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  • 2020/09/17 掲載

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」は転落人生のはじまりだった?長期停滞の原因とは 篠崎教授のインフォメーション・エコノミー(第126回)

篠崎教授のインフォメーション・エコノミー(第126回)

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日本経済は、なぜ情報革命の果実を取り逃すのか。これまでに多くの議論が繰り広げられてきた。共通するキーワードは「変革」だ。技術体系が大きくシフトする時代は、さまざまな仕組みの見直し、いまで言うデジタルトランスフォーメーション(DX)が欠かせない。特に日本の場合は、かつての成功要因が逆に制約要因になる、との指摘がクライン教授らによる日米共同研究でなされていた。情報革命で制約条件となる「かつての成功要因」とは何か。今回は、日本型システムの「変質説」「不存在説」など、当時の議論を振り返って解説しよう。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授
九州大学経済学部卒業。九州大学博士(経済学)
1984年日本開発銀行入行。ニューヨーク駐在員、国際部調査役等を経て、1999年九州大学助教授、2004年教授就任。この間、経済企画庁調査局、ハーバード大学イェンチン研究所にて情報経済や企業投資分析に従事。情報化に関する審議会などの委員も数多く務めている。
■研究室のホームページはこちら■

インフォメーション・エコノミー: 情報化する経済社会の全体像
・著者:篠崎 彰彦
・定価:2,600円 (税抜)
・ページ数: 285ページ
・出版社: エヌティティ出版
・ISBN:978-4757123335
・発売日:2014年3月25日

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なぜ日本経済は、情報革命をベースとした成長の果実を取り逃してしまったのか
(Photo/Getty Images)
 

日本はなぜ情報革命の果実を取り逃すのか

連載一覧
 前回見たように、日本は情報革命の波に乗れないまま国際的地位をスルスルと下げてきた。この足取りこそが過去数十年間の「取り逃した未来」を象徴している。他の国や地域が著しく発展を遂げる中、日本が足踏みを続けるのは一体なぜだろうか。

 それには、さまざまな要因が複雑に絡まっていると考えられる。これまでにも数多くの議論が繰り広げられてきた。クライン教授らが2000年代半ばに取り組んだ日米共同研究もその1つだ。そこでは、歴史的考察を踏まえて示唆に富む分析が加えられていた。

 連載の121回で解説したように、クライン型モデルを用いたシミュレーションでは、日本の情報資本に「規模に関して収穫逓増」が観察され、労働についても、教育による成長への貢献があると検証されている(Adams, et al. [2007])。

 それゆえ、1980年代にJapan as No.1と称賛された日本経済は、1990年代以降バブル崩壊による低迷を経験したものの、情報革命の波に上手く乗ることが出来れば、再び活性化する可能性があるとの結論が導かれていた。

 その一方で、これはあくまで「可能性」であり、情報化に際しては、Japan as No. 1の成功要因が逆に制約要因になるとの懸念も示されていた。それは、1990年代に見られた日米経済の「明暗と逆転」にも深く関係する制約要因だ。

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日本経済の過去の成功要因が、逆に現在の成長における制約要因になるとの懸念も示されていた
(Photo/Getty Images)
 

経済停滞を招いた「日本型システム」

 日本がJapan as No. 1へ駆け上ったのは、工業の時代が最終コーナーを回った頃だ。世界が新しい情報の時代に転換しているならば、バブル崩壊から再生する過程で、かつての強みを一旦見直し、新たな強みへと再構築しなければならない。

 日米共同研究では、こうした観点から、日本の産業組織と企業システムについて米国との比較分析が行われた。米国と対比するのは、情報化投資に牽引されて再浮上した米国「失われた10年に沈む日本」でコントラストが鮮明だったからだ。

 クライン教授らは、このコントラストを生み出した1つの重要な要因は、新技術に対する企業の投資姿勢にあったと考えた。この点は、連載の第118回で解説した『令和元年情報通信白書』でも言及されていることだ。

 米国では、情報技術に対する積極的な企業の投資が続いて「ニュー・エコノミー」が出現したのに対して、日本の情報化投資は、増減を繰り返すばかりで総じて停滞が続いた。日本企業が情報化投資に消極姿勢を続けたのはなぜだろうか。

 日米共同研究では、その背後に深く潜む要因として、日本型の産業組織と企業組織の仕組み(日本型システム)に着目した(Adams, et al. [2007])。日本型システムの特質が、1980年代までの繁栄をもたらした一方で、1990年代には、逆に停滞の要因に転化してしまったというわけだ。

日米経済の「明暗と逆転」を巡る過去の議論

 もちろん、日米経済の「明暗と逆転」にはさまざまな要因が複雑に絡まっており、情報化の影響だけで説明できるものではないだろう。だが、1990年代に源流をもつ情報化がこの「明暗と逆転」にまったく無関係とも考えにくい。

 では、日本型システムの「強み」が情報の時代にマイナス要因に転化するメカニズムとは一体どんなものであろうか。これを読み解く手掛かりは、当時議論されていた日米経済に関する議論にありそうだ。

 クライン教授らの日米共同研究がなされた当時、日米経済については、さまざまな比較分析がなされていた。その中でしばしば見受けられたのが「進取の精神」とそれを花咲かせる「システム」についての議論だ。

 Christensen, et al.(2001)の分析はその1つだ。そこでは、時に欧米から脅威を抱かれつつも賞賛され続けた1980年代の日本経済と、それとは対照的に停滞に陥った米国経済の立場が1990年代にみごとに逆転した点を、Disruptive Technologyという技術論で考察されている。

 Disruptive Technologyとは、現状打破の不連続な技術革新のことで、連続性を保って既存製品の性能を高めるSustainable Technologyの対極に位置付けられるものだ(注)。

注:Disruptive Technology の概念についてはChristensen(1997)に詳しい。

【次ページ】再び成長軌道に乗れた米国と日本の決定的な違いとは

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