• 会員限定
  • 2018/09/05 掲載

アカデミー映画から学ぶ米金融の「モラルと虚実」 信用が借金の担保になるワケ

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
下手なビジネス書を読むよりも映画から学べることがある。今回は80年代からゼロ年代のアメリカ金融事情を大つかみできる3本の「金融映画」を紹介する。アメリカ金融事情の一片を学ぼう。エンターテインメントとして極上のアカデミー映画から何を見出せるだろうか。

執筆:編集者/ライター 稲田豊史

執筆:編集者/ライター 稲田豊史

キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。 著書は『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』。おもな編集書籍は『押井言論 2012-2015』(押井守・著/サイゾー)、『ヤンキーマンガガイドブック』(DU BOOKS)、『団地団 ~ベランダから見渡す映画論~』(大山顕、佐藤大、速水健朗・著/キネマ旬報社)。「サイゾー」「ビジネス+IT」「SPA!」「女子SPA!」などで執筆中。 (詳細

photo
映画から学ぶ「金融」のエッセンス
(© Péter Mács - Fotolia)

珠玉のアメリカ金融映画3作品

関連記事
 80年代からゼロ年代のアメリカ金融事情を大つかみできる、3本の映画がある。マイケル・ダグラスがアカデミー主演男優賞を受賞した『ウォール街』(87)、アカデミー賞6部門ノミネートの『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』(13)、アカデミー脚色賞受賞の『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(15)だ。

 いずれも血湧き肉躍る一級のエンタテインメントにして、胸が締めつけられる人間ドラマ。決して、知識詰め込み型の退屈な「お勉強映画」ではない。

 『ウォール街』が描く時代は1985年。証券会社に勤める営業マン・バド(チャーリー・シーン)が、成り上がりたいばかりにカリスマ投資家ゴードン・ゲッコー(マイケル・ダグラス)と取引し、ゲッコーの指示でインサイダー取引に手を染めてしまう物語だ。

 全米公開は1987年12月、すなわち1987年10月に起きたNY証券取引所における株価の大暴落・ブラックマンデーより後だが、映画が製作されたのはそれ以前なので、劇中にブラックマンデーの描写はない。

 『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』は実在の元株式ブローカーであるジョーダン・ベルフォートの自伝を元にした作品で、主に描かれる期間は1987年から1990年代全般。2001年にドットコムバブルが弾ける少し前までの話だ。

 ジョーダン(レオナルド・ディカプリオ)は大手証券会社に入社した直後、ブラックマンデーに遭遇して失職。株式仲買人を経て、自らの株式仲介会社を立ち上げる。90年代アメリカのバブリーな株式ブームを背景に、ジョーダンが投資詐欺やマネーロンダリングで荒稼ぎしていく物語である。

 『マネー・ショート』で描かれる期間は、2005年3月からリーマン・ショックが発生して金融市場が崩壊した2008年9月まで。マーケットの異変に誰よりも早く気づいた少数の投資家や銀行家たちが、周囲の反発に屈することなく大胆に逆張りし、リーマン・ショックによって大儲けする物語だ。

 いずれの作品も多少の金融専門用語が登場するが、実はそれほど気にしなくてもよい。「すぐれた麻雀マンガや将棋マンガは、ゲームのルールを知らなくても楽しめる」のと一緒。歌にたとえるなら、歌詞の意味ではなく語感や旋律を賞味する快感に満ちている。

 しいて言うなら、『ウォール街』では「インサイダー取引」、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』では「IPO(新規上場株式)」と「未公開株」、『マネー・ショート』では「サブプライムローン」と「空売り(ショート)」という用語だけを、前もってググっておけばOKだ。



ゲッコーに憧れたアメリカ人

 『ウォール街』公開当時、米国の観客が魅力を感じたのは良心の呵責にさいなまれる主人公のバド……ではなく、利益追求のためなら情け容赦ないマネーの鬼、ゲッコーだった。

 当時のアメリカは貿易赤字に悩まされており、世界に冠たるアメリカの威光は既に失墜。観客にとってゲッコーは「経済的に強いアメリカ」の象徴であり、怠慢な企業の経営陣を華麗に糾弾する彼は頼もしい存在として映ったのだ。劇中でゲッコーが口にする「株式会社USAを立て直す力」には、悪役であることを超えた求心力が帯びていた。

 嘘か真か、アメリカでは『ウォール街』の影響で、ゲッコーに心酔して投資銀行への入社を希望する者が増えた……という話もある。その少し後の時代を描いた『ウルフ・オブ・ウォールストリート』では、主人公のジョーダンが「伝説のゲッコーだ」と称されてもいた。少なくとも80年代末から90年代前半の米国金融業界において、ゲッコーはダークヒーロー的なアイコン扱いだったということだ。

 興味深いのは、各作品における顧客、つまり株を買ったりローンを組んだりする一般客の描かれ方の違いである。

 『ウォール街』における顧客は、「証券マンに無理を言って損失の責任を押し付ける嫌な金持ち」として悩みのタネ扱いされている。しかし『ウルフ・オブ・ウォールストリート』では立場が逆転。「少しでもいい暮らしをしようと、なけなしの金で株を買う庶民」をジョーダンが詐欺的トークでカモる構図となっている。

 『マネー・ショート』では「とにかく無学で情弱な市民」がマネーゲームの犠牲者であり、そこには詐欺的トークすら必要ない。なぜなら、彼らに無茶なローンを組ませるシステムそのものが、情弱を食い物にするよう、うまいこと出来上がっているからである。

【次ページ】3者3様、金融マンたちのモラル

関連タグ

関連コンテンツ

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます