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- 2018/02/13 掲載
AIが書いた小説は面白いのか? SF作家とSFマガジン元編集長が語る「AI作家」の限界
AIが小説を書くモチベーションは“PV”?
早川書房のSF担当の編集者として数多の小説家・小説家志望と会ってきた今岡氏からすると、小説で大きいのは「何を書きたいか」という小説家自身のモチベーション、その基となる小説家自身の思想性や経験だという。
だが、AIには積み重ねてきた思想性もキャリアもない。ではAIはどのようなモチベーションで小説を書くのだろうか。
答えるのは、自身もAIが登場する「第2内戦」という中編小説を書いたSF作家・藤井太洋氏。2015年に第2作『オービタル・クラウド』で第35回日本SF大賞を取得した気鋭のSF作家は、元エンジニアという経歴を持つ。
「AIが文章を生成するようになったとき、最初に使われるのはPRの文章や商品説明、観光情報だと思います。たとえば『プーケットはこんな場所です』というような観光スポットの紹介です。選び出されたスポットに対して適切な文章を出力する、という使われ方がおそらく一番先に来るでしょう」(藤井氏)
どれだけの人に読まれたか(PV数)、どれだけ長く読まれたか(滞在時間)、その文章を呼んだ人が、どれだけ売上に貢献したか(コンバージョン数)など、数値を「モチベーション」にしてAIは学習していくだろうと藤井氏は言う。
もしスクリーンなどで文章が配信されるならば、性別や年齢など属性に応じて最適化するだろうとも氏は語った。商品説明や観光情報などの執筆を安価に引き受けている人にとって、最大の敵はAIになるかもしれない。
AIが書く小説が売れない、構造上の問題とは
「AIは(現時点では)非常に優秀な統計マシーンでしかありません。だから、囲碁や将棋など何度も試行して結果が出るものだと人間にも勝ち得るのです。しかし、小説というフィールドで統計的に有意な試行回数を稼ぐのは難しいでしょう」(藤井氏)
藤井氏が前述したPRの文章や観光情報は、表現の変更や方向性の修正をAIが学習できる。しかし、小説の文章はそのような学習ができない。同じ文章なのに、なぜこの違いが生まれるのか。
その理由を、藤井氏は「小説の面白さが外部に現れるのは市場」だからだと説明する。小説の文章は、PRの文章のように何十万回も読まれることを前提としていない。その物語に興味を持って、一定の時間その世界に没頭すると決めた人のみが、その小説を手にとって読む。そのため、小説を読んでもらう「市場」をモデル化しなければ、そこで真に面白いもの、売れるものは作れないという。
「小説ほど複雑でない“株”や“証券”の世界でも、その『市場のシミュレーション』にはまだ誰も成功できていません。たとえば日本で2000~3000万人の読者モデルを設定してAIが書いたとしても、きっとその予想は外れます」(藤井氏)
今岡氏も読者市場のモデル化は不可能という意見に同調する。
「考えて考えて『これなら行ける!』と試したものが本当にだめだったりする。一方で、どうしようもないと思ったものが『化ける』ことも。編集者として感慨深い点です」(今岡氏)
市場予測の難しさの例として、今岡氏はダニエル・キース『アルジャーノンに花束を』を挙げた。1959年に発表され1966年に改作された同作は、発表後長い間、一部のファンが楽しむだけのものだった。それがあるとき有名人の発言を皮切りに爆発し、重版がいくつもかかったという。「これは誰の手柄でもない、ラッキー」と氏は語る。
そのようにAIが「面白い」「売れる」小説を書くのは難しいとする一方で、出席者の質問を受けて「小説家になろう」についても藤井氏は言及した。「小説家になろう」は日本最大級の小説投稿サイトで、登録者数は80万人以上に上る。人気ランキングが毎日更新され投稿数に制約もないため、実際に出版される小説とその形式は大きく異なる。
「小説家になろう」のように、ある種の“ルール”が定められている場所でAIがうまく振る舞えるプレーヤーを演じることは不可能ではない、と藤井氏は語った。
【次ページ】小説を書く上で、人間とAIの最大の違いは
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