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- 2021/02/19 掲載
Andy Jassy(アンディ・ジェシー)氏とはいかなる人物か? 新アマゾンCEOに直接対面した筆者が見た横顔
キーワードは「アマゾンの再発明」
今回、ベゾス氏がジェシー氏を後継者に選んだ理由はほかでもない。AWSをアマゾン全体の63%という圧倒的な利益を生み出す企業へと押し上げた成果を評価したものである。ジェシー氏は、ベゾス氏のビジネス哲学を実践し、もともとはEC事業を運営する社内システムだったクラウドをAWSとして切り出した。20年近くを経て、いまや年間500億ドルのビジネスに育てた。
アマゾンがEコマースの巨人、AWSはITインフラの巨人と分けて考えがちであるが、実態はAWSが生み出す利益を、小売り、ロジスティックス、ストリーミング、人工知能(AI)などを用いたアマゾンのビジネスの革新につなげるという図式になっている。
今回は、切っても切れないこの関係が、アマゾンの公式の組織図へと反映された結果と言える。ご存じの通りアマゾンはオンランイン書店から始まり、世界最大のEC、動画エンターテインメントを含むコンテンツビジネス、新聞社の経営に至るまで、絶え間ない発展を遂げてきた。
ジェシー氏はこうした経緯を、AWSの年次イベント「re:Invent」において、イベント名のままの「再発明」という言葉で説明している。2020年12月のオンライン開催では「長期間ビジネスを持続させることは非常に難しく、実現するためには何度も自分自身を再発明する必要がある」と強調した。
ジェシー氏による再発明の手腕を、アマゾン全体へと展開することで、変化の激しいグローバル市場でのアマゾンの存在感を確実に高める狙いがある。
加えて、2021年7月にエグゼクティブチェアマンに就任するベゾス氏は今後、「Day 1 Fund(ホームレスの家族の支援と教育分野を支援する慈善基金)、Bezos Earth Fund(地球温暖化対策を目的とするベゾス地球基金)、Blue Origin(航空宇宙企業)、The Washington Post、そして他の情熱に注力する」と従業員向けのメールで話し、ブログでも公表している。
「引退ではない」と強調していることからも、今後も一歩引いたところから経営にかかわっていくことが分かる。
ジェシー氏に経営を任せる一方で、たとえば有力なライバルが登場すれば買収して取り込んでしまうなど、攻めと守りの両面で今後もベゾス氏が、外へのにらみを利かせるかもしれない。
ジェシー氏の横顔
文句のつけどころない業績は理解したが、新CEOとなるジェシー氏はどんな人物なのか。就任が公表されて以降、米系メディアもこぞってこの話題を取り上げている。ハーバード大でMBAを取得後、1997年のアマゾン入社以来、AWSをゼロから立ち上げ、2016年のAWSのCEOに就任、ベゾス氏の「影のアドバイザー」として活躍してきた。
ベゾス氏はジェシー氏を「傑出したリーダーになる」と高く評価しているといったところは、共通した報道内容である。
CNNは2020年アマゾンの委任勧誘状を引用し、2019年のジェシー氏の総報酬額が3488万ドルで、ベゾス氏の基本給である170万ドルを大きく上回ったと報じた。Business Insiderは、米マイクロソフトがかつてのCEOだったスティーブ・バルマー氏の後任として打診したこと、また、UberがCEOへの就任をジェシー氏に要請したとのうわさ話を紹介している。
また、ツイートからもジェシー氏の人柄が見えてくる。2020年9月には、警察官による黒人救急救命士の銃撃事件についてツイートするなど、Black Lives Matter(人種差別抗議運動)やLGBT支援について、公に明確な意見を表明している。
一方で、2019年に、アマゾンが「欠陥のあるアルゴリズム」(肌の色が濃い女性の顔認識エラーが高いなど)を含む顔認識技術を警察や政府に販売するとの決定を、ジェシー氏が擁護したとの一件を、The Vergeは指摘している。その後、アマゾンは2020年6月に、この技術を法執行にかかわる機関に販売することを自粛すると発表している。
実はこのコラムを書いている筆者自身が、以前上級副社長時のジェシー氏来日の際、個別インタビューしたことがあった。物静かで理知的な人といった印象を持っている。東日本大震災から間もない時期で、日本では特にクラウドシフトは限定的との見方が強かった中、深い技術知識で丁寧に質問に答えてもらった。「思った以上に速くクラウド化は進みそうだ」と感じた記憶がある。
【次ページ】DXレポート2から眺めるJassy’s アマゾン
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