このたび、国立情報学研究所の中島震教授や立命館大学の高梨千賀子准教授と共著で『
デジタル・プラットフォーム解体新書』(近代科学社)を刊行しました。よろしければお手に取っていただければと思います。
ハノーバーメッセ2019の概要
ハノーバーメッセ2019のメインテーマとしては「Integrated Industry - Industrial Intelligence」が掲げられ、産業価値の高度化をもたらすインテリジェンス化の重要性を訴えました。
また、今年はコンプレッサーや真空技術の展示会であるComVac(隔年開催)との同時開催となりました。コンプレッサーや真空技術からもたらされるプロセス自動化や排空気清浄システムなどは今後のスマート工場に不可欠な技術です。
今年のパートナー国は北欧のスウェーデンでした。2017年のポーランド以来、2年ぶりの欧州圏のパートナー国となりました (2015年:インド、2016年:米国、2017年:ポーランド、2018年:メキシコ) 。なお、2020年のハノーバーメッセの開催は4月20日~24日、パートナー国はインドネシアに決定しています。
ITベンダーの展示拡大とCeBIT開催中止
ドイツの展示会運営会社であるDeutsche Messeは、CeBIT(国際情報通信技術見本市)を廃止し、2019年6月に予定していた次回開催も取りやめると2018年11月末に発表しました。同見本市はハノーバーメッセを母体として生まれた経緯があり、ハノーバーメッセに吸収された形です。
CeBIT中止の背景にはここ数年の集客低迷があると思われますが、それに呼応するようにハノーバーメッセは、昨年くらいから各国のビッグITベンダーであるSAP、マイクロソフト、インテル、アマゾンウェブサービ(AWS)、富士通、オラクルなどの展示が出そろうなど、IT系の展示会の色合いが強くなってきています。
すなわち、今年のハノーバーメッセへのITベンダーの出展内容は、従来CeBITで展示をしていたIT訴求も含まれたものになってきているのです。
しかし、その中でも、ハノーバーメッセの展示内容の全体的な傾向としては、産業見本市としての特性や時代背景を写した価値訴求型のものが多いといえます。
インダストリー4.0はより地に足の着いた取り組みに
過去数年のハノーバーメッセを振り返ると、2011年のインダストリー4.0発表当時はコンセプト訴求型の展示が多くありました。しかし、近年はインダストリー4.0のエコシステムの中核になろうとする企業が、産業用のオペレーティングシステムとしてのプラットフォームを訴求し、IoT情報を産業機器や社会インフラなどから収集して活用するようなデモ展示が増えていった印象です。
特に、昨年あたりからの傾向としては、インダストリー4.0を一挙に実現するのは困難であることに気付き始め、より現場レベルで成果を生み出す仕組み(xRを活用した作業アシストや作業記録の仕組みなど)に関するソリューション展示が目立ってきたのもその特徴といえるのではないでしょうか。
このようなハノーバーメッセの展示内容の変遷から、インダストリー4.0の取り組みは「着実に進んでいる」という印象を受けます。シーメンス、ボッシュなどの大企業だけでなく、中堅企業でも自社機器をインダストリー4.0のリファレンスアーキテクチャー(RAMI4.0)に対応する動きが進み、機器の製造履歴・使用状態のモニタリング、情報活用の事例が多く講演・出展されていました。
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