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  • 2019/07/10

なぜ日本は「MaaS」の主導権を海外勢に奪われるのか? 根本にある2つの理由

欧州を中心に、ITを使って公共交通機関を統合し、1つの移動サービスとして提供するMaaS(マース)と呼ばれる取り組みが活発になっている。日本でも多くの事業者がMaaSへの参画を表明しているが、本当の意味でこの仕組みを活用するためには、ある重要な視点が不可欠となる。

経済評論家 加谷珪一

経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「"投資"に踏み出せない人のための「不労所得」入門」(イースト・プレス)、「新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み」(祥伝社新書)、「ポスト・アベノミクス時代の新しいお金の増やし方」(ビジネス社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「教養として身につけたい戦争と経済の本質」(総合法令出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)などがある。

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日本での「MaaS」普及に不可欠な視点は2つ
(Photo/Getty Images)

MaaSとは?欧州では実用段階

 MaaSとは、Mobility as a Serviceの略で、文字通り、目的地への移動に関して、交通機関を個別に利用するのではなくITを使った総合サービスとして提供するという考え方である。

 たとえば、アプリで「横浜の中華街」を指定すると、電車やバス、タクシー、自転車シェアなどを組み合わせたプランが提示され、予約や決済もできるといった使い方が想定されている。

 MaaSが普及すれば、自家用車を持っていなくても、ドアツードアに近い感覚で公共交通機関を利用できるので、利用者の利便性は格段に向上する。

 欧州ではすでにMaaSが実用段階に入っており、デファクト・スタンダードとなりそうなアプリも登場している。フィンランドのIT企業であるマース・グローバルが提供しているWhim(ウィム)というアプリは、本国のヘルシンキを始め、ベルギーや英国などの都市で使われている。


 ウィムの利用者が、行きたい場所をアプリで指定すると、最適なルートと料金がいくつか表示されるので、希望のルートを選択すれば、決済が完了する。スマホ上で発効された電子チケットを各交通機関で係員に見せれば、そのまま乗車することができる。

 料金については、交通機関ごとに支払う方法に加えて、月額固定料金も選択できる。たとえばヘルシンキのサービスでは、月額49ユーロを選択すると、タクシーやレンタカーなどが上限付きで自由に利用できるほか、月額499ユーロを選択すれば、基本的にほぼすべての乗り物が無制限で利用可能だ。

 同社はアジア進出も強化しており、すでにシンガポールでサービスのテストを行い、日本への進出も検討しているという。ちなみに同社にはトヨタのグループ会社が出資している。

 日本国内でもソフトバンクとトヨタが新会社を設立するなど、MaaSへの取り組みが始まっているほか、JR東日本がコンソーシアムを設立したり、小田急電鉄が実証実験をスタートさせるなど、交通機関の側の動きも本格化している。

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MaaSの何がすごいのか?

 これまでも目的地を指定すれば、どの路線を乗り継げば良いのか表示してくれるアプリは存在していたので、MaaSのサービスはこれに決済が加わっただけのようにも見えるが、話はそう単純ではない。

 MaaSがもたらす最大のインパクトの1つが料金体系の定額シフトである。

 先ほど説明したように、MaaSのアプリは、利用する交通機関ごとに決済することもできるが、月額固定料金のプランも用意されており、MaaSにおける料金体系の本丸はこちらである。大きな差はないように見えるが、交通機関ごとに個別に決済するのと、すべての交通機関が固定料金で利用できることの違いは大きい。

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MaaSで交通機関もサブスク化?
(Photo/Getty Images)

 サービスが普及すれば、固定料金を選択する人の割合が増える可能性が高く、そうなると公共交通機関は事実上、サブスクリプションモデル(定額利用モデル)に移行する。

 サブスクリプションモデルは、所有から利用へという、消費形態のシフトを促す効果があるため、社会のシェアリング化を一気に推し進める可能性も見えてくる。

 実際、欧州におけるMaaSの本質的な狙いは、マイカーの排除であり、社会のシェアリング化が念頭にある。トヨタがこの会社に出資しているのも、一連のパラダイムシフトに強い危機感を持っているからである。

 もし交通機関のサブスクリプション化が実現すると、鉄道やバスといった交通機関は価格面での主導権を失ってしまうので、一部の企業は強い抵抗感を持つ。フィンランドでは、MaaSを実現するためには政府のリーダーシップが不可欠との考えから、関連省庁を統合するといったドラスティックな試みも実施している。

 日本では昔から縦割り行政の弊害が指摘されており、サービスの融合が進みにくいという土壌がある。電子マネーのサービスにおいても、交通系のサービスとそれ以外のサービスが併存する状況が続いており、それぞれ自前主義の傾向が顕著である。

 日本でもMaaSを普及させるためには、このカベを取り払う必要があり、これが最大の関門となる可能性が高い。従来のような自前主義、縦割りの発想から抜け出せないと、日本におけるMaaSの取り組みはうまくいかないだろう。

【次ページ】日本でMaaSを普及させるカギとは?

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