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- 2018/10/10 掲載
なぜPoCは失敗するのか? 「つながる町工場」3社の事例にみる成功の条件
IVIにおける業務シナリオWGの取り組み
IVIは、企業全体が参加するトップダウン型ではなく、事業部や工場レベルで参加できるボトムアップ型の協業を進めています。
その中で、業務オペレーションごとのワーキンググループ活動を通じて、小さな規模からメリットを享受できるような仕組みを目指しており、そのため大企業だけでなく中小製造業でも参加しやすく成果を共有できるという利点があります。
IVIの主要な活動として行われているのが、年度ごとに組成される「業務シナリオワーキンググループ(WG)」です。
毎年、20~25程度の業務シナリオWGが発足し、各WGに10~15名のメンバーが参画して活動を行っています。(2015年度:20WG、2016年度:25WG、2017年度:22WG、2018年度19WG)
業務シナリオWGでは、製造業の現場レベルの課題に対応するために、「データによる品質改善」、「IoTによる予知保全」、「匠の技のデジタル化」などのテーマでIoT時代の製造業の課題と対処のケーススタディや実証実験を、「企業を超えて」共有する取り組みを行っています。
異なる企業が共通の課題についてその具体的な状況や構造を共有し、解決策を議論し、実証実験を行うことで解決の具体的な方法を確認していきます。メンバーに同業他社や競合企業がいる場合も多いのですが、工場のオペレーションレベルでは、ほぼ同様の課題を有している場合が多く、その課題に共同で取り組むことは双方の企業競争力を高める上でプラスとなります。
各業務シナリオWGでは、テーマごとにコンセプトを決め、それをシナリオ化し、さらにそれをモデル化して、必要となるデータを考えるというやり方で活動が進められ、その結果を実証実験で確認していきます。
業務シナリオWG事例に見るPoC成功のポイント
こうした取り組みの中から成功事例としてご紹介したいのが、初年度(2015年度)のWGから最優秀賞を取得した「中小企業を中心とするつながる町工場」の取り組みです。この事例は、「今野製作所 板金事業部(足立区)」、「西川精機製作所(江戸川区)」、「エー・アイ・エス(江戸川区)」という東京の3つの町工場が中心となり、企業を超えた連携をはかることで、中小企業単体では成し得ないイノベーションに取り組んだ活動事例です。
このWGは、企業間で連携することで、ワンストップでの全工程受注や大規模受注、そして受注後の進捗管理などを共通化していくことと、これによって「単純下請」から脱却することを目的(ゴール)に活動していました。
しかしながら、各社は得意技術を活かしたものづくりに長けているものの、“ごく普通”の町工場であり、従業員のほとんどが製造技術者で、決してITが得意なわけではなく、IT専任の技術者がいるわけでもありません。
各社の取り組みは試行錯誤の連続であり、IVIに参加しているIT企業メンバーの支援を受けつつ、都度課題を乗り越えながら進められています。
このWGでの取り組みの結果、各社は1社では実現できなかった案件対応を可能にする企業の連合体に発展しています。
2015年度のWGでは、バーチャル空間での3D-CADを用いた共通設計、設計・加工方法の相互アドバイス、提案先への用途に応じた使用部材、精度の逆提案などを盛り込んだ見積・提案の共通作成などを実現。「ものづくりコンシェルジュ」化を目指した取り組みを進めました。
さらに翌年には、受注後の進捗問い合わせに企業をまたいで誰でも答えることができるように、現場での進捗の簡易入力化を含む進捗情報の共有の仕組みを実現しています。
このように、企業を跨った取り組みにおいては、業務オペレーション型と言いながらも、WGの最初から、単なる部分的なデジタル化ではなく、デジタライゼーション(バリューチェーン全体のデジタル化)を目指した上で、それに向けた業務シナリオを描いて推進していったことが、PoCだけに終わらせず、実際の事業活動にフィードバックされたポイントといえます。
【次ページ】PoCのために細かい要件定義をするべきか?
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