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  • 2010/04/09

【連載】ザ・コンサルティングノウハウ(14):ATACサイクル

新しいコンサルティングノウハウを生み出す

社内コンサルタントの育成を目指す企業が増えている。その狙いは、経営に資するIT戦略の策定や、コンサルティング営業による勝率・利益率の向上、グローバルグループ会社に対する本社支援力の強化などさまざまである。しかし多くの企業では、コンサルタントの育成はうまく進んでいない。この理由は、コンサルタントが、分析技法や方法論などの技術修得によって育成されるという誤解にある。コンサルタント育成に重要なのは、技術ではなくノウハウである。この連載では、コンサルティング会社の実態をもとにしたストーリー形式で、コンサルティングノウハウの存在とパワーを示す。

アクト・コンサルティング 取締役 経営コンサルタント 野間 彰

アクト・コンサルティング 取締役 経営コンサルタント 野間 彰

アクト・コンサルティング 取締役
経営コンサルタント

1958年生まれ。大手コンサルティング会社を経て現職。
製造業、情報サービス産業などを中心に、経営戦略、事業戦略、業務革新、研究開発戦略に関わるコンサルティングを行っている。主な著書に、『ダイレクトコミュニケーションで知的生産性を飛躍的に向上させる研究開発革新』(日刊工業新聞社)、『システム提案で勝つための19のポイント』(翔泳社)、『調達革新』(日刊工業新聞社)、『落とし所に落とすプロの力』(リックテレコム)、『団塊世代のノウハウを会社に残す31のステップ』(日刊工業新聞社)、『ATACサイクルで業績を150%伸ばすチーム革命』(ソフトバンク クリエイティブ)などがある。

アクト・コンサルティング
Webサイト: http://www.act-consulting.co.jp

これまでの連載

ATACサイクル

 製造業A社の最終報告会の日が近づいてきた。

 報告書は、シニアコンサルタントの岩崎の指示をうけて、山口が作った。報告のポイントの1つは、新技術活用による既存事業のさらなる拡大方法である。そして、もう1つは、新技術を活用したサービス事業拡大である。サービス事業拡大の中で、サービス拠点や支援システムなどの基盤整備方法に関しては、山口が主体的にまとめることになっていた。山口は、手帳に書いたクリエーション・テーマ「競争相手に勝つグローバル・サービス基盤を2年以内に完成させる方法」を、何度も考え、顧客と議論し、顧客社内外の事実で妥当性を実証してきた。そして、最終報告当日の一部始終を、全て頭の中で描けるまで、一切報告書の作成に着手しなかった。「詰め切るまで動くな」を実践したのだ。最終報告を目前に控えたある日、山口は岩崎からレビューを受けることになった。

「君の発表時間は、20分だ。どうする」

「新技術を採用した製品で、競争相手よりも大きな原価低減を果たし、高い価格競争力で普及初期に高いシェアを取ることは可能でしょう。しかし、今回の競争相手調査で、サービス基盤である、グローバルなサービス拠点数、人員数、サービス支援システムの構築で、A社は競争相手に大きく差をつけられていることがわかっています。新製品の市場展開に合わせて、サービス基盤を拡充するためには、各国のサービス会社の買収と、支援システムの早期開発が必要です。A社には、これらを実施するだけの潤沢な資金があります。A社がサービス基盤整備で遅れたのは、経営者のアテンションが、モノ作りに過度に集中していることが原因です。これには、海外のサービス事業に関わる競争相手の情報が、把握できていなかったことが背景にあります。今回我々の調査によって、A社経営者は、競争相手に対する遅れはすでに認識しました。これによって、経営者のアテンションがグローバルなサービス基盤確立に向けられることは間違い有りません。つまり経営者の気持ちを変えるという意味で、コンサルティングはすでに成果を上げています。しかし、新技術の製品化と同期したサービス基盤拡充で、競争相手にサービス事業で勝つためには、2年の間に競争相手を凌駕するサービス基盤確立をやり遂げなければなりません。成功要件は、責任者アサインと社員の意識改革、そして時間を買うことです」


