- 2026/08/31 07:10 掲載
「ポリコレでつまらなくなった」は本当?電通クリエイターが断言、AI時代最も必要な力(3/3)
「多様性」こそがクリエイティブを強化するワケ
「『ポリコレのせいでコンテンツがつまらなくなった』という言説をよく耳にします。しかし『イカゲーム』や『SHOGUN 将軍』のように、アジア人・日本人をメインに起用した世界的ヒットもある。成功したときは『ポリコレのおかげ』と言われないのに、失敗したときだけ『ポリコレのせいだ』と言われるのはおかしな話です」(橋口氏)
いまや世界市場を見据えた作品づくりにおいて、多様性は特別なものではなく、不可欠な前提となりつつある。
その鍵となるのが、社会に実在する多様な人々を、映画や広告の中にも等身大に描く「レプリゼンテーション(表象)」という視点だ。たとえば、20年以上続くダヴ(Dove)の「Real Beauty」キャンペーンは、年齢や体形、肌の色の異なる人々を起用することで美しさの基準を広げ、ブランドへの支持を揺るぎないものとした。
逆に言えば、メディアの中で描かれない存在は、社会の中で「いないもの」として不可視化されてしまう。知的障害のある弟を持つ橋口氏自身も、幼少期、テレビや広告の中に弟のような人物をまったく見かけなかったことから、「うちの家だけがほかと違う」と孤独や葛藤を抱えていたと明かす。
「だからこそ、チャリティ番組『24時間テレビ』における、障害のある人の“感動ストーリー”に批判はあっても、メディアに彼らが登場すること自体に大きな意義がある。同じ人間として社会に存在していると、広く認知されることが必要なのです」(橋口氏)
表現をさらにアップデートした好例が、ダウン症のモデルを起用したグッチ ビューティーのキャンペーンである。そのInstagramの投稿には、実に80万件を超える「いいね」が寄せられた。
「『配慮しなければ』という守りの姿勢ではなく、『ブランドをかっこよく見せる』という攻めの姿勢で取り組む。その意志が、広告としての強さを生み出します」(橋口氏)
DEIへの逆風と「二極化」の時代に、企業は何を選択するのか
講演の締めくくりとして、橋口氏は今後の広告表現が「開き直る広告」と「倫理的な広告」の二極化へ進むという予測を示した。
その兆候を感じさせるのが、米アパレル大手アメリカンイーグルが展開したキャンペーンだ。「Jeans(ジーンズ)」と「Genes(遺伝子)」を掛け合わせた言葉遊びは優生思想を示唆しかねないと、かつてなら猛反発を浴びたはずの表現である。しかし現在は、疑問視されつつも大きな炎上には至らず、一定の支持層を持つ広告として通用してしまったと、橋口氏は懸念をにじませる。
だが、トランプ政権下でDEI(多様性・公平性・包摂)への逆風が強まり、取り組みの見直しを迫られてもなお、多くの企業はDEIを手放してはいない。多様な人々に向き合うことがブランドへの信頼を育み、長く選ばれ続けることにつながるという意識からだ。
橋口氏は、こうした社会的な揺り戻しについても、人権の歴史から見れば一時的なプロセスにすぎないと捉えている。フランス革命後に廃止された奴隷制が、ナポレオンによって1度は復活したが、のちに再び廃止されたように。
「人権が拡張されていく流れには、あのナポレオンですら逆らえなかったし、トランプ大統領も止められないと思います。クリエイティブ・エシックスの時代は必然であり、いっときの流行ではないのです」(橋口氏)
生成AIによって、コンテンツを生み出す技術は誰もが手にできるものになった。だからこそ、未来のクリエイターの価値を分けるのは「何を作れるか」ではない。
何を大事だと考え、どのような社会を描こうとするのか。その判断基準となるクリエイティブ・エシックスを宿しているか否か。その問いの重みは、これからの時代、さらに増していくに違いない。
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