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  • 2019/06/05 掲載

次世代のサービス設計、「PDUモデル」で開発者とユーザーとの関係を確認すべき理由

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企業との共同研究を積極的に進めている明治大学学総合数理学部 渡邊研究室が「プロトタイプ展」を開催した。研究成果を広く内外に公開するとともに、UIデザイナー、開発者、研究者らを招き、次世代のサービスデザインをテーマにカンファレンスを行った。本稿では、渡邊恵太准教授が感じるサービス設計の課題を、「PDUモデル」と呼ばれる関係図を通して整理するとともに、プラットフォームとして大きく成長し続けているnoteの深津貴之氏、Scrapboxの洛西一周氏らとともに登壇したセッションを紹介する。

執筆:フリーライター/エディター 大内孝子

執筆:フリーライター/エディター 大内孝子

主に技術系の書籍を中心に企画・編集に携わる。2013年よりフリーランスで活動をはじめる。IT関連の技術・トピックから、デバイス、ツールキット、デジタルファブまで幅広く執筆活動を行う。makezine.jpにてハードウェアスタートアップ関連のインタビューを、livedoorニュースにてニュースコラムを好評連載中。CodeIQ MAGAZINEにも寄稿。著書に『ハッカソンの作り方』(BNN新社)、共編著に『オウンドメディアのつくりかた』(BNN新社)および『エンジニアのためのデザイン思考入門』(翔泳社)がある。

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渡邊恵太氏(左)、note 深津貴之氏(右奥)、Scrapbox 洛西一周氏(右手前)


“多様性を許容する”世界で何を課題としてデザインするか

 渡邊恵太 氏は『融けるデザイン』(ビー・エヌ・エヌ新社)の著書もある、インタラクションデザインの研究者だ。今回のカンファレンスでキーワードとして掲げたのは「PDUデザイン」。下図は、日本の企業とイノベーションの間にある齟齬を整理する目的で渡邊氏が用いている階層モデルだ。

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プラットフォーマー、デベロッパー、ユーザーの関係

 プラットフォーマーというと、日本では、ビジネスモデルとして取り上げられるプラットフォーム戦略的な話が多いが、ここでのプラットフォーマー/プラットフォームはもっとプリミティブな意味合いだ。

 渡邊氏がまず指摘するのは、多様性がさまざまな形で露出するようになったのが現代であり、インターネットというインフラはそれを増幅している。問題は「それをどう許容するか」だという。

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明治大学学総合数理学部准教授 渡邊恵太氏

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「1つに、インターネットやSNSによって、非常に個人というものが露出する時代になったということがあります。もともと世界は多様なんですが、その多様性が露出してきたという時代なのかなと思います。SNSの影響で個人が露出という話は、これはある意味でインターネットが許容した人類の新しい希望というようにとらえることもできるんじゃないかと思っています。

 すると、どういうことが起きるかというと、個人の趣味嗜好のレベルにおいてもおそらく多様性を大事にしていかなければならない。たとえばトイレの作り方など道具や環境の作り方というのも、その多様性に準じていかなければならない。そういう時代になろうとしているのだと思います」(渡邊氏)

 世界はどんどん多様に満ちていき、多様であることを許容していくような世界に向かっている。そのとき、ユーザーそれぞれの価値観が非常に異なるという状況で、何をどうやって設計しようかということに、課題設定者(サービスを提供する、あるいは製品を作る側)は対応しなければならない。

 そうした流れの中で、デザインが設計の分野だけではなく、ビジネスの分野においても重要性を増している。「モノからコトへ」「体験が大事」などのキーワードがよく聞かれ、方法論としてデザイン思考やラピッドプロトタイピングという言葉も日常的によく聞くようになっている。

 しかし、たとえばデザイン思考などで得られる、ユーザーを観察した結果として得られる具体的かつ個別な現象を、どうやって商品にすればユーザーのニーズを満たすことができるだろうか。

「ハードウェアの例になりますが、新しい扇風機を開発しようとしたとき、デザイン思考的に現場へ行ってユーザーの扇風機の使い方なり、その周辺のことを観察して新しい製品開発に活かそうみたいなことはよくある話だと思います。

 そういうときに、非常に興味深いことが起きるわけです。Webにあった事例なんですが、うちでも実家でとうもろこしを茹でたあとすぐに食べたいからと扇風機で冷やしていた記憶があるんですが、『扇風機でキュウリを冷やしていた』事例を発見して、これはいい気づきを得た、扇風機に『キュウリを冷やすボタン』をつけようなどということをしてしまうと、おそらくそのメーカーは黒歴史を抱えることになると思うんですね。

 こうしたユーザーの興味深い行動というのは、生活を見れば見るほどたくさん現れてきます。ただ、面白い行動になればなるほど、非常に個別ニッチな事例になる。大半の人は『それは別にいらない』というような反応、おそらくネガティブな反応をしてしまうと思います。共感する人、それを理由に買う人もいるかもしれないけれど、それは非常に限られた人にしか共感を得られないということが課題になると思います」(渡邊氏)

 そこで、プラットフォーマー(P)、デベロッパー(D)、ユーザー(U)という3つのレイヤーに分かれるPDUモデルで考えてみようということなのだ。

プラットフォーマーとはいったい何なのか

 わかりやすいところでは、アップル、グーグルなどがこの構造だ。

 アップルはプラットフォーマーであり、iOSのアプリを開発する個人の開発者がたくさんいて、ユーザーがいる。一見ビジネスモデルのようにも見える構造が、実は、非常にニッチなニーズに対してうまく適応できる仕組みになっている。

