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  • 2020/01/07 掲載

絵巻「一遍聖絵」から見えたオフィスの未来は“遊行”

小堀哲夫のオフィス探訪 東大 髙岸輝氏対談(前編)

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2019年秋、神奈川県藤沢市にある時宗の総本山、清浄光寺(遊行寺)の宝物館にて、特別展「真教と時衆」が開催され、時宗の宗祖一遍の生涯を描いた国宝「一遍聖絵」や二祖他阿真教にかかわる名宝の数々が公開された。日本中世美術史を専門とする東京大学大学院 人文社会系研究科 准教授の髙岸輝氏と、建築家の小堀哲夫氏が遊行寺宝物館を訪れ、「一遍聖絵」を見ながら、人間の生き方、そしてこれからの働き方と働く環境について語り合った。

聞き手:編集部 佐藤友理、構成:桑原晃弥、撮影:編集部 伊藤孝一

聞き手:編集部 佐藤友理、構成:桑原晃弥、撮影:編集部 伊藤孝一

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建築家 小堀哲夫氏(左)と東京大学大学院 人文社会系研究科 准教授 髙岸輝氏(右)


「一遍聖絵」とは

──今回のテーマである絵巻「一遍上人絵伝」はどういうもので、どう重要なのでしょうか。

髙岸氏:「一遍聖絵」は1299年に円伊という絵師によって描かれました。ちょうど中国の水墨画の技法が日本に入ってきて、やまと絵(日本の風景や風俗を描いた絵画。唐絵に対していう)に影響を与えた初期のものといえます。


 中世(12世紀から16世紀)には絵巻がたくさんつくられていますが、中でも「一遍聖絵」の重要な点は3つあります。

 1つは縦幅が大きいことです。他の絵巻が32~33cmなのに対し「一遍聖絵」は約40㎝あります。巨大な絵巻ですね。

 2つ目は絹に描かれていることです。普通、絵巻は紙に描かれますが、絹に描くというのは手間とコストがかかります。中世の絵巻のうち絹に描かれているものは3セットしか残っていません。

 3つ目は日本全国の風景がリアルに描かれていることです。

「遊行」は「苦行」ではない

髙岸氏:一遍が行なったように、定住せずに各地を巡り歩いて修行や布教を行うことを「遊行」(ゆぎょう)と呼びます。一遍教団というのはノマド的で、日本の歴史の中でも珍しいですね。

 さらに、一遍は念仏帰依の所作として「踊念仏」(おどりねんぶつ)をすすめました。踊念仏は、鉦(かね)などで拍子をとり、踊りながら念仏などを唱えるものです。歩いて移動を続け、各地で踊って仏に近づく。それが一遍教団の修行であり、布教方法だったのです。


小堀氏:今オフィスで大事なのは、遊ぶことです。法政大学の総長で、日本の江戸文化研究者の田中優子さんは、江戸時代の寺子屋の絵を見ると、学級崩壊状態というか、遊んでいるようにしか見えないものの、その遊び状態こそが世界最高の文化を生んだといいます。それに対して今の学校は、遊ぶことや楽しさが足りないように感じます。

 一遍の修行と布教活動は「遊行」であって、「苦行」ではありません。「遊行=遊び」という話でもありませんが、「遊」(あそび)と「苦」(くるしみ)という一文字の違いが、修行と布教を行う人々の心に大きな違いを生んだのではないでしょうか。

「移動すること」で今日にも生き続ける教えが生まれた

髙岸氏:一遍は、熊野本宮を訪れた際に熊野権現という神と出会います。「南無阿弥陀仏、決定往生六十万人」と記したお札を配るという布教を神から認められ、日本各地を巡ることになります。

 一遍の画期的だった点は、決まった寺を持たず、定住しなかったことです。

 中世の武士は土地に定住し、支配下の農民から年貢を取ることで暮らしていました。一方、一遍は瀬戸内海の水軍で知られた河野氏の出身で、土地への執着がそれほど強くなかったとも推測されます。だからこそ、「移動する教団」という不思議なものができたのかもしれません。


小堀氏:地図を見ると、一遍教団は岩手県の平泉から鹿児島まで動いています。鎌倉時代の当時、それだけ移動したというのはすごいことなんでしょうね。

髙岸氏:実際に岩手や鹿児島まで行ったかは分かりませんが、一遍が関東から九州北部にまで足跡を残したのはたしかで、鎌倉時代の人物としては驚くべき行動範囲の広さです。

 奈良時代、東大寺の造営に尽力した行基は諸国を歩いて修行と布教を行い、平安時代には最澄と空海が中国に渡って最先端の仏教を持ち帰り、鎌倉時代には一遍が日本各地を遊行しました。「移動する人物」が、現在につながる日本仏教の形成に重要な役割を果たしました。

【次ページ】「旅から旅」「移動して働く」が正解というわけでもない

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