- 2025/10/05 掲載
なぜあの人の話し合いは成功するのか? 失敗する人が知らない3段階の説得術(3/3)
相手の意思を変えるには、自ら行動することも必要
選挙に関心を示さない兄に、関心をもってもらうことは可能である。さらに踏みこんで、投票に関する意思を変えることも、難しいが不可能ではない。投票所に行き、こちらが望む候補者に投票するよう兄を説得するとしよう。もしこの説得に成功したならば、説得の極意を会得したも同然だ。なにしろ向こうの意思を変えて、こちらの望む行動へと導いたのである。相手にある行動をやめさせることも難題といえる。飼いネコの大半は当然、自宅のキッチンカウンターが自分のテリトリーだと認識している。そのキッチンカウンターの上に、粗熱をとるためローストチキンを置くとしよう。自分の縄張りに置かれていたため、ネコが自分のために用意されたと考えるのは至極当然だ(人間でも自分のためにつくられた料理だと思うかもしれない。ただし、ネコがそれを許せば、の話だが)。その点を踏まえると、カウンターの上にとびのろうとしているネコを制止するのが、いかに難しいかわかるだろう。ローストチキンを一定時間置いておきたい場合など、なおさらだ。
そのようなときでも、優先すべきは相手の機嫌をよくすることである。たとえば、空腹を和らげてあげる、とか。であれば、何かご馳走を用意すればよい。思いきってカウンターを怖がらせるのは、どうかって? ネコにとっては不快な荒療治ともいえるので、あまりおすすめできないのが正直なところだ。ひとまずローストチキンを冷蔵庫にしまい、ネコのお気に入りのオモチャをとりにいく、というのもよいだろう。
以上のような手段で、ネコがおしなべてローストチキンから気をそらすというわけではないが、試してみる価値はある。
ネコの機嫌が直ったら、今度は考えを変えることに着手する。一例として、ローストチキンはおいしくない、と思わせてみることにしよう。さあ、どうやって? チキンの周りを一風変わった食材でコーティングすればよい。そう、ピーナッツバターとか。でも、さすがにピーナッツバターだとローストチキンに対する自分の考えが先に変わってしまうかも。
相手の意思を変えるには、ときに自ら行動を起こすことも必要だ。たとえば誰かの足を投票所に向かわせたければ、車を出してあげればよい。もちろん、到着後の展開は運次第かもしれないけれど。ひるがえってネコがカウンターにとびのるのをやめさせたければ、優しくつかまえて床におろしてあげよう。何度も何度も繰りかえす羽目になるかもしれないが。
説得は「相手を押さえつけるのが目的」ではない点に注意

ともかく、以上にあげた3つの狙い──相手の機嫌をよくする、考えを変える、意思を変える──は、いずれも勝ち負けとは無縁である。ポイントを稼ぐ必要があるわけでもなし、筋が通らない箇所を指摘する必要があるわけでもなし、相手を貶める必要があるわけでもなし。そうではなく、自らのターゲット──相手の機嫌、考え、意思──に照準を定め、身につけたスキルを発揮すればよいだけである。つまり話し合いの中で、捕食者を演じればよいのだ。
さあこれで、定めるべき狙いに関しては完璧だ。改めて述べるが、話し合いは得点争いではない。相手を押さえつけるのが目的ではない点に注意しよう(じゃれ合っていて、爪が役に立たなかったら話は別だが)。
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