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  • 2020/06/08 掲載

ギリアド・サイエンシズとはいかなる企業か? 急成長できたブロックバスター戦略の真髄

新型コロナ薬開発で脚光!

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新型コロナの治療法の確立が急がれる中、治療効果が期待される薬として「レムデシビル」の緊急時使用許可が発表された。このレムデシビルを開発したのが米国のバイオ製薬企業ギリアド・サイエンシズだ。インフルエンザ治療薬タミフルの開発や、HIVおよびC型肝炎領域での高い市場シェアで知られている。膨大な投資が求められ、合併を繰り返し大型化している製薬業界において、なぜギリアド・サイエンシズはこれほどまでにインパクトのある医薬品を開発できるのだろうか。

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

Mint Labs製品開発部長。1981年栃木県生まれ。2006年東京大学大学院工学系研究科修了。日本アイ・ビー・エムにてITコンサルタント及びソフトウェア開発者として勤務した後、ESADE Business SchoolにてMBA(経営学修士)を取得。現在は、スペイン・バルセロナにある医療系ベンチャー企業の経営管理・製品開発を行うとともに、IT・経営・社会貢献にまたがる課題に係るコンサルティング活動を実施。Twitterアカウントは@takayukisato624。ビジネスモデルや海外での働き方に関するブログ「CTO for good」を運営。

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ギリアド・サイエンシズのレムデシビルは並み居る大企業を押し分けて新型コロナ薬として注目されている
(Photo/Getty Images)

1980年代のバイオベンチャーブームに創業され、大企業と肩を並べるまでに成長

 新型コロナウイルス感染症COVID-19の治療薬として、レムデシビルの緊急使用が、厚生労働省より許可されたことは話題を呼んだ。レムデシビルはエボラ出血熱の治療薬として開発された薬であったが、WHO(世界保健機関)の担当者が新型コロナへの治療効果が期待できると述べるなど、その有効性に注目が集まっている。点滴で投与する薬なので、人工呼吸器を必要とする重症患者の死亡率を改善する役割が期待されている。

 このレムデシビルを開発したのは米国のバイオ製薬企業ギリアド・サイエンシズだ。1987年に米国で設立され、現在世界35ヶ国以上で事業を展開し、従業員は1万2000人を超えている。2012年には日本法人も設立された。

 ギリアド・サイエンシズは、抗インフルエンザ薬「タミフル」の開発で知られている。大手製薬企業のロシュ社にライセンスを供与して臨床開発を行い、1999年に使用承認を受けた。

 同社の2019年の売り上げは224億ドルに上り、世界の医療用医薬品業界の中でも上位20社に入る規模にあたる(参考記事:製薬業界の世界ランキング:武田薬品やアステラス製薬はなぜ世界で10位以下なのか)。医薬品の開発に膨大な投資が求められる製薬業界では、創業100年を超える多国籍企業が売り上げランキングの上位を占めているが、1987年にバイオベンチャー企業として創業されたギリアド・サイエンシズが、ここまで上り詰めたのは画期的なことだ。

 ギリアド・サイエンシズは、従来の化学反応で製造される「低分子医薬品」とは異なり、遺伝子組み換え、細胞融合、細胞培養などの技術を使った「バイオ医薬品」を手掛けている。バイオ医薬品は効果が高く、副作用が少ないといったメリットがある一方、大量生産が難しく、医薬品の価格が高騰する課題が指摘されていた。

 バイオ医薬品はこれまで治療法のなかった疾病の処置に用いられるようになったため、1980年代前後には多くのバイオベンチャーが創業された。ギリアド・サイエンシズやアムジェンといった企業は、ベンチャー企業から国際展開する大企業へと成長した成功例と言える。


HIVやC型肝炎の領域で、高い市場シェアを獲得する「ブロックバスター戦略」により規模を拡大

 ギリアド・サイエンシズは大きく3つの領域に注力しており、ウイルス性疾患、炎症性疾患、腫瘍を柱としている。特に、レムデシビルに見られるように、ウイルス性疾患の医薬品に強みがあり、HIVの治療薬・ワクチン、C型肝炎の治療薬が事業を支えてきた。

 2018年の調査では、HIVの抗ウイルス薬市場シェアの80%、C型肝炎では90%をギリアド・サイエンシズが獲得していた。米国においては、HIV向けに処方される医薬品上位5つのうち、4つはギリアド・サイエンシズが販売している。この高い市場シェアは、戦略的に買収を続けてきた結果であり、強い交渉力を手にすることを可能にした結果でもある。

 C型肝炎治療薬ソバルディは、米国における一連の治療で約8万4000ドルがかかると言われている。ある試算によると、320万人の患者数が推定されるこの領域では、総額1300億ドルの市場規模に達する。さらに、収入の劣る新興国では1万ドルでの販売を仮定すると、2500億ドルが追加されるのだ。その高い市場シェアを考慮すれば、ギリアド・サイエンシズの優れた収益性がうかがえる。

 ギリアド・サイエンシズの経営戦略は「ブロックバスター戦略」で説明される。ブロックバスター戦略とは、これまでの治療法を大きく上回る製品を投入し、圧倒的なシェアから膨大な売り上げを得て、開発費を回収するビジネスモデルだ。技術力の高い企業だからこそ取れる「勝者総取り型」の戦略と言える。

 年間で10億ドル以上の売り上げを得ている医薬品はブロックバスター医薬品と呼ばれ、特許が切れて後発医薬品(ジェネリック医薬品)が発売されるまで、大きな利益を生む。

 多くの患者へ幅広く投与されるものだけではなく、対象となる患者の数が少ない希少疾患でも、ブロックバスター医薬品に成長するケースは多い。これは、治療ニーズを満たす製品に対する規制当局の優遇や、高い医薬品価格、そして、競合の少なさが寄与している。

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ギリアド・サイエンシズのSWOT分析
(出典:筆者作成)

 前述のC型肝炎治療薬ソバルディや、HIV治療薬ビクタルビは、ブロックバスターの好例と言える 。ギリアド・サイエンシズはHIVやC型肝炎といった治療ニーズの高い領域へ研究開発費を集中投下し、大きく成長してきたのだ。

【次ページ】100億ドルを超える大規模買収で、市場を独占できる候補薬を傘下に

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