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プロジェクト立ち上げの成功には組織の共通認識が求められる
前回、これまでに紹介した7つの勘所を振返り、勘所実践のためにはプロセス(手順)が重要であることを示し、我々が確立したシステム化計画の方法論(MRDR方法論)を例にとり、プロセス(手順)を解説した。ただし、勘所とプロセスを個人で理解して、実際にプロジェクト立ち上げを円滑に進めようと思っても、企業の中ではなかなかうまくいかない。プロジェクト立ち上げは単純なプロジェクトマネージャー(PM)の個人技ではないからだ。
無論、簡単な部門システムや小規模な情報系システムなど、関係者の少ないプロジェクトではうまくいくかも知れない。しかしプロジェクトの規模がある程度になると、個人技だけでは周囲の理解が得られずうまく進められない。なぜなら7つの勘所の実践は、プロジェクト立ち上げのパラダイム変革だからだ。
あなたの上長や先輩・同僚PMの多くが、
連載第1回で解説したように、システム化計画の目的に満足せずに立ち上げを終えている人だった場合、革新的な勘所を適用しようとするあなたの進め方は理解されにくい。システム化計画の目的の認識から異なっていれば、自ずと目的達成の手段である進め方の認識も異なる。
システム化計画の目的を再掲した。システム化を計画する対象は業務改革ではなくIT構築だと考え、関連する合意形成などのやっかいなことはできる限り見ないで進みたいと暗に願っている人があなたの周囲に多かったら、
業務改革策を握る(勘所の1)ことや
詰めるべきを詰める(勘所の4)こと、
意思決定課題を解く(勘所の6)ことは、泥沼にはまらないために手出し無用なことと判断するはずだ。
つまり、本来のシステム化計画の目的を達成するには、関係者がシステム化計画の目的を理解し、勘所そのものが何か、それを実践するということはどのような困難に立ち向かうことなのか、などを共有した、組織的なプロジェクト立ち上げ力強化の取り組みが必要だ。
「プロジェクト立ち上げ力」強化プロジェクトを立ち上げる
組織的な「プロジェクト立ち上げ力」強化の取り組みは、それ自体がプロジェクトだ。だからプロジェクト立ち上げ力強化を図るには、そのためのプロジェクトを立ち上げなければならない。そこでプロジェクト立ち上げ力強化の目指す姿の定義が必要だ。
連載第3回で紹介した大手金融機関のPMが「目指すところを決めずに動き始められる訳ないよね」と言ったように、プロジェクト立ち上げ力強化の目指す姿を決めなければ、プロジェクト立ち上げ力強化に動き始められる訳がないのだ。
標準的なプロジェクト立ち上げ力強化の目指す姿は次のようになる。
表1 標準的なプロジェクト立ち上げ力強化の目指す姿 |
推進組織 |
・プロジェクト立ち上げ力強化の推進事務局の設置 立ち上げ対象のプロジェクトに対して技術的支援を行う。
・試行対象のモデルプロジェクト(3~4プロジェクト) 推進事務局の支援を受けて、プロジェクト立ち上げの成功事例を作る。
・知恵を結集するための会議体の設置
下記に示す人財レベルに求められる知識の拡充のための知恵の交換を行う。この活動を通じて、必要な行動規範とスキルの解説と実践の促進を行う。
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整備すべき制度 |
・十分な仮説拡充ができるまで、決して企画書作成やプレゼンをさせず、徹底して仮説を詰めさせる厳格なルール
・上記の知恵を結集するための会議体に継続の強制力をもたせる。
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求められる資源配分変更 |
・実証するファクトの獲得に十分な資源を配分する。
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プロセス(手順) |
・第9回で解説したシステム化計画のプロセス(手順)
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主要な情報 |
・第3回で解説したプロジェクト要件の各項目
・第6回で解説した説得の設計
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必要な人財レベル |
・連載各回で解説した勘所の実行に必要な行動規範を有している。
-アクティビティに落とす
-美辞麗句に惑わされない
など
・連載各回で解説した勘所の実行に必要なスキルを有している。
-意味解釈
-事例調査
-説得の設計
-目指すところの描き方
など
・連載各回で解説した勘所の実行に必要な知識を有している。
-ILについての事例
-プロジェクトの仕組みに関する事例
-意思決定者の視点
-課題・リスクについての事例
など
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必要なリーダシップ |
・プロジェクト立ち上げ力強化は、文化風土改革であることを常に組織に言い聞かせる。
・自らプロジェクトをレビュし、決して美辞麗句に惑わされない行動規範を実践する。
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達成までのシナリオ |
・試行プロジェクトにおいて成功事例を作り、その成功を材料に、これに向かう組織の共通認識を形成する。 |
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