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- 2021/12/13 掲載
急躍進「SHEIN」の影で勢力伸ばす“AI企業”の正体、中国アパレルがもっと爆速になる理由
コロナ禍で単独急成長した「SHEIN」の勝因
中国のアパレル業界で大きな変革が起きている。その台風の目となっているのが、江蘇省南京市のリアルタイムファッション「SHEIN」(シーイン、希音電子商務)と浙江省杭州市のデザインアシストAI「知衣科技」(ジーイー)だ。SHEINは、2020年に米国で火がつき、コロナ禍の影響で多くのファストファッションが売上を落とす中、一人急成長をしたことで注目された。SHEINの核心技術は、サプライチェーンの改革とプロモーション手法だ。サプライチェーンを再構築し、製品の企画から販売までをわずか3日で可能にしている。一般的なファストファッションは2週間と言われているので、圧倒的なスピードから、ファストファッションを超える「リアルタイムファッション」とも呼ばれる。
毎日3000点以上の新製品が生まれるため、消費者から見れば、アプリを開くと毎日大量の新製品と出会えることになる。ただし、どの製品も100着程度のミニマムロットしか生産されない。製造は、中国の衣類製造業者が集まっている広州市の約300の協力工場が担っているが、SHEINが開発したシステムが導入され、人気が出た製品はすぐに追加生産ができる体制になっている。
これにより在庫量が大きく減り、不人気商品として死蔵する在庫も大きく削減できる。余剰在庫を持たないことで収益構造を改善し、ライバルのファストファッションよりもさらに低価格で販売することができる。
プロモーションではKOC(Key Opinion Customer)を活用している。いわゆる著名人(インフルエンサー)の活用よりも、影響力のある消費者に注目し、KOCに対しては無償または大幅割引で商品を送り、それをSNSで発信してもらう。
このようにSHEINはアパレルの上流工程から小売までのプロセスの中で、製造、流通、小売という下流側の改革を行って成功した。
生産性は約3倍、デザインの効率化を目指す「知衣科技」
これに対して、企画、デザインという上流側の改革に取り組むのが、知衣科技だ。同社はアパレルデザイナーの仕事をアシストするSaaS「知衣」を提供している。中国のアパレル業界には「4321の原則」という言葉がある。すでに定番となっている製品が4割、ライバル企業の売れ筋に対応するための製品が3割、ブランドのオリジナリティーを出した製品が2割、デザイナーの個性を出した製品が1割というものだ。
つまり、7割の製品は、既存の製品を改良したリデザインにより生産をすることになる。もちろんただの模倣では商品にならないため、既存製品を参考にしながらも、どこまでブランドのカラーやデザイナーの個性を打ち出せるかが、デザイナーの腕ということになる。
このような現実があるため、デザイナーの仕事の半分以上はリサーチだ。ECで売れ筋の商品を見る、ブランドの新作を見る、主要なインフルエンサーのSNSを見る、小売店に足を運んでどのようなデザインが売れているかを見る。このようなリサーチをした上で、どのようなラインナップをそろえていくかを議論し、それからようやく個々の製品のデザイン作業が始まる。
このリサーチを人力で行うと、1人のデザイナーが生み出せる製品は1日に1~1.5件が限界だった。しかし、知衣科技のAIアシストを利用すると、1日に4件程度のデザインができるようになる。デザイナーの生産性が3倍程度になるのだ。
【次ページ】「知衣」の画像解析は何ができるのか
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