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  • 2018/05/28 掲載

地球映像配信の「EarthNow(アースナウ)」、ゲイツやソフトバンクが出資する狙い

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米マイクロソフトの創業者ビル・ゲイツ氏やソフトバンクグループらが出資を決めた「EarthNow(アースナウ)」は2018年4月、地球全体のリアルタイム映像配信を手掛けるプロジェクトを開始した。低コストで強力な情報処理能力を搭載した人工衛星を大量に用いることで、これまでの映像システムよりもはるかに遅延を押さえることができるという。森林火災や火山の監視、違法漁船の取り締まりなど、さまざまな分野での活用を目指しているEarthNowは世界を変えるポテンシャルがあるのか。同社の取り組みを探ってみたい。

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

執筆:在スペイン コンサルタント 佐藤 隆之

Mint Labs製品開発部長。1981年栃木県生まれ。2006年東京大学大学院工学系研究科修了。日本アイ・ビー・エムにてITコンサルタント及びソフトウェア開発者として勤務した後、ESADE Business SchoolにてMBA(経営学修士)を取得。現在は、スペイン・バルセロナにある医療系ベンチャー企業の経営管理・製品開発を行うとともに、IT・経営・社会貢献にまたがる課題に係るコンサルティング活動を実施。Twitterアカウントは@takayukisato624。ビジネスモデルや海外での働き方に関するブログ「CTO for good」を運営。

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EarthNowのWebサイトには同社の取り組み内容が詳細に公開されている
(画像:EarthNow Webサイトより)

EarthNowという企業

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 新たな宇宙ベンチャー企業EarthNowの登場が話題を呼んでいる。同社は多数の人工衛星を飛ばし、地球の映像をリアルタイムに撮影・配信するという技術を開発。行政や民間のユーザーに対し、モバイル機器からの映像を配信し、これまで得られなかった知見を提供する。現在の技術よりも映像遅延が少なく、現在の状況により近い状況が観察できるという。

 同社のWebサイトでは、以下の活用方法が提案されている。

・ 違法漁船の現行犯での取り締まり
・ 拡大する台風の監視
・ 森林火災発生の検知
・ 噴火を開始する火山の監視
・ 全世界を網羅するニュース映像をメディアに提供
・ 回遊する大型の鯨を追跡
・ 「スマートシティ」の効率化を支援
・ 必要に応じて穀物の健康状態を診断
・ 紛争地帯を観察し、危機的状況へいち早く対応
・ 遠隔地でも、街や村の「生きた」3次元モデルを素早く作成
・ 宇宙空間に浮かぶ美しく青い球体である地球を眺望
 対象範囲が広く、これまで目の届かなかった事象について、EarthNowはリアルタイムの映像分析を行い、立ちどころに対策が打てるようにする。いまのところは政府や大企業を顧客とするビジネスモデルであるが、一般向けにモバイルアプリから地球上のあらゆる映像を閲覧できるようにする計画もあるという。

 多数の特許を保持するIntellectual Venturesからスピンアウトする形で2017年に始まった同社が注目された理由の1つには、同社に出資している投資家の顔ぶれがある。前出のゲイツ氏を筆頭に、世界最大手の航空宇宙機器メーカーであるエアバス、衛星通信ベンチャーOneWebの創業者グレッグ・ワイラー氏、そして、日本のソフトバンク・グループが名を連ねる。

 EarthNowは、OneWebが保有する技術を大幅に改良し、人工衛星上で行う画像処理を新たに開発すると見られている。そして、エアバスが人工衛星の生産を担当する役割だ。

  ソフトバンクは10億ドルの資金をOneWebに出資しているのに続き、EarthNowにも資金提供を行う。なお、調達額やロードマップ、開発する技術の詳細は明らかになっていないが、「大量生産できる、低コストで高性能な人工衛星」を開発し、リアルタイムな映像を配信するビジョンを示している。

 EarthNowの「他の民間人工衛星を合わせたよりも強力なCPUとともに、これまでにない処理能力を人工衛星は搭載する」という戦略も興味深い。 従来は、人工衛星に搭載するコンピュータは古い世代のものを使っており(参考記事)、情報処理は地球へデータを送信してから行うものとされていた。 EarthNowでは人工衛星側で情報処理を行うため、より効率的にデータを扱えるようになると推測される。

 情報処理の効率化において鍵を握るのが機械学習だ。膨大なデータの中から意味のあるルールを導出したり、異常値の検知やデータの予測を行ったりできる。前述の衛星画像の利用方法から分かる通り、地球全体から取得する果てしない量の映像から、決定的瞬間を検出するのがEarthNowの狙いだといえる。

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EarthNowのビジネスモデル

人工衛星業界は改良の余地だらけ

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 ベンチャー業界では、「従来のやり方よりも10倍よくなる解決策に投資せよ」という規範がある。しかし、米国のある投資家によると、「宇宙産業では1000倍、あるいは1万倍よくなる」手法も目にするという。人工衛星は改良の余地が大きい分野なのだ。

 人工衛星画像に関わる市場は拡大が予想されている。2017年の295億ドルから毎年12.6%の伸びを見せ、2026年には858億ドルに達するとの調査がある。 自然災害や人災の監視といった政府・民間によるニーズの高まりに加え、人工衛星や機械学習技術の進歩が市場拡大を牽引している。

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 人工衛星技術に機械学習を適用するベンチャー企業の資金調達は、近年報じられることが多くなった。

 2013年に創業したOrbital Insightは、Google ベンチャーズやセコイア・キャピタル、伊藤忠商事から7800万ドルを調達し、金融・農業・防衛・人道支援といった目的で衛星画像解析を行っている。 その他にも、SpaceKnow、Rezatecといった多目的のデータ解析を行う新興企業や、1つの業界に特化して画像解析を行うCape Analytics(保険)、Descartes Labs(農業)、Tellus Labs(農業)などが知られている。

【次ページ】機械学習で人工衛星映像からの知見を獲得

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