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  • 2020/03/10 掲載

3.11被災地の人口減少は「想定以上」、外国人定住に期待も難局

9年経ても続くいばらの道

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死者約1万6000人を出した東日本大震災から11日で9年、岩手、宮城、福島3県の被災地の多くで人口減少が想定以上のペースで続いている。かさ上げした住宅街が整備されても、住民の帰還が進まず、広大な空き地が広がったまま。被災市町村は若者の移住促進、出生率の向上に望みを託すが、思うような成果を出せていない。国士舘大文学部の鈴木江理子教授(人口政策)は「被災地は人口減少に拍車がかかり、もはや国内からの社会増だけで地域を維持できる状況ではない。国境を越えた社会増に目を向けるべきではないか」と指摘する。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

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津波で横倒しになったまま震災遺構として保存される宮城県女川町の旧女川交番
(写真:毎日新聞社/アフロ)

巨大投資の住まい再建、住民戻らず広がる空き地

 東日本大震災で最大17.6メートルの巨大な津波に襲われ、街ががれきの山に変わった岩手県陸前高田市。当時、約2万3000人いた市民のうち、1700人以上が犠牲になった。中心部の高田、今泉の両地区では、広さ約300ヘクタールの新しい街が建設中で、そのうちの約4割で土地が10メートル以上かさ上げされている。被災地最大級の住まい再建事業だ。

 地権者約2200人に対し、投資額は約1,500億円。単純計算で1世帯当たり約6,800万円もの巨費が投じられたが、利用予定がある土地は全体のざっと3割にとどまっているという。

 規模は少し小さくなるが、同じような光景は宮城県石巻市雄勝町でも見える。海抜20メートル以上の海を見下ろす分浜地区の造成地では、広々とした住宅地にたった1軒だけ民家が建てられた場所がある。

 共通するのは想定以上の速さで人口が減少していることだ。陸前高田市の推計人口は2月1日で1万8450人。震災前の2011年3月1日より20.5%も少なくなった。雄勝町は2月1日の住民基本台帳人口が1207人。震災前の4300人から71.9%も減少している。その結果、造成された土地の利用が宙に浮いてしまった。

推計人口と住民基本台帳人口
推計人口直近の国勢調査確定人口を基に、その後の出生、死亡、転出入を住民基本台帳から得て算出する。実際の人口に近い数が出る
住民基本台帳人口住民基本台帳に記録された住民数で、住民票を残したまま地域外へ出た人が含まれるため、実数とかい離する傾向がある

 空き地の解消に向け、陸前高田市は2019年、「土地を売りたい、貸したい」と考える地権者と利用希望者をマッチングする新制度を始めた。スタート以来の1年間で成立した契約は8件で、まだ大きな成果を上げられていない。陸前高田市市街地整備課は「成約が伸び悩んでいる。住民が戻ってこないことには妙案はない」と苦しい胸の内を打ち明けた。

 石巻市は雄勝町の造成地について、2018年から被災者だけでなく、全国から取得希望者を募っている。しかし、分浜地区は市中心部まで約30キロ。車で1時間近くかかるだけに、希望者確保は簡単でない。石巻市雄勝総合支所は「何とかして地区の再生を図りたいのだが…」と厳しい口調で話した。



仙台周辺除き急激な減少、福島では今も避難指示

 岩手、宮城、福島の3県によると、岩手県沿岸部の被災12市町村の推計人口は2月1日で合計23万2404人。震災前の27万2937人より14.9%減った。人口が増えた市町村が1つもないうえ、減少率6%の内陸部21市町村に比べ、急激な減少ぶりが目立つ。


 宮城県の被災15市町の推計人口は震災前の170万8458人が0.6%減の169万7517人となったが、仙台市周辺とそれ以外で明暗が分かれている。仙台市周辺は、仙台市、名取市など4市町が人口増となったのに加え、多賀城市、亘理町などわずかな人口減少でとどまった地方自治体もある。

 これに対し、仙台市周辺以外は女川町で震災前の9932人が41.5%減の5808人、南三陸町で1万7378人が35.8%減の1万1148人となるなど、減少が著しい。仙台市や首都圏への人口流出に歯止めがかからないためだ。

 福島県は東京電力福島第一原子力発電所事故の影響が残る双葉町、大熊町など7町村で2月1日の推計人口を算出していない。これを除いた残りの被災8市町村は震災前の52万2058人が49万2767人となり、5.6%の減少を記録した。

 しかし、現在も双葉町など7市町村の約340平方キロで原発事故による避難指示が続いており、故郷の喪失という悲しい現実が今も突きつけられたままだ。

【次ページ】自治体の人口ビジョンと社人研推計に大きなずれ

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