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- 2018/03/14 掲載
「持続可能な開発」に都市設計やエネルギー問題はどう関わるのか
誰でもわかるSDGs解説
11億人がエネルギー多消費型社会に暮らすとどうなる?
気候変動の影響は、干ばつの拡大、巨大台風の発生、降水量の増減、雪氷の融解など、すでに数多くの変化や被害が世界中で確認されています。日本でも、ゲリラ豪雨や農作物の適地の変化など、気候を原因とする社会経済へのさまざまな影響が出始めています。
目標13の開発目標は、「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」です。2030年の達成を目指す目標でありながら、緊急性を謳っていることからもその対策は待ったなしであることが読み取れます。
2015年12月、世界は2020年以降の温室効果ガス排出削減などのための新たな国際的枠組み「パリ協定」に合意しました。これは、18世紀半ばの産業革命以降の気温上昇を今世紀末2℃未満に抑えることを目標としています。
しかし、2℃未満に抑えるために計算上、排出可能な二酸化炭素の上限値(約2.9兆t)のうち、すでに約3分の2は排出されてしまっています。
つまり、2050年にはGHG排出量を40%~70%削減、2100年にはほぼゼロにしないと「気温上昇を今世紀末2℃未満に抑える」という目標は達成できず、社会、経済、技術、制度、生活者の行動や選択などあらゆる分野での変革が不可欠です。
とりわけ、エネルギーの使用と地球温暖化は密接につながっています。現代文明は、石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料の高度利用の歴史そのものです。つまり地球温暖化や気候変動は、その進歩の影の側面が時間を伴って表れてきた現象です。
世界は、GHGの排出を抑制していくために、低炭素社会の実現にむけたエネルギーの供給・需要の両輪で変革を成し遂げていかなければなりません。供給側では、化石燃料に頼らない再生可能エネルギーの普及・拡大、需要側は、徹底した省エネによるエネルギー利用効率の改善やエネルギー多消費社会からの脱却が必要です。
目標7の開発目標は、「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」です。
先進国では、エネルギーの“使い方”が課題になりますが、一方の途上国ではいまだ11億人が電気のない生活をしています。
ただし、この11億人がそのままエネルギー多消費型社会に移行すれば、資源の枯渇やGHGの更なる排出増への懸念があります。同じ轍を踏まないために、いかに持続可能なエネルギーの調達や利用を広めることができるか、パリ協定後、世界では再生可能エネルギーを中心とした大規模な投資、そして市場や技術を巡る競争が加速しています。
2050年には年50兆円市場が見込まれる「適応」ビジネス市場
目標13(気候変動)に関して経済やビジネスの観点から考えてみましょう。気候変動対策は、GHGそのものの排出削減と吸収を行う「緩和」と、すでに起こりつつある気候変動の変化や影響に対処し、被害を回避・軽減していく「適応」の大きく2つに分けることができます。
日本のGHG総排出量の約93%は二酸化炭素で占められており、エネルギー起原のものが約87%にもなります。
つまり、「緩和」においてはエネルギー対策が大変重要であり、経済成長を伴いながら、エネルギー消費量そのものは抑えていくことが必要です。これを「デカップリング」と言います。ドイツでは、過去20年間、高い経済成長を維持しながら、エネルギー消費量やGHGを減らしていくことに成功しています。
「適応」は、気候変動で発生しうるさまざまなリスクに対して、社会経済のシステムを適応させて、影響を最小限にする取り組みです。特に気候変動の影響は、途上国や社会的弱者などに顕在化しやすく、早期に対策を進めてレジリエンス(強靭性)を確保することが求められます。
国連環境計画(UNEP)では「適応」にかかわる潜在的ビジネス市場規模を2050年時点で年間最大50兆円、英国政府は同分野のビジネス分野が5年で約7%拡大していくと予測しており、適応ビジネスは将来的に大きく成長していくことが見込まれています。
たとえば、ユーグレナは、バングラデシュで気候変動による海面上昇の影響で塩害被害を受けている農村地域を対象にして緑豆栽培事業を展開、現地住民の収入や雇用、貧困問題の解決につながる農業ビジネスを確立しています。
2018年2月には、ようやく日本でも「気候変動適応法案」が閣議決定され、官民一体となった適応への取り組みがスタートしました。リスクを新たな事業機会と捉え、企業の成長につなげていく多様な可能性が広がっています。気候変動対策には不可欠な防災も、日本の技術や経験が生かせる分野として成長が期待されています。
【次ページ】都市にも“レジリエント”の視点を持つこと
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