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  • 2020/05/11 掲載

ダイソンは5127回も失敗、デザイン思考に求められる4つのマインドセット

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海外では今、「ビジネススクール」よりも「デザインスクール」で学んだ人材の価値が高まっていることは前回述べた。ダイソンの創業者ジェームズ・ダイソンをはじめ、いま世界を動かすビジネスエリートたちがデザインスクール出身であることからも、デザインの力がいかに強烈なのかは見てとれる。では、デザインスクールでは一体どんなことを学んでいるのか。ビジネスデザイナーの佐々木 康裕氏が、イリノイ工科大学 デザイン大学院 在学中に求められた「4つのマインドセット」について解説してくれた。

Takram ディレクター&ビジネスデザイナー 佐々木 康裕

Takram ディレクター&ビジネスデザイナー 佐々木 康裕

早稲田大学政治経済学部卒業。イリノイ工科大学デザイン大学院(Institute of Design)修士課程(Master of Design Method)修了。クリエイティブとビジネスを越境するビジネスデザイナー。デザインリサーチから、プロダクト・事業コンセプト立案、エクスペリエンス設計、ビジネスモデル設計、ローンチ・グロース戦略立案等を得意とする。複数の事業立ち上げ経験を持ち、ファイナンスにも精通。Takram では、家電、自動車、運輸、通信、食品、医療、素材など幅広い業界でコンサルティングプロジェクトを手がける。講演やワークショップ、Web メディアへの執筆なども多数。

※本記事は『感性思考』を再構成したものです。

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今、世界を動かすビジネスエリートらが「デザイン」を重視している
(Photo/Getty Images)

世界的デザインコンサルファームのエグゼクティブが講師

 私が学んだイリノイ工科大学Institute of Design(以下「ID」と表記します)は、デザインスクールはバウハウスという学校をルーツに持っています。バウハウスはデザインや美術に興味のある方なら名前を耳にされたことがあると思いますが、1919年にドイツで設立された美術学校です。

 産業革命の後にプラスチックなどを使った工業製品が大量に作られるようになると、質もデザインも粗悪なものが出回るようになりました。バウハウスではそういった大量生産の工業製品にも優れたデザインが必要だという思想の下で、デザインの歴史の中で一つの革命を起こした学校です。

 また、無駄な装飾を排して合理的・機能的にデザインを行うというモダニズムの原型を作ったと言われています。カンディンスキーやパウル・クレーといったそうそうたる顔ぶれが講師を務め、美術や建築、デザイン、工芸などを教えていました。ナチスによってたった14年間で閉鎖されてしまいましたが、現在でも世界各地の家具や食器、文具などのデザインや建築物に影響を与えています。

 閉鎖後にバウハウスの教授の一人であるモホリ・ナギというハンガリー出身の造形作家が、シカゴ芸術産業協会からの招聘を受け、アメリカでもバウハウスの思想を広めようとシカゴ美術館の下で「ニューバウハウス」を立ち上げました。このモホリ・ナギが目指したのはアートとテクノロジーの融合です。ニューバウハウスは1年ほどで支援を打ち切られましたが、その後モホリ・ナギはInstitute of Design というスクールを立ち上げ、彼の死後にイリノイ工科大学に吸収されました。

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 IDはそういうルーツのあるデザインスクールなので、講師陣も皆誇りを持って教えていました。Doblin やIDEOといった世界的に有名なデザインコンサルティングファーム、あるいはP&GやMotorola(アメリカの巨大電子・通信機器メーカー)といった企業のイノベーション事業担当出身のエグゼクティブやファウンダー(創立者)が講師を務めています。

 彼らのクライアントはNIKE、Apple、Google といったグローバルカンパニーです。どのようにこうしたクライアントに対してイノベーションコンサルティングをしていったかという実例や実体験を知ることができる、とてもエキサイティングな講義でした。

 デザインスクールと聞くと、「デッサンの授業があるのかな」「アーティストが講師をしているのかも」と日本の美術大学に近いイメージを抱くかもしれませんが、私の印象は「職業訓練校」でした。アカデミックな講義もありましたが、ビジネスの現場で使える実務的な知識やノウハウを叩きこまれ、卒業したら即実地で活躍できるような授業内容とプログラム構成になっています。

新しくても実現できなければ意味がない

 このデザインスクールの授業の中で、特に記憶に残っている講義があります。この講義の中で出されたのが、シカゴに初めて来た人が道に迷わずにシカゴの街を楽しめるような公共交通機関の仕組みを考えるという課題でした。この仕組みを英語では「wayfinding(案内路確認)」といいます。

 どのような素材を使うとか、どのような大きさのものといった条件は何もなく、アプリケーションでも街なかの案内板でも、道に詳しい警察官を配備するといった方法でも構わないという課題です。今までにないものを自分で考える、まさにゼロイチの課題で、真っ白なノートを前に私は腕を組んで唸りました。

 そして、ようやく思いついたのが、地下鉄の駅のナンバリングのように、全ての道路に番号を振ればいいというアイデア。シカゴは京都のように碁盤の目のような街なので、道路が直線で交差しています。「この南北のストリートはA5」「ここの東西のストリートはC7」のように割り振っていけば分かりやすくなると考えました。もし街なかで人に道を聞かれたときは、「あなたは今Dの10にいるから、Aの5の道に行けば映画館があるよ」と答えられます。

 このアイデアを意気揚々と先生に伝えたところ、あっという間に却下されてしまいました。

「すでに街のストリートに名前がついているのに、その番号をどう浸透させればいいのか? シカゴに暮らす人が道案内をするときに、番号を使って案内することをどう考えるだろう。コミュニティーの人は、土地の名前に心理的なつながりを持っているのに、番号に変えてしまったら味気なくなるよね。そんな情緒のかけらもないソリューションはダメだ」

 このアイデアでは、案内する人もされる人も番号なら分かりやすいので、とても合理的です。しかし、情緒、つまり感情を抜きにして考えてはいけないのがデザインスクールという場です。入学したてでまだビジネス志向のマインドセットだった私は、その後も苦戦しました。

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ビジネスにおけるデザインでは、創造性と実現性の両方が必要だ
(Photo/Getty Images)

 この講義は私以外のデザインバックグラウンドの受講生も苦戦しており、私から見ると「クリエイティブで面白いアイデアだな」と感じる案でも、その先生は「それ、いくらかかるか計算した?」「実際にそのシステムはつくれるのか?」「つくるとしたら、製造にどれぐらい時間がかかるのか?」などと、逆にビジネスの観点から生徒にフィードバックをしていました。

 彼が気にかけていたのは、創造性に依存するのではなく、フレームワークなども駆使しながら、実現性まで加味してアイデアを検討することでした。先生から毎回ダメ出しを受けていた私も、最終的には何とか「これはいいアイデアだね。この数カ月でがらりとマインドセットが変わったね」と言ってもらえました。

【次ページ】デザインスクールで学んだ4つのマインドセット

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