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  • 2019/03/28 掲載

全国で相次ぐ所有者不明の分譲マンション、自治体は予防策の構築を急げ

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所有者不明の土地が全国的に増える中、分譲マンションの区分所有者が分からず、地方自治体や管理組合が対応に苦慮する例が増えてきた。滋賀県野洲市では壁が崩れた危険な分譲マンションが、区分所有者の一部が不明なために放置されている。野洲市は4月に解体命令を出し、自主解体されなければ2019年度中に行政代執行する方針だが、所有者不明で管理不全に陥る分譲マンションは今後、さらに増えそうな状況。横浜市立大国際総合科学部の齊藤広子教授(不動産学)は「危険な状態に陥る前に問題を予防する仕組みが必要」とみている。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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滋賀県野洲市の美和コーポ。不明な所有者がいるために自主解体が進まず、野洲市が4月、解体命令を出す予定
(写真:筆者撮影)

野洲市の廃マンション、市が4月に解体命令へ

 建物の壁が崩れ落ち、鉄骨や部屋の中がむき出し。階段は腐食が進み、鉄骨に吹き付けられた有害物質のアスベストが露出している。野洲市西部の野洲川橋から隣の守山市へ向かう幹線市道沿いで、鉄骨3階建て築47年の分譲マンション「美和コーポ」が無残な姿をさらしている。

 野洲市によると、美和コーポは総戸数9戸で、延べ床面積約410平方メートル。1972年に建築されたが、管理組合がないため、建物の維持管理がなされずに老朽化が急速に進んだ。約10年前に3階の手すりが外れてぶら下がる状態になり、そのころから住人がいなくなった。

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 市の依頼で専門業者が調査したところ、鉄骨に使われた吹き付け材から国基準の0.1%を大きく上回る28.4%のアスベストが検出された。2018年の大阪北部地震で南側の壁がすべて崩れたため、吹き付け材が地面にはがれ落ち、周囲に飛散しているもようだ。

 マンションの区分所有者は9人。所有権移転が繰り返され、そのうちの1人は行方が分からない。市は残りの区分所有者を集めて説明会を開き、自主解体を求めているが、建物の解体には区分所有者全員の同意が必要で、自主解体できずに時間だけが経過している。

 近くに住む主婦は「あんな状態で次に地震や台風が来ればどうなるか分からない。市は早急に不安を解消してほしい」と不満の声を上げていた。

 危険なマンションは特定空き家に認定されれば自治体が解体を代執行できる。市は危険な状態と認定して2018年、美和コーポを特定空き家に認定した。4月に解体命令を出す予定。命令後の2カ月間に区分所有者の手で自主解体されなければ、行政代執行で解体する。さらに、アスベストの飛散防止勧告が無視されているとして、滋賀県に対応を依頼した。

美和コーポの主な経過
2012年 市へ周辺住民から階段崩落の通報
2013年 登記簿上の所有者に改善指導
2014年 所有者がぶら下がっていた手すりを撤去
2018年6月 周辺住民から壁崩落の通報
7月 アスベスト飛散の可能性が判明
8月 3階の軒の外壁が新たに崩落
9月 市が特定空き家に認定
2019年3月 市が所有者へ解体命令の事前通知書送付

(出典:野洲市空き家対策協議会配布資料などから筆者作成)


 市は解体にかかる費用を3,000~4,000万円と積算している。市にとって決して安い額ではないが、市住宅課は「市民の安全のためにやむを得ない」としている。県建築指導室は「市と歩調を合わせ、県として対応できることを考えていきたい」と述べた。

所有者不明が管理組合運営の足かせに

 所有者不明の土地問題は、国土計画協会の研究会が2017年、所有者が判明しなかったり、判明しても連絡が取れなかったりする土地が全国で約410万ヘクタールに達し、九州全体の約368万ヘクタールを上回ることを明らかにして大きな話題になった。しかし、所有者不明が問題になるのは土地だけでない。分譲マンションもその1つだ。

 分譲マンションで美和コーポのように管理組合がないのは極めて珍しい。通常は管理組合が区分所有法の規定に従って運営に当たっている。しかし、区分所有者が不明になると、管理費や修繕積立金を徴収できず、管理や修繕が行き届かなくなる可能性がある。

 区分所有者が不明で管理費が長期滞納されたままの事例は全国で報告されている。この場合、管理組合は家庭裁判所へ不在者財産管理人の選任を申し立て、部屋を売却してもらうことになるが、滞納が長期にわたると滞納分に見合う売却収入を得られるかどうか分からない。

 しかも、区分所有者が不明のままだと管理組合の意思決定に影響が出る。通常の決議には、区分所有者と専有面積に応じて所有者が持つ議決権のそれぞれ過半数、規約変更など特別決議は4分の3、建て替えは5分の4の賛成が必要になる。

 しかし、老朽化したマンションの解体は、区分所有法に規定がない。このため、民法の規定に従って区分所有者全員の合意が必要になるのだが、美和コーポのように1人でも区分所有者が不明になると、どうにもできないわけだ。

【次ページ】全国の分譲マンションの14%で不明な区分所有者

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