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  • 2016/11/02 掲載

愛媛のへき地で年間3000万の赤字…医療法人ゆうの森はいかにして「再生」したのか

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過疎地、へき地の医療体制をどう整えるかという問題は、日本中あちこちで聞かれる悩みだ。愛媛県俵津に診療所を開設した医療法人ゆうの森の取り組みは、その回答の一つを示している。既存ルールの見直しとITツールの活用により、公的な支援を必要としない医療サービスをへき地で提供している。

フリーライター 重森 大

フリーライター 重森 大

メインの活動フィールドはエンタープライズ向けITだが、ケータイからADCまでネットワークにつながるものならなんでも好きなITライター。現場を見ることにこだわり、毎年100件近い導入事例取材を行ってきた。地方創生の機運とともにITを使って地方を元気にするための活動を実践、これまでの人脈をたどって各地への取材を敢行中。モットーは、自分のアシで現場に行き、相手のフィールドで話を聞くこと。相棒はアメリカンなキャンピングカー。

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ゆうの森の地域医療再生プロジェクト


愛媛県南部、人口1200人の町から診療所が消えた

 医療法人ゆうの森のたんぽぽ診療所。その院長である永井 康徳氏は、愛媛県東宇和郡俵津(現・愛媛県西伊予市)の医療機関に勤務し、地元の人々に愛され医師として成長したという。永井氏はその後、へき地診療の経験を活かして愛媛県松山市に在宅医療専門の診療所たんぽぽクリニックを開設。自宅で最期を迎えたいと願う多くの患者やその家族の信頼を得て、信念を持って医療サービスの提供に努めてきた。

 2012年、俵津に残る唯一の診療所が閉鎖されることが決定した。人口1200名余りの町で、毎年3000万円の赤字を町からの補助金で補填してなんとか運営を続けている状態だったが、とうとう限界を迎えたのだ。医師としての自分を育ててくれた俵津のそのような状況を知った永井氏は、閉鎖が決まった診療所を引き取ることを決めた。ゆうの森の、地域医療再生プロジェクトのスタートだった。

 大きな問題となったのは、誰がどのように診療所を運営していくかということ。法令により、診療所(クリニック)には院長が常駐していなければならないと定められている。しかし誰か一人ひとりを指名してへき地医療に専念させるのは現実的な経営とは言えない。そこで永井氏は町や関係省庁に掛け合い、院長常駐というルールから除外する特例措置を得る。これにより特定の担当者ではなく、ゆうの森のスタッフたちが協力し、交代で俵津の診療所を運営に当たることが可能になった。こうしてたんぽぽ俵津診療所が開かれた。

電子カルテだけでは共有しきれない情報を自作アプリで集約

 特定の担当者の常駐が不要になったとはいえ、たんぽぽ俵津診療所の運営を軌道に乗せるにはいくつもの課題があった。そのひとつが、スタッフ間の情報共有や引き継ぎ体制の確立だった。たんぽぽクリニックがある松山市と俵津との距離は、約100キロ。この距離を埋め、スタッフ間の情報格差をなくさなければ俵津で提供する医療サービスの質を高く保つことは不可能だ。

「患者さんに関する医療情報は電子カルテに集約されています。しかし良質な医療サービスを提供するためには、カルテの情報だけでは足りません。患者さんの様子、ご家族からの相談など、カルテに記載しないような内容もきちんと引き継がれている必要があります」(医療法人ゆうの森 専務理事 木原 信吾氏)

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医療法人ゆうの森 専務理事 木原 信吾氏(左)と事務局 事務課 前島 啓二氏(右)

 こうした情報を、次の日の担当者に漏れなく伝えるためのツールとして目をつけたのが、サイボウズがクラウドで提供するビジネスアプリ作成プラットフォーム「kintone」だった。患者の個人情報をクラウドで扱うことに抵抗はなかったのだろうか。

「そもそも電子カルテ自体、クラウドで提供されているものを使っており、クラウドサービスでもきちんとセキュリティを保つことができるとわかっていました。診療所に閉じたシステムでは在宅医療の現場で使えませんから、クラウドを選択することは必然でもあったのです」(木原氏)

 クラウドへの抵抗感はなかったというものの、まっすぐkintoneにたどり着いたわけではなかった。当初は院内で情報共有掲示板を運用し、スタッフ間のやりとりに使っていたという。その後、無料でスタートできて少人数でも使いやすいサイボウズLiveを使い始め、グループウェアの便利さに気づいたとのこと。

「しかしサイボウズLiveのように汎用的なサービスではカスタマイズに限界がありました。もっと自分たちの用途に特化したアプリを、私たちが使えるコスト感で提供してくれるものはないかと探して紹介されたのが、kintoneでした」(医療法人ゆうの森 事務局 事務課 前島 啓二氏)

 すでにサイボウズLiveを使っていたため、セキュリティ面やサービスの安定性には関して不安はなかったという。1か月の無料期間中に試験的にアプリを作ってみたところ、それまで使っていた情報共有掲示板と同等のものを簡単に作ることができた。

「簡単、スピーディに必要なアプリを作れて、コスト感も見合っているとわかり、正式採用することにしました。無料期間中に色々な機能を試しているだけでも、あれもできそう、これもできるだろうと夢が広がりましたね」(前島氏)

【次ページ】 作ったアプリは50ほど、作業の省力化とペーパーレス化も実現

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