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  • 2019/07/04 掲載

なぜフェイスブックのLibraが嫌われているのか? 懸念される4つの重大すぎるリスク

米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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世界最大のソーシャルプラットフォームであるフェイスブックが6月18日、暗号通貨Libra(リブラ)を主導して立ち上げた。早くも「悪用できる穴が多い」「国家のような存在になり、当局ににらまれる」など重大な問題点が指摘されており、Libraが広く流通するほど政治的なイシューになる。フェイスブックにとって逆説的に怖いのは、Libraが既存の通貨を超える大成功を収めることではないか――。その潜在的なリスク要因4つを整理する。

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

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「中央銀行」を超えるともささやかれるLibra。しかし懸念点は多い
(Photo/Getty Images)


当初の反応はおおむね好意的?

「信用不足から銀行口座やクレジットカードを持てない、世界17億人の低所得層は、フェイスブック最高経営責任者(CEO)のザッカーバーグ氏を救世主とみなすだろう」

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 米経済専門局CNBCの名物コメンテーターのジム・クレーマー氏は、Libraの発表を受けて、ザッカーバーグ氏をこう持ち上げた。

 Libraを使えば、専用のデジタルウォレット「Calibra」を介して、銀行口座を持てない人でも基本的な金融サービスが使えるようになる。世界中の消費者や企業間の取引が円滑化される可能性がある。1年後、2020年の運用開始を目指し、当初はポジティブな評価が目立った。

 米金融大手のサントラストは、「フェイスブックはLibraによってSNSだけでなく、世界のeコマースのリーダーになろうとしている。27億人というユーザー規模、ブランド力とバランスシートの面で、同社にかなう相手はいない」と分析。

 決済、eコマース、アプリやゲーム課金支払いなどの金融サービスで支配的な地位を狙うフェイスブックは、「世界のデジタル資産のほとんどを取り扱うようになる可能性が高い」と予想するのは、ブロックチェーン投資のベンチャーキャピタル企業であるブロックチェーン・キャピタルのスペンサー・ボガート氏だ。

 米金融大手JPモルガンのアナリストであるダグ・アンムス氏も、「フェイスブックはLibraによって、ソーシャルやコミュニケーションという従来領域を超えてeコマースのプラットフォームとなり、多角化を進められる」とする。

 圧倒的なスケールメリットにより、Libraの送金手数料は現在の10分の1のレベルにまで下がるのではないかと言われている。国際送金も、現行の送金額の約7%から大きく下がると予想されており、銀行にとっては脅威となる。

ただのパクリ、またもコケると辛辣な声も

 その一方で、Libraは先行する中国テック大手のサービスの「パクリ」であり、さまざまな新サービスで壮大にコケて失敗してきたフェイスブックの歴史の一章に終わるとの辛辣(しんらつ)な声もある。

 まず、LibraはSNSとメッセージングおよび決済機能をひとつのアプリに統合した中国のWeChatのパクリだと多くの米メディアが指摘している。請求書の支払いがワンタッチで、買い物をQRコードで済ませたり、交通機関に切符や定期なしで乗車乗船したりできるのは、WeChatの機能そのものである。

 また、テキストメッセージを送る要領で簡単に送金ができる機能も、すでにグーグルやアップル、さらにペイパルやその傘下のベンモが長らく提供してきたサービスの焼き直しにすぎない。

 翻って、フェイスブックが過去に立ち上げた事業にはコケたものが多く、Libraも失敗するのではないかとの臆測につながっている。たとえば、同社の拡張現実(AR)、買い物チャットボット、動画プラットフォームのWatchなどは鳴かず飛ばずのままである。

 金融系サービス面では2010年にフェイスブックゲーム内の課金を行うフェイスブッククレジットを立ち上げたが、2年後に撤退した。そして2013年にはサードパーティー決済大手のペイパルと提携した経緯がある。フェイスブックの決済などによる売上は2018年に全体の2%を占めていたにすぎない。こうした過去のさえない「実績」から、Libraが本当に普及するのか懐疑的に見る向きもあるのだ。では、ここからはLibra現在抱えている懸念を挙げて1つひとつ説明していく。

懸念(1)セキュリティ対策

 Libraが成功すればするほどフェイスブックにとって大きな懸念として浮上するのが、システム不具合の懸念やセキュリティ対策だ。規模が大きいほど、アクシデントや事件の破壊力は大きくなる。

 まず、Libraの毎秒の処理件数はビットコインの7件に対し、当初1000件であるが、余裕で数万件をこなせるクレジットカードに及ばない。将来的に能力が増強されるであろうが、負荷がシステムの処理能力を上回ってダウンしてしまえば、通貨としての信用が傷つく。

 より重大な結果をもたらし得るのが、セキュリティの不備だ。

 まずLibraは誰もが自由に改良・再配布ができるオープンソースのプラットフォームであり、悪意のある開発者が悪用する可能性がある。特に、電子財布Calibraの残額を他人の財布に移し替えるだけでなく、購買・送金履歴データの窃取や漏えいを行える脆弱(ぜいじゃく)性があれば、致命的だ。

 フェイスブックは、セキュリティの脆弱性を発見したハッカーに報奨金を支払うプラットフォームHackerOneと提携し、オープンソース化を利用して実際の運用開始前に脆弱性をあぶり出そうとしているが、すべての開発者が善良で正直であるとは限らない。また、Calibra側に、Libra開発に関わる開発者すべての背景チェックを行う計画がないことも不安材料だ。

 安全弁として、Libra確認ノードの3分の1以上が破られてフォーク(分岐)が起こった場合、Libra全体の取引は自動停止され、フォーク修復のアップデートが提案される機能がある。

 しかし、Libraが1度でもハックされればその評価額が悪影響を受け、世界中の保有者が損害を被ることになる。

 金融危機時の通貨価値の維持も問題だ。ペンシルベニア大学ウォートン校のイタイ・ゴールドスタイン教授は、「金融システムにストレスがかかった際に、どれほどLibraが安定性を保(たも)てるのか、はっきりしない」と指摘。さらに米メディアでは、Libraに一斉に売りが浴びせられた場合にどのようにコンソーシアムが対応するかなど、想定や詰めが甘いとの批判もある。

 このように、世界最大規模の暗号通貨が信用を失えば、暗号通貨そのものの信用も傷つく。Libraの成功が大きいほど、損害や被害も大きくなる。こうしたことからLibraは「通貨」ではなく、「送金手段」として発達を遂げるだろうとの論調もある。

 また、電子財布Calibraの口座を「リセット」機能の悪用で乗っ取って本人になりすましたり、政府発行の写真付き身分証だけでCalibra口座が開設したりできることを悪用し、身分を詐称してお金をだまし取る送金詐欺が増えると予想される。

 Calibra内でのハッキングや詐欺に対する一応の補償は用意されている。誰かがアカウント情報を悪用して利用者のLibraが使用された場合、盗まれたLibraが元の利用者に返されるからだ。しかし、Calibraのエコシステム外におけるLibraの取引などの犯罪行為は補償されない。

 また、フェイスブックの信用喪失でLibraの価値が失われたりすれば、価値変動の補償を受けられないユーザーの怒りの矛先は、Libraの主導者であるフェイスブックや同社のザッカーバーグCEOに向かうのは必定だ。

【次ページ】懸念(2)~(4)、問題の本質とは

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