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  • 2019/06/18

GAFA自身はどうやって人材流出を防いでいるのか?アマゾンがあえて解雇通告するワケ

米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

時間と労力とカネをかけて採用した優秀な人材が、グーグルやフェイスブックなど「GAFA」と呼ばれる米テック大手4社に流出してしまう――。このような悩みを抱える日本のIT企業は多いが、実は当のGAFAもまた本家の米国で大規模な人材流出に悩まされていることは、あまり知られていない。GAFA各社はどのような人材引き止め(リテンション)策を講じているのだろうか。

在米ジャーナリスト 岩田 太郎

在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

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オフィスで働くグーグル社員。自由で革新的な働き方で知られる同社だが、平均在職年数は2年に満たない
(出典:Google Press Corner)


GAFAの平均在職年数はたった2年

 世界最大のビジネスSNS である米LinkedInが2017年に世界中の5億人のプロフェッショナルを対象に調査した離職率の業界ランキングによると、最も離職率が高かったのは、テクノロジー(ソフトウェア関係)の13.20%だった。 これに、小売・消費財の13%、メディアおよびエンターテインメントの11.4%、プロフェッショナル・サービスの11.4%、公務員・教育・非営利団体の11.2%、金融サービス・保険の10.8%、通信の10.8%、石油・エネルギーの9.7%、航空・自動車・運輸の9.6%、ヘルスケア・製薬の9.4%が続く。

 一方、キャリアサービスの米Paysaの分析によれば、テックの「ディスラプター」「巨人」として知られる企業における従業員の離職までの平均在職年数は、最も長いフェイスブックでも2.02年、グーグルで1.90年、アップルで1.85年、アマゾンで1.84年と極端に短い。

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GAFAにおける従業員の離職までの平均在職年数は、最も長いフェイスブックでも2.02年、グーグルで1.90年、アップルで1.85年、アマゾンで1.84年と極端に短い。(出典:Paysaをもとに作成)

 IT業界で転職をする従業員の49%は別のテクノロジー企業に就職することがLinkedInの調査で判明しており、高離職率・短在職年数の原因は、多くが構造的なもので、しかも業界自ら引き起こした逆説的かつ自業自得的なものである。

 すなわち、IT産業の急成長が止まらないことで起こる空前の人材不足、そもそも流動性が高い米労働市場、GAFAが優秀な人材の引き抜き合いを行うことでさらに奨励される「短期でさよなら“ジョブホッパー”文化」、高流動性によって従業員が得られるよりよい待遇、従業員の心に響かないリテンション施策、一部企業の過酷な労働環境、従業員の低い忠誠心、などが挙げられる。

高い人材流動性による企業側の損失

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 リテンションと採用は表裏一体だ。時間と労力とカネをかけて採用した優秀なパフォーマンスをたたき出す人材が去れば、会社はその従業員が持つ素晴らしいビジネスのアイデアや、製品・サービスについての暗黙知まで失う。プロダクトのローンチ中にたった2週間の事前通告で主要プレーヤーが去れば、プロジェクトチームは大混乱に陥る。

 米国で企業を辞めた重要なプレーヤーの代わりに募集・新規採用するのに要する時間は平均23.8日だが、テクノロジー業界では倍以上の51日間。日本と違ってスペシャリスト中途採用が当たり前の米国でさえ、雇用した社員が使い物になるには最低数か月のトレーニングが必要で、教育期間中の生産性が落ちる。結果として、当初の事業計画に年単位の遅れが出ることさえある。

 たとえば従業員数が5000人の企業で離職率が年間13%だとすると、1年で650人が退職する。この650人を補充するために1件の雇用当たり10000ドルの退職経費、10000ドルの採用経費、10000ドルのトレーニングコストの合計30000ドルがかかったと仮定すると、年間1950万ドル(約21億3189万円)もの「損失」が生じることになる。

 米国にみられるような高い人材流動性はよい人材を見つけやすいメリットがあるが、実は多大な非効率性と金銭的・機会的な損失をもたらす非効率の源泉でもある。

 このため、米経営者の78%が「リテンションは重要あるいは喫緊の課題」だとすることは容易に理解できる。リテンションを怠り、採用だけにフォーカスすれば無限の「苦労の末の採用・長い訓練・早い退職」というループにはまってしまう。それは、より良い製品開発や効果的なマーケティングを阻害し、経営資源を奪うことにつながる。

 特にGAFAのように企業規模が大きいほど、従業員の定着率を上げることが採用コストの最適化を可能にして、数百万ドル単位の節約につなげることができる。

なぜ辞めるのか、最大の理由は「昇進機会」

 リテンション戦略の第一歩は、「なぜ従業員が辞めてしまうのか」を突き止めることにある。LinkedInが10,000人を対象に実施した複数回答調査によれば、最も多い理由が「昇進の機会に関する懸念」で45%、次いで「経営陣に対する不満」の41%、「職場環境や企業文化への不満」の36%、「もっとチャレンジングな仕事がやりたい」の36%、「給与など待遇への不満」の34%、「仕事ぶりが認めてもらえない」の32%と続く。

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従業員が会社を辞める理由で最も回答が多かったのは、「昇進の機会に関する懸念」で45%だった。
(出典:LinkedInをもとに作成)

 人事のプロが挙げる対策として、「昇進の機会に関する懸念」には、日常的なメンター制度の運営、経営陣との意思疎通、多様性推進プログラムの実行、多角的なパフォーマンス評価、リアルタイムのフィードバック、キャリア行程表の作成などによる社員の統合が有効とされる。

 また、「経営陣に対する不満」「職場環境や企業文化への不満」に対しては、社員の声を傾聴して経営に吸い上げる仕組み作り、企業文化をより開放的なものに作り替える作業、職種変更がしやすい制度、などが効く。

 一方、「もっとチャレンジングな仕事がやりたい」「仕事ぶりが認めてもらえない」と感じる社員には、メンタープログラムの強化、報奨制度の充実、感謝の気持ちを公に伝えること、上司や経営陣とのコミュニケーションの見直し、チームワークの奨励や働きに対するお祝い、勤続年数に応じたお祝いや贈り物などが必要だ。

 「給与など待遇への不満」には報酬の見直し、ワークライフバランスの改善、会社の哲学や目標の明確化と共感度の向上、使命感の付与、管理職になりたくない従業員をあえて降格して好きな仕事に集中させる、などの対策が考えられる。

 では、GAFA各社は具体的にどのようなリテンション対策を講じているのだろうか。

【次ページ】GAFA各社のリテンション戦略の実態

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