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- 2020/01/24 掲載
“未来予測”を可能にする「不易と流行」とは? 令和のデジタル経済を展望する方法 篠崎教授のインフォメーション・エコノミー(118)
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デジタル時代の「不易と流行」
令和初の正月を迎えて、さまざまな領域で新年の抱負と展望が語られていることだろう。将来を展望する際に役立つのが現在に至る足どりの回顧だ。温故知新という言葉があるように、これまでの経緯をしっかりと跡付けることで、今後の見通しも良くなる。この白書は、総務省が情報通信分野の動向と政策について閣議に報告するもので、1973年から今日まで毎年刊行されている。かつては『通信白書』と呼ばれていたが、21世紀を迎えた2001年に現在の呼称に衣替えされた。
1973年から途切れることなく刊行されてきた白書の意義は、第1に、一貫した視点で過去から現在への動向が追えること(不易)、第2に、その時々で注目された出来事を後知恵でなく、その当時の実感と熱量で読み取れること(流行)の2点にある。まさに「不易と流行」を凝縮した貴重な資料だ。
令和元年版『情報通信白書』の問題提起
通算47回目となる令和元年版の白書では、平成時代を中心に日本のデジタル経済がどのように推移したかを振り返った上で、AI、IoT、5G、ビッグデータなどの新潮流がこれからの社会で真価を発揮するために何が必要かを考察している。日本の情報化について、技術とビジネスと制度の三面から丹念に跡付け、手際よく考察されているのが特徴だ。全文が公開されており、概要版やポイントの解説もウェブから入手できるので、興味のある読者は、原典に直接当たって一読するといいだろう。
さまざまな情報を包括的に入手できるが、特に、この連載に関連して印象深かったのが、第1章のポイントと概要で提示されたグラフ(図1)だ。このグラフには、連載で解説してきた「日米経済の明暗と逆転」が見事に凝縮されている。
白書によると、「我が国企業の ICT 利用については、昭和時代には世界に先駆けたオンラインシステムの構築といった先進的な利用があったものの、平成時代は ICT 投資が停滞。米国や欧州主要国と比較しても低い伸びにとどまっている。」
これは一体どうしてなのだろうか?
日米の研究者が注目したS字カーブとは
デジタル経済で世界を先導する米国については、ソロー・パラドックスとニュー・エコノミー論争を手がかりに、この連載で第15回から第21回まで7回にわたり解説した。では、日本の情報化の経済効果はどう分析されてきたのだろうか?ひとつの手がかりは、ノーベル経済学賞を受賞したペンシルベニア大学のクライン名誉教授ら日米の経済学者グループが2000年代中盤に行った共同研究だ(Adams et al. 2007)。
筆者も加わったこの共同研究では、「S字カーブ」がひとつの鍵概念となっている。経済成長の軌跡を歴史的に長期の時間軸で観察すると、単調な右上がりではなく、助走期、勃興期、成熟期と変貌しながら推移するS字型のカーブが描かれるからだ(図2)。
【次ページ】新旧のS字の波が重なる大変革期
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