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  • 2016/05/30 掲載

「ホンダ流ワイガヤ」実践のコツと方法を、元ホンダ 本間 日義氏にインタビュー

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ネガティブな空気がうずまき、なかなかイノベーションを生み出せない現代の日本。その根本原因は、デフレで委縮する個人のマインドにあるという。『ホンダ流ワイガヤのすすめ』の著者である本間 日義氏は、主観、個の考えこそがイノベーションの出発点であるとして、それを集団で育んでいく「ワイガヤ」型の開発を提唱する。その実践方法とともに、本間氏の日本再生への思いを聞いた。
(聞き手/構成:編集部 中島 正頼)



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R&D HOMMA 代表
本間 日義氏

1949年生まれ。1970年に本田技研工業に入社、本田技術研究所車体設計配属。シティ、シビック、アコードなどの車体設計開発プロジェクトリーダーを担当する。1990年、本田技研工業転属。四輪推進本部戦略立案スタッフ(HAST)となる。1995年、本田技術研究所転属、ロゴ、アヴァンシアなどの開発LPL担当する。2000年に本田技研工業転属になり四輪事業本部商品開発総責任者(RAD)として、フィット、モビリオ、スパイク、エアーウェーブ、インサイト、ライフなどの開発を担当する。2005年にホンダアクセス常務取締役就任。2009年に定年退職。2010年、R&D HOMMA代表として、講演、執筆、コンサルタント、社外取締役などの活動に携わる。

大ヒット商品の裏側にあった「ホンダ流ワイガヤ」とは

──まず、ご経歴からお聞かせください。本田技研工業(以下、ホンダ)に入社された経緯は?

本間氏:学生時代のある日、新聞でホンダの全面広告を見たんです。メキシコでF1初優勝したという(1965年10月)。日本にこんなことを実現できる会社があるのかと思って、「ホンダへ入りたい」と直感的に思いました。

──クルマがお好きだったんですか。

本間氏:好きでした。運転した経験はありませんでしたけどね。しかし、就職試験を受けたのはホンダだけです。入社した1970年当時、ホンダは中小企業からようやく抜け出そうとしていたところでした。成績は悪い方ではなかったので「クルマが好きならもっと大きな会社があるじゃないか」と周囲からは言われたのですが、聞く耳を持ちませんでした。創業者を始め、何かあの会社の発する「匂い」が好きだったんです。数々のクルマの企画開発に携わることができ、おかげで定年までまったく退屈せずに過ごせました。

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『ホンダ流ワイガヤのすすめ 大ヒットはいつも偶然のひとことから生まれる』
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──その経験から著書の『ホンダ流ワイガヤのすすめ』が生まれたのですね。「ホンダ流ワイガヤ」とは、そもそもどのような方法論なのでしょうか?

本間氏:ワイガヤとは、ホンダで昔からよく行われてきたミーティング手法のことです。ちょっと堅い表現で言えば、「集団的な議論を重ね、物事の本質に深くアプローチし、結果として高い価値やイノベーションを生み出すための効果的なミーティング手法」でしょうか。

 その語源は、「ワイワイガヤガヤ」。そこからなんとなくお分かりいただけるかと思いますが、基本的には、「課題やテーマを共有しながら、自由にざっくばらんに話し合い、深いところにある答えを探り出していく」という方法です。

 話し合いを活性化させて、新しい価値や解決策を生み出すだけに留まらず、参加したメンバーの意思が通じ合うようになり、会議や打ち合わせ以外の時間でも良好なコミュニケーションがとれるようになります。そして、部門を超えた協力者が次々と増えていき、ひいては全社的なムーブメントを巻き起こすのです。

「集団的主観知性」の再生こそが日本を救う手段

──今、日本はネガティブなニュースが多く、イノベーションがなかなか生まれにくい状況のように感じます。大企業であっても、「ホンダ流ワイガヤ」で自由闊達な空気を作ることが、ますます重要になるのかもしれません。

本間氏:まったくそうですね。この風潮は偶然ではなく、私たちは今、デフレマインドという大きな潮流の中にいるのだと思います。多くの企業は、デフレの結果としてGDPが伸びず、現状を維持するために結果指標を守ることにあくせくしています。そこにいる個人そのものも、極端にリスクを恐れ、従来どおりのオペレーションをうまく遂行することだけを目標としています。この沈んだ空気を自ら読みにいく感じですね。リスクを冒して失敗でもすれば、ひどく怒られて、よってたかって叩かれるからです。デフレの結果と原因が互いにリンクし合ってまるでデフレ地獄の状況です。

 しかし、これからの若い人、これからの日本がそれではまずいでしょう。この状況を変えるのは「知性の再生」です。それも集団による主観の知性、集団的主観知性です。私はもうこれしかないと思っています。

──その集団的主観知性について、詳しく教えていただけますか。

本間氏:日本で歴史に残る経営者というと、本田 宗一郎や松下 幸之助などの名が上がりますが、カリスマと呼ばれる経営者はそれほど人数は多くなく、その偉業も決して一人で成し遂げたものではありません。現在の日本経済は基本的に組織の行為で作り上げられたのです。そしてその組織を構成する多くの名も無き社員が大きな役割を果たしてきたのです。今、政府や日本銀行が日本経済を立て直そうとやっきになっていますが、彼らはマクロの立場からしかアプローチできません。日本が本当に元気になるためには、ミクロの我々一人ひとりの個が強くなり、それが集団として力を発揮する必要があります。

 主観というのは個人の感情と解釈され、知性とは真逆にあるものと思われがちです。しかし、どのような世紀の大発明、大発見も、起点は個人の“ひらめき”、“思いつき”です。それが周囲から共感を得て育つことによって、次第に客観化され、経済化され、工業化され、標準化されていくのです。

──「集団」と「主観」は一見、交わらなさそうにも思えますが?

本間氏:主観がその個人だけで形成された知性かというと、そうではありません。無人島で一人育った子どもに主観が形成されるかと言えば、無理でしょう。主観というのは、父母や学校の友達や尊敬する大人といった子どもをとりまく社会との交流の中から生まれるもので、それは「共主観」なのです。アインシュタインにしても、光を追いかける夢を見たことからあの独創的な相対性理論を生み出したといわれていますが、なぜそのような夢を見るに至ったのか。教授や他の共感する研究者達と交わした何かしらのやりとりが心にあったのでしょう。

 ホンダの伝統ある「ワイガヤ」という会議手法は、われわれ自身その理論に気づいていませんでしたが、このような集団的主観知性を育成してイノベーションを促す仕組みだといえます。

【次ページ】 「ホンダ流ワイガヤ」の実践に役立つ4つのコツ

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