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  • 2017/08/22 掲載

小林製薬、ベンツ、CAのマーケが語る「デジタルメディアがテレビ広告を超える日」

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これまでブランディングのメインチャネルは、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌の「4大マスメディア」だった。しかし、スマートフォンの急速な普及により、エンドユーザーの接触はモバイルを中心とした「デジタルメディア」が主流となっている。さらに、デジタルメディアも多様化し、接触ポイントも多岐にわたる。デジタルマーケティングとブランディングの関係性はどのように推移していくのか。小林製薬、メルセデス・ベンツ、サイバーエージェントのブランディングを担う現場担当者が議論を交えた。

Miho Iizuka

Miho Iizuka

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ブランディングを担う現場担当者が、3者3様に語る事例やエピソードにも、それぞれのカラーが際立つセッションとなった

誰に買ってもらえる状態が正しいか? 逆算のアプローチに注目

 2017年7月18~20日に京都/大阪/神戸の3都市で開催された「第4回アドテック関西」。『デジタルマーケティングとブランディングの融合』と題されたパネルディスカッションには、小林製薬、メルセデス・ベンツ、サイバーエージェントのブランディングを担う現場担当者が登壇した。

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モデレータを務めたDatorama Japan セールスディレクター/ビジネスデベロップメントの石戸亮氏。10年以上デジタルマーケティングに従事しており、前職のGoogleではさまざまなデータを活用した統合マーケティング支援やグローバル展開を行う広告主の窓口として活躍した

 最初はモデレーターを務めた石戸 亮氏のリードにより、広告主や代理店の立場から登壇者がそれぞれ注目しているマーケティング手法や顧客へのコミュニケーション戦略についてプレゼンテーションが行われた。

 サイバーエージェントの金子 雅也氏は、広告主のプロモーション予算配分はいまだに「マス予算:Web予算=9:1」だと指摘した。オンラインでの情報量は日に日に増えてはいるが、「デジタルメディアでは、広告主の期待する認知率の獲得がスムーズに達成できない」というのが、大きな理由だという。

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サイバーエージェントでインターネット広告事業本部次世代ブランド戦略室 シニアプロデューサーを務める金子雅也氏

「効率よくリーチできるのは、結局テレビだという認識が広告主にはあります。1つのプロモーションで5,000万円や1億円という予算が決まっている。では、300万円や500万円単位の予算では何をやるのかと考えたとき、『じゃあ、Web動画をYouTubeで流してみよう』という考えになります。『InstagramにCMそのまま流してもウザいよね』と認識されている現状をどう変えていくか。細かいチェックや費用対効果をどう定義するかといったことも必要になるでしょう」(金子氏)

 さらに金子氏は、「オンラインの購買実態も二極化しています。流通インフラが強固に確立されているAmazonのようなECでは、消費者は『良さそうだな』と思った瞬間に買う。認知して購入意向が湧き、店頭に行って購入するという従来のステップが、一気に短縮されています」と指摘する。

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テレビの利用率とオンラインの利用率を見てみても、オンラインの方が確実に接している時間は長い。ただそれを覆す、テレビを超えるメディアがないのも現実だ。とかくWebの攻略には手間暇がかかるうえ、ややこしい

 ここで金子氏は、テレビCMなしで累計1,000万本以上を売り上げ大ヒットしている「BOTANIST(ボタニスト)」というブランドを例に挙げた。BOTANISTはボタニカルシャンプー、トリートメント、ボディーソープなどを取り扱う消費財ブランドで、人気モデル・芸能人の愛用者、楽天年間総合ランキング1位も獲得している。

「彼らはメディア出稿をせずに実売を稼いだうえで、マス広告に予算を投下しています。『売れている商品だから棚に置いてくれ』という通常の決裁順序とは逆の戦略です。そもそもの発想が、『誰に買ってもらえる状態が正しいか?』というところから定義している。こうした消費者とのコミュニケーション戦略は、これからのデジタルマーケティングのヒントになると考えています」(金子氏)

 「ターゲット層に届くメディアはどれか」を考えるのではなく、「ターゲット層を作っていく」ことを念頭に、どれくらいの潜在顧客(ボリューム)が存在するのかをデータから割り出し、その層を取りに行く。こうした「逆算のアプローチ」に注目しているという。

「出口までお持ちします」ではなくて「べっぴんやからまけとくわ」

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小林製薬担当課長の福井貴啓氏。2011年より自社通販のオンラインを担当。Web広告、CRMなど運用管理のほか、新製品企画からプロモーションまで、マーケティング業務全般の経験を持つ

 「熱さまシート」「トイレその後に」などわかりやすいパッケージやネーミングが印象的な小林製薬は、事業年度で100期目を迎える老舗の製薬会社だ。いちばん売れているのは芳香剤だが、通販限定で健康食品やスキンケア商品の販売も行っている。

 小林製薬は4年前に売上げ100億円を突破した。基本的に広告に対する評価は「どのくらい売れたのか」であり、ブランディングからは遠い会社だという。同社の福井 貴啓氏は、ダイレクトレスポンスの通販プレイヤーとしての立場から現場の状況を語った。

「流行りの商品を毎月お届けします、というリピート型通販サービスモデルは、お客さんのブランドロイヤリティがない状態で定期購入を約束してもらうというおかしな構造があります。実際、一年後には半分が止めてしまうビジネスモデルです。では、どのようにブランドロイヤリティを向上させ、継続して購入していただくか。大事なのはプロセス」(福井氏)

 ブランドロイヤリティ向上施策を考えるにあたり、小林製薬では基本方針として“おもてなし”をNGワードに設定している。それは思考停止ワードにもなり得るからだという。

「顕著な例を挙げると、店頭で商品を買ってお会計をしたあと、『出口までお持ちします』というおもてなしサービス。あれ違和感ないですか? 出口まで店員さんと一緒に歩いていく時間って、本当にお客さんが求めていることでしょうか。それなら『お客さん、べっぴんやからまけとくわ』みたいなコミュニケーションのほうが響くのではないでしょうか」(福井氏)

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小林製薬は、オンライン・会報誌・チラシ・DMなどさまざまなタッチポイントを持つ通販事業も手掛ける。接触機会が異なっても顧客にとって“小林製薬さん”であることに変わりはない

 小林製薬ではCRM(顧客関係管理)の観点から、親近感を重視しているという。通販会報誌には同社通販事業部の社員も積極的に顔出しで登場する。社員の顔や名前を知り、何をしている人かを理解してもらう。広義での 『村社会』を作ることで、ロイヤルカスタマーは増えていくと福井氏は語る。

「電話による注文受付は、単なる受付窓口じゃないんです。たとえば、旦那さんに先立たれて子供も都会に出て、一週間誰ともしゃべってない田舎にお住まいの年配の女性が、サプリを注文する電話を想像してください。女性は話したいことがたくさんある。商品の注文だけじゃないんですよね」(福井氏)

 顧客が求めていることを汲み取り、どうポジショニングするか。もちろん、会社全体のマーケティング方針がこうした「顧客べったり」ではない。しかし、通販事業においては顧客タッチポイントの最前線として、「人対人の臨機応変なコミュニケーション」を重要視しているという。

【次ページ】 メルセデス・ベンツは「ストーリーテリングにより“知られざるドア”を開く」

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