 プラットフォーマーであるアップル、グーグルといった企業がデザイン思考などを使ってユーザーのニーズを毎回細かく調査をしているかというと、これは憶測に過ぎませんが、おそらくしてはいないだろう。むしろ、しなくていいと捉えているのではないか。というのは、デザイン思考をしてユーザーのニーズを探索するのはプラットフォーマーの役割ではなく、この大量の個人のデベロッパーたちの役割だからだ。

 デベロッパー自身の自己表現であったり、ビジネス的な理由であったりするが、ユーザーのニーズを探索するのはデベロッパーなのだ。プラットフォーマー側はそのための開発環境であったり、デベロッパーをエンゲージする仕組みを用意する。それが今、アップルみたいなプラットフォーム企業が行っていることなのだ。

 もちろん、プラットフォーマーにはさまざまな定義があるが、ここでは「個人のデベロッパーを抱えている企業体」とする。当然、B2B2Cでパートナー企業と協業という形もあるのだが、個人が入ってくることでデベロッパーの多様性が爆発的に増える。そこがこのPDUピラミッドで言うデベロッパーのポイントだ。

「日本でも、プラットフォーマーにならないとこれから生き残れないとする記事をよく見かけますが、プラットフォーマーになるといったときに、ものを売って部品を供給することがプラットフォーマーかというとそうではない。それは『売る』という構造だけになってしまって、多様なユーザーニーズを満たすという意味でのプラットフォーマーではないのかなと考えます。これはビジネスモデルということ以上に、多様なユーザーをプラットフォーマー企業として許容するための仕組みとして優れていると考えられるわけです」(渡邊氏)

 デザイン思考におけるインサイト発見のプロセス、参与観察といったプロセスの有用性はもちろん否定するものではないが、一方で、ユーザーを見るほどそのニーズがニッチになりがちで、マス向けのビジネスとの相性がうまくいかないという状況が起こっている。サービス設計の流れの中でも、昨今、ユーザー中心設計という言葉が傍らに置かれるようになっているが、究極的にはこれは個別解ということになってしまう。その都度その都度、答えを出さなければ、究極的にはユーザー中心設計にはならないのではないかということも疑問として現れている。

なぜハッカソンやアイデアソンがうまくいかないのか

 渡邊氏がさらに指摘するのは、企業が行うハッカソンやアイデアソンの状況だ。多くの場合、新たなイノベーション創出を目的に行われているが、なかなかうまくいかない。成功事例と言えるケースは少ない。それはなぜか、渡邊氏はこう分析する。

「これは、日本の企業がデベロッパー体質だからです。デベロッパー体質の企業でハッカソンを行うと、そこで何が起こるかというと、要はアイデア出しを手伝ってもらうような状況になります。しかし、じゃあそれを社内で製品化するかというと、やはりなかなか難しい。それはどういうことかというと、企業としては、あとはそのアイデアを採用するかしないかという視点だけでしか見れない。採用し商品化して発売するのは企業です。

 しかし、プラットフォーマー企業では違ってきます。たとえばIBMがIBM Watsonを使ったハッカソンをやります。そこで優勝したチームは、Watsonを使った非常に優れたサービスのアイデアを出しました。それをエンカレッジして、ぜひ起業してくださいという話で賞金を渡したりします。つまり、そこで出たアイデアを自社がやるかやらないかではないわけです。結果的に、プラットフォームが使われれば回り回って利益みたいなものは戻ってきます」(渡邊氏)

 プラットフォーマーとしては、デベロッパーを抱えるということが非常に大事になってくる。先ほどから例にしているアップルでは、iOSのデベロッパーがグローバルで2000万人いるといわれている。これはある意味、マス・カスタマゼーションが可能な規模だ。2000万人のデベロッパーを抱えることで、非常に多様なユーザーにさまざまなアプリケーションを提供できる仕組みになっている。

 これは今、Developer Relations(DevRel)がビジネス分野で注目されていることにもつながっている。プラットフォームを持つ企業はおおよそエバンジェリスト、あるいはアドボケイトと呼ばれる人を擁している。彼らはデベロッパーのエコシステムを作るという意味でも、非常に重要な役割を果たしている。

 渡邊氏は自身も起業し、「WebMO」という製品を発売している。また、研究室では企業との共同研究、そして講演などを行っている。企業との会話を通し、やはり個人のデベロッパーの扱いがあまりうまくできていなかったり、重要性を認識していないというのを感じると言う。

 プラットフォーマーはデベロッパーがいないと成り立たない。そして、その先のユーザーまで見据えて、世界がどういう方向に動いているかということを注意深く見る必要がある。デベロッパーのミクロな理解とユーザーのマクロな理解、それが非常に大事になってくる。

「これからダイバーシティだということを考えると、ダイバーシティというのは多様性それだけではなく、その設計方法における解がないという可能性を許容することがポイントになってくるのではないか。まさに今やられているようなデザイン思考などで解を求めて、解を提供するという方法には、この先行き詰まる可能性が高い。かといって、カスタマイズだけでは非常に表面的である。そんな時代なのかなと思います。個人のデベロッパーがUX、ユーザーのニーズを満たすために大事になるわけですが、今必要なのはその理解なのかなと思います」(渡邊氏)

【次ページ】クリエイター/デベロッパーとユーザーを区別していない

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