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  • 2018/06/26

がん克服に向けた天才たちの挑戦、山中伸弥×小林久隆 対談

iPS細胞と光免疫療法

日本では2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなると言われている。まさに国民病であり、その克服は大きなテーマであり続けている。何度も壁にぶつかりながら少しずつ進んできたがん治療の研究だが、近年、その壁を乗り越えるポテンシャルを持った研究が出てきている。最先端を走る2名、京都大学iPS細胞研究所 所長 山中 伸弥氏と分子イメージングプログラム・アメリカ国立がん研究所・米国NIH 主任研究員 小林 久隆氏との対談をリポートする。

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京都大学iPS細胞研究所 所長 山中 伸弥氏

iPS細胞の応用で特に期待される「再生医療」「創薬」

 新経済連盟が主催したイベントである「新経済サミット(NEST)」。「Japan Ahead 集え、日本を牽引する力」をテーマに世界の新経済・新産業を牽引する数多くの起業家やイノベーターによる講演が行われた。スペシャル・セッションでは、楽天 代表取締役会長兼社長で新経済連盟の代表理事である三木谷 浩史氏がモデレータを務め、京都大学iPS細胞研究所 所長 山中 伸弥氏と分子イメージングプログラム・アメリカ国立がん研究所・米国NIH 主任研究員 小林 久隆氏との対談が行われ、がんの治療に関する研究の最新動向などが紹介された。

 まず山中氏は、iPS細胞(induced pluripotent stem cell:人工多能性幹細胞)に関する最新動向を説明した。

 さまざまな組織や臓器の細胞に分化する能力とほぼ無限に増殖する能力を持つiPS細胞は、理論的にはありとあらゆる細胞を作製できる。山中氏は「iPS細胞は、患者一人一人の病気になっている部分の細胞を大量に準備できる技術。特に『再生医療』『創薬』への応用が期待されている」と説明する。

 山中氏によると、日本が世界のトップを走っている再生医療。その一例として挙げた研究が、眼科医である高橋 政代氏(理化学研究所 生命機能科学研究センター 網膜再生医療研究開発プロジェクト プロジェクトリーダー)の取り組みだ。

 60歳以上の方の5%程度が罹患すると言われている「加齢黄斑変性」は、網膜の細胞が加齢に伴ってうまく機能しなくなり、最終的に失明してしまう病気。高橋氏は、網膜の細胞をiPS細胞から作り直して、古くなった細胞と入れ替えるという臨床研究を2014年から実施している。

 その他にも、iPS細胞を活用する再生医療の取り組みが活発化している。パーキンソン病の治療研究もその一つだ。日本だけでも何十万人という患者がいると言われるパーキンソン病は、全身の動きがスムーズにできずに最終的には寝たきりになってしまう。

 「発症する原因は、脳の神経伝達物質であるドーパミンを出す神経細胞の減少にある。その細胞さえ補充してあげれば直せる可能性がある」と山中氏。高橋 淳氏(京都大学iPS細胞研究所教授)が主導として進める臨床試験(治験)が、2018年度に開始される計画になっている。

 そのほかにも、心不全に対する心臓の細胞や脊髄損傷に対する神経幹細胞の作製への活用も始まっている。さらに、iPS細胞からがんを攻撃する元気な免疫細胞を大量に作製し、患者の体内に戻すことでがん細胞を攻撃する免疫療法も数年以内に治験が始まると語った。

ALS患者への治療薬開発も前進

 メディアにも多く取り上げられる再生医療とは別の応用分野として期待されているのが、創薬(薬の開発)だ。講演の中で、山中氏は「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」におけるiPS細胞の活用を例に挙げた。ALSは、脳や末梢神経からの命令を筋肉に伝える運動ニューロン(運動神経細胞)だけが侵される難病で、物理学者の故スティーヴン・ホーキング博士が長年闘ってきた病気としても知られている。iPS細胞はその治療薬の開発にも役立てられている。

 山中氏によると「これまで何千人という医学研究者が必死になって薬を開発してきたが、残念ながら根本的な治療薬が開発できていない。現在、承認されている治療薬でも患者の延命手段にとどまっている。その理由は、人間の患者の運動神経を利用した研究がこれまで実施できなかった点にある」という。

 ネズミのALSに効果がある治療薬は何十種類と作られてきたが、人間には効果がなかった。iPS細胞を利用したALS患者の運動神経の作製に成功したことで、ALSという病気を実験室で再現できたことで治療薬の開発が前進したのだ。

 現在、京都大学iPS細胞研究所「CiRA(サイラ)」は、武田薬品工業との共同プログラム「T-CiRA」において、iPS細胞技術の臨床応用に向けた研究を実施している。何万種類の化合物の中から、ALS患者の運動神経の死滅を防ぐ治療法の研究を進めている。「より多くのALS患者を治療できる薬を開発し、早く世の中に出したいと思っている」(山中氏)

 また、山中氏は「同じ名前の病気でも、実際は患者によって発症原因が違ったり、遺伝子異常も異なっていたりする。一つの治療方法ではすべての患者を治すことができないことが実験を通して明らかになっている」と説明する。その上で「今後の医療は、プレシジョンメディシン(精密医療)、オーダーメイド医療など一人一人の患者に一番合う薬や治療方法を事前に予測して、治療に当たることが重要となってくる」との見解を示した。

 現在、山中氏とともに600人以上の研究者が再生医療と創薬の開発・研究に従事している。今後も、国や民間企業からの支援と、多くの人からの寄付を“両輪”として研究を進めていく考えを明らかにした。

増え過ぎたものを壊す「破壊の科学」

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分子イメージングプログラム・アメリカ国立がん研究所・米国NIH 主任研究員
小林 久隆氏

 次に小林氏が、がんの治療法として注目を集めている「光免疫療法(PIT:photoimmunotherapy)」について説明した。光免疫療法は、2018年3月から国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)において臨床試験のフェーズ1が開始されている。

 山中氏が細胞を作製するプロダクティブ(創造的)な研究であることと比較して、自身の研究を「破壊の科学」だと称する。増え過ぎたものを壊すことが研究の根幹にあり、特にがん細胞を壊すことを主眼に置いて治療方法の研究を進めてきたという。

 小林氏によると、これまで外科治療、放射線治療、抗がん剤治療ががんの3大治療と言われてきて、同氏が医師となった30年ほど前から変わっていないという。

「これらの治療方法は直接がん細胞を壊すというもので、免疫細胞を活用する療法とは異なる。がん細胞を死滅させ、免疫を活性化するという治療は今まであまりなかった」(小林氏)

 たとえば、外科手術ではがん細胞と同時に免疫細胞まで取り除いてしまうことになる。放射線治療も同様、免疫細胞を活用できない方法だという。

【次ページ】山中氏「光免疫療法は壁を乗り越えるポテンシャルがある」、2人の研究のコンビネーションはあるのか?

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