 岩崎は、黙って聞いていた。山口は続けた。

「まず責任者のアサインですが、現在サービス事業は担当役員が兼務で、実質の推進は部長クラスが担っています。成長目標も、市場で優位なポジションを達成するようなものではありません。役付き役員クラスを専任でアサインし、競争相手に勝つ目標を与えることが重要です。2年間の革新目標は、調査によって明らかになった競争相手の中期目標と、施策の期待効果から求められます。専任の役員は、この目標達成で評価されます。また社員の意識改革は、サービス事業に携わる社員に、現在の『製造販売事業のおまけ』的な認識を改めさせ、この事業が将来の利益の柱になることを理解させ、難解な課題に前向きに挑んでもらうことが目的です。まず、重要なポストの人材を再評価し、必要なら大胆な人材再配分を行います。既存事業のエースを、サービス事業の要衝に配分しなければならないでしょう。ポスト別の人材ビジョンは、すでに作成し、顧客人事部でレビューしてもらっています。意識改革は、革新目標を現場に展開し、目標達成に連動する部門目標を明確化すると共に、達成度と人事評価を連動させることで実現します。サービス事業の拡大では、現状の延長線上にない革新策の実施と、既存事業とのリソースの取り合いなどの摩擦に対応することが求められます。意識改革は、これに耐えるタフな人材を養成するために重要です」

「サービス基盤の早期拡充方法は」

「それが、時間を買うことです。まず拠点ネットワーク構築のスピード向上は、世界の各地域に存在しているオペレーション会社の買収によって行います。競争相手は、昨年から買収型の拡大に戦法を変えてきていますが、それまでは自前のネットワーク構築を行ってきました。そのため、世界中に、競争相手と競争関係にある、彼らが手をつけていない会社が存在します。買収候補企業のリストは、作成済みです。サービス事業を支援するシステムの構築は、類似するシステムを開発した実績のあるグローバルシステム開発会社の活用で可能ですが、A社側にそれをマネジメントできる人材が必要です。現在A社には、このような人材はいません。開発から運用、保守と10年は続く仕事です。ヘッドハントによる人材の外部調達が必要です。異業種ですが、幾つかの企業で、類似するグローバル・サービス・システムを構築した経験のある企業があります。これらの会社のシステムは、安定期に入っており、システム企画・開発のマネジメントができる人材を調達するにはうってつけです」

「社長がコンサルティング結果を採用するにあたっての、『意思決定課題』は何だ」

「競争相手との差が明らかですから、A社社長は基本的にはやろうと考えるでしょう。ただ、企業買収、ヘッドハントは、まだA社では経験の少ない施策です。社長は『成功するだろうか』と不安になるでしょう。この不安を解消するのが、意思決定課題です。これには、2つのメッセージを示します。1つは、『不安でも、とにかく成功させないといけないでしょう』というメッセージです。このメッセージで、社長に、A社の潜在力を今回の革新に集中さる覚悟を決めていただきます。このメッセージは、競争相手にすでにつけられている差と、これに対する顧客の評価、今回設定した施策による期待効果を示すことで正当化します。もう1つのメッセージは、『不安の解消はできます』というメッセージです。すでに、社内から企業買収とヘッドハント推進上の重要課題を抽出し、先行企業調査を中心に課題解決策を策定しています。重要課題は、まず買収した企業の早期立ち上げ、グローバル・グループでのシナジーの達成です。方法は、すでにアジアで5年の実績がある買収企業のオペレーションを基に、買収後の立ち上げプログラムの策定を行い、専門の立ち上げ指導チームを編成してこのプログラムを普及させることです。買収企業の立ち上げプログラムの雛型は、現在クライアントに作成してもらっています。もう1つの重要課題は、ヘッドハントした人材に、社員との軋轢を作らず、持てる力を最大限出してもらうことです。先行事例調査によって、社内にない能力をヘッドハントする場合の成功要件を調べました」


 その後2人は、革新策を実行する組織体制について議論した。

「わかった。今回のコンサルティングが終了した後、フェーズ2ではサービス事業強化戦略のコンサルティングを提案することになる。これのプロモーションの準備もしておいてくれ」

 岩崎は、最後に山口に一言こういった。岩崎は山口を、一言も誉めなかった。しかし、山口の案に対して岩崎は何の文句も言わなかった。常にダメだしを食らっていた山口にとって、これは初めてのことだ。山口は、岩崎に新米コンサルタントとして認められたことを実感した。 A社の最終報告は、無事に終了した。報告会の最後に、社長は全役員の前で、提案どおりに施策を実施すると言った。また、岩崎と山口に、引き続きA社のサービス事業戦略策定支援の依頼があった。

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