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働き方の多様化が進み、また働くこと自体の意義が問われる時代になりました。働くことの意義を見い出せずに新入社員たちがすぐに辞めてしまうという話もよく聞かれます。そこで今回は、従業員のモチベーションアップに欠かせないツール、「ミッション・ステートメント」と「ビジョン・ステートメント」を紹介しましょう。もともと欧米では古くから用いられている経営戦略の中核であるツールですが、名称が似ていて混同されやすため、その違いを明確にしながら説明します。
ミッション・ステートメントとは
ミッション・ステートメントとは、企業の「存在理由」を明文化したもの。通常、数行以内の覚えやすくキャッチなフレーズで構成されています。行っている事業の目的を社員全員で共有し、さらに顧客にも知ってもらうためのツールで、社会的責任などにも言及していることが多いという特徴があります。
ビジョン・ステートメントとは
ビジョン・ステートメントとは、企業が将来的な実現を目指している目標や夢を文章化したものです。全社員で将来の目標を共有するために用いられます。また、戦略的な意思決定の指針ともなります。
ミッション・ステートメントは日本の「経営理念」や「社訓」と近いものですが、企業の存在理由をさらに具体的に明示し、社会にどのように貢献していくのかを社員だけでなく社外にも向けて発信する、より戦略的なツールとして用いられるものです。
また、ミッション・ステートメントと聞くと日本では、この言葉を有名したベストセラー「7つの習慣」(フランクリン・コヴィー著)を連想する人も多いと思います。この本では主に「個人の信条」という使われ方をしていましたが、根本的な意味ではビジネスにおけるミッション・ステートメントと同様のものです。
ミッション・ステートメントとビジョン・ステートメントの違い
ミッション・ステートメントとビジョン・ステートメントは、どちらも企業の軸となる重要な事柄を書いたものであり、また音感も似ているため、両者が混同されやすい傾向にあります。
しかし本来は、それぞれにはっきりした別の目的があります。両方とも戦略策定の基礎として非常に重要なものなので、その違いを明確に理解して活用するべきです。
大きな違いは、ミッション・ステートメントは「現在」について、ビジョン・ステートメントは「未来」について語ったものであるということです。ミッション・ステートメントは企業が今何を行っているかや、競合他社と差別化する特徴を表しているのに対し、ビジョン・ステートメントは企業が描く自らの将来像を表しています。
ミッション・ステートメントとビジョン・ステートメントの違いを表にすると以下のようになります。
ミッション・ステートメントの9要素、作成のための3ステップ
クリス・バート博士の研究により、優れたミッション・ステートメントを持つ会社は、そうでない会社に比べて社員のパフォーマンスが高いことが判明しています。では、優れたミッション・ステートメントとはどのようなものでしょうか?
優れたミッション・ステートメントには、上の表でも挙げた9つの要素が明確に示されています。すなわち、以下の9つです。
- 顧客(顧客は誰で、どのように価値をもたらすのか?)
- 製品・サービス(主要製品・サービスと、その特徴は?)
- マーケット(事業領域、地理的なマーケットは?)
- テクノロジー(使用するテクノロジーは?)
- 成長・健全性(成長や財政面での健全性はあるか?)
- 理念(企業理念は?)
- 競争優位性(企業の強みは?)
- パブリックイメージ(社会的責任、環境への配慮は?)
- 社員への姿勢(社員をどう扱のか?)
これらが網羅された優れたミッション・ステートメントが企業にもたらす恩恵をまとめると下記のようになります。
ミッション・ステートメントの役割
- 同じ目的のために社員を一丸とさせる
- 戦略的な意思決定や、日々の細かな選択の指標となる
- 企業が活発であることを示す
- パブリックリレーションのツールとなる
- ステークホルダーに計画と目標を知らせる
では、より良いミッション・ステートメントはどのように作成すればよいのでしょうか? なかなか難しい作業ですので、企業の存在意義について多くの人と話し合いながら、下記のようなプロセスで進めると良いでしょう。
ステップ1
まず、マネージャーレベルの社員、一般社員、その他シェアホルダーを集めミッション・ステートメント作成チームを結成します。ミッション・ステートメントはすべてのレベルの社員に理解される必要があります。さまざまな役職の社員が一緒に作成作業を行うことで、だれにでも分かりやすく組織全体に浸透しやすいものが目指せます。また、作成に社員自身が関わったほうが、完成したミッション・ステートメントに忠実になると言われています。
ステップ2
次に上記で挙げた9つの要素について自問自答をします。チームメンバーの率直な意見からそれぞれの要素を特定してください。社会的責任、理念、社員や顧客に関わる要素は特に重要であり、慎重に検討する必要があります。
ステップ3
要素をつなげミッション・ステートメントを完成させます。チーム全員が各要素について理解し、納得できたら、要素をつなぎ合わせ文章にしていきます。「コミュニティ」、「倫理的」、「グローバル」、「チームワーク」、「品質」などの言葉には心理的な影響力があると言われているので、使用してみてもよいでしょう。
ミッション・ステートメント事例:
ファストリ、日産、AMEX、野村證券
まず、ユニクロ事業を手掛けるファーストリテイリングのミッション・ステートメントを紹介します。どんな要素が含まれているでしょうか?
ファーストリテイリンググループは─
■本当に良い服(2)(3)、今までにない新しい価値を持つ(4)(7)服(2)を創造し、世界中(3)のあらゆる人々(1)に、良い服を着る喜び、幸せ、満足(6)を提供します
■独自の企業活動を通じて人々の暮らしの充実に貢献(8)し、社会との調和(8)ある発展(5)を目指します
(※括弧内は解説のために加筆、以下同)
このミッション・ステートメントの中で網羅されていないのは(9)社員への姿勢のみです。とても明快で、ほとんどの項目は実際に実現されていると言えますので、優秀なミッション・ステートメントだと思います。
次に日産自動車 はどうでしょうか?
私たち日産は、独自性(7)に溢れ、革新的な(4)(7)クルマ(2)(3)やサービス(2)を創造し、その目に見える優れた価値(6)を、すべてのステークホルダー(1)に提供します。それらはルノーとの提携(4)のもとに行っていきます。
このミッション・ステートメントでは、(5)成長・健全性、(8)パブリックイメージ、(9)社員への姿勢についての言及がありません。これらについても触れることができればよりよいミッション・ステートメントになったかもしれません。
さらにクレジットカードのアメリカン・エクスプレス を見てみましょう。
私たちの使命は、私たちの提供するサービスを必要とする顧客(1)のニーズを把握し、世界の隅々(3)まで旅行(2)および金融サービス(2)を提供することです。私たちは、すべての社員(9)のもつ卓越したコンピテンシーを引き出し、質の高い(7)サービスを通じてこの使命を達成してゆくことになります(6)。
触れられていないのは(4)テクノロジー、(5)成長・健全性、(8)パブリックイメージです。
最後は野村證券です。
1.「投資(2)(3)」を軸に豊かな社会(8)の創造に貢献する(6)
2.変化を尊重し、常識を打破して、成長への挑戦(5)を続ける
3.「顧客(1)ありき」を貫き、常に顧客の揺るぎない信頼(1)を獲得し続ける
4.「野村は一つ」の意識を持って連携し、野村グループの総合力(7)を発揮する
5.多様性とお互いを認め合う精神(9)を尊重する
触れられていないのは(4)テクノロジーのみです。こちらもとても分かりやすいミッション・ステートメントです。
【次ページ】ビジョン・ステートメントの存在意義、作成のための3ステップ
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