韓国の営業部門全体の人材開発施策、グローバルプログラムなどの企画・実行を統括。イネーブルメント部門の規模を4倍に拡張し、グローバルトップの営業生産性を実現。2019年にセールス・イネーブルメントに特化したスタートアップR-Square & Companyを立ち上げ、大手企業から中堅企業まで数々の企業でイネーブルメント組織の構築に尽力。セールス・イネーブルメントをテーマとした講演実績多数。著書に『セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方』(かんき出版)がある


営業DXの現在地は? セールステックの限界

 セールス・イネーブルメントについて考える前に、これまでの「営業DX」について振り返ろう。山下氏は、「DXにオフィシャルな定義はありませんが、あえて営業という視点で整理したものを『営業DX』と呼ぶとすると、それはテクノロジーを活用し、営業組織を顧客ニーズに適応させながら、新たな価値創出ができるように変革していくことです」と説明する。

 では、セールス・イネーブルメント以前の営業DXとは、具体的にはどのような取り組みだったのだろうか。一言でまとめると、顧客への価値提供プロセスにおいて、MA(マーケティングオートメーション)、ABM(アカウントベースドマーケティング)、オンライン営業支援システム、SFA(営業支援システム)などを活用して、最終的には顧客の成功(カスタマーサクセス)へ導く活動だったと言える。

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MA、ABM、SFAなどのセールステックによるこれまでの営業DX。顧客との関係構築と成果と行動の管理が主眼だったが、これでは課題が残る

 ここに挙げたセールステックをフルセットで使いこなしている企業はそれほど多くないのが現実だ。しかし、セールステックが目的としている顧客との関係構築および営業パーソンの成果・行動管理に取り組んでいる企業は増えてきている。

 だが、セールステックの活用だけでは解決しきれない営業課題も多い。ITRの2019年11月の調査データによれば、「販売方法の属人化」「営業人員の不足」「営業担当者ごとの大きな売り上げの差」などがその課題だ。「セールステックによって営業業務が効率化する一方で、営業の質の改善には踏み込めていないのではないかとデータからは読み取れます」と山下氏は分析する。


セールス・イネーブルメントとは? 今注目される理由

 どうすれば「営業の質の改善」につながるのだろうか。山下氏は、「成果・行動・知識/スキルの3つがセールス・イネーブルメントの必須コンセプトであり、そこまで踏み込んでいく必要があります」と語る。

 これまでは成果と行動を管理する方法はあったが、知識/スキルに踏み込んでいくアプローチがあるようでなかった。セールス・イネーブルメントは、まさに営業パーソンの知識/スキルに踏み込んでいくアプローチなのである。

 セールス・イネーブルメントの最大の特長は、育成の成果を営業成果で検証できるようになることである。

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セールス・イネーブルメントによって、これまで実現が困難であった育成成果の数値的な検証ができるようになった

 育成の投資対効果が見えることで、「プラスの成果が出ている育成の取り組みであれば、さらに投資しよう」という経営判断ができるようになる。これこそが、セールス・イネーブルメントが注目され、組織的に取り組む企業が増えている理由なのである。

 海外では、営業部門だけでなく、顧客サポート部隊へのイネーブルメント(カスタマーサクセス・イネーブルメント)、パートナー企業との協業へのイネーブルメント(パートナーセールス・イネーブルメント)などがすでに始まっている。

 米国ではセールス・イネーブルメントに携わる人材は、この3年で3倍に増えた。専門性が高いため給与水準も高いことが魅力だ。営業管理職の平均年俸が77,503ドルであるのに対して、セールス・イネーブルメント職は96,491ドルに達している(2020年11月10日現在)。

なぜ、従来の育成施策はうまくいかないのか

 イネーブルメント(Enablement)は、ピッタリと当てはまる日本語が見当たらない言葉だが、辞書的には「~できるようになること」と訳されている。

 山下氏は「セールス・イネーブルメントとは、成果起点の営業人材育成のことだと捉えてください」と説明する。成果を出す営業社員を輩出し続ける人材育成の仕組みとも言える。

 日本企業ではセールス・イネーブルメントを推進する組織を、英語そのままで「セールス・イネーブルメント部」と呼んだり、「営業人材開発部」「営業組織開発部」などと呼んだりすることが多い。本稿では以下、セールス・イネーブルメントチームと呼ぶ。

 山下氏は「育成施策の本来の目的は、組織としての成果を達成することです」と強調する。そのためには、達成したい成果を起点とし、必要な行動を定義し、それに必要な知識/スキルを考えるといった連鎖的な考察が必要だ。知識/スキルが定義できれば、それを習得するためのトレーニングを実施し、習得できたかを確認、実際に行動が変わったかを検証、その結果として求めていた成果が達成されたかを評価すれば良い。

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営業育成のサイクル

 言われてみればあたりまえのことだが、このサイクルが回っていない企業がほとんどであると山下氏は指摘する。ミクロ的な視点で見れば、成果起点で育成施策が計画されていない、トレーニングが一般的過ぎたりすぐに使えないものだったりして現場感がない、トレーニング後のフォローがない、トレーニングの効果測定ができていないなどが主な原因である。

 また、マクロ的な視点で見れば、各部門で個別最適なトレーニングを行っていて、全社で一貫したプログラムになっていないことがうまくいかない原因だ。

 セールス・イネーブルメントには、営業部門だけでなく、経営企画部門、IT部門、人事部門なども関わることになるが、たとえば人事が営業のプロセスを見て、トレーニングの提案をする企業はほとんどない。関連部門が連動していないのである。では、どうすれば連動するようになるのだろうか。

【次ページ】セールス・イネーブルメントチームの取り組みと専任チームの必要性

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