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- 2019/06/04 掲載
地上波強すぎ? 日本だけが「グローバル超大作」で盛り上がれない理由
稲田豊史の「コンテンツビジネス疑問氷解」
前編はこちら(※この記事は後編です)
長過ぎるシリーズについていけない?
しかし、そのお祭り状況に乗っかってMCU作品を試しに1~2本観てみたものの、ストーリーがいまいち理解できなくて楽しめなかった……という筆者の友人は少なくない。
これは、MCU作品は1本ごとが独立した映画作品であるものの、別の作品で起こった事件をセリフ内でさらっと言及したり、特に詳しい説明なく別の作品の主人公を登場させたりと、「観客が今までのMCU作品をすべて観ている」ことを前提に脚本が書かれているためだ。
そもそも主役級の登場人物だけでも膨大、かつ敵の設定や鍵になる重要なアイテムのうんちくが「ものすごく多い」のがMCUなので、一見さんにはかなり辛い作り。にもかかわらず、なぜアメリカほか各国でここまでヒットしているのだろうか。
かつて映画作品のシリーズものと言えば『マトリックス』なり『ロード・オブ・ザ・リング』なりの三部作が普通で、『パイレーツ・オブ・カリビアン』でも5作、『ハリー・ポッター』でも8作、三部作が3度作られた『スター・ウォーズ』でも9作だった。
エンタメは大きく変わった。とてつもなく肥大した物語の物量、緻密な情報から得られる感動や衝撃は、かつてとは比べ物にならないほど濃密なものとなった。しかしその一方で、楽しみ方のパラダイムシフトについていけない者は、最先端のグローバルカルチャーを享受することができない。デジタル・デバイドならぬエンタメ・デバイド。観客側の分断が生まれつつある。
アメリカの“ピークTV”に乗り遅れた日本
『ゲーム・オブ・スローンズ』がアメリカで盛り上がっている話題はよく耳にする。また、日本の熱狂的な視聴者が作品について興奮気味に語る様子も、SNSから目に入ってくる。しかし30代以上の読者であれば、過去の日本における海外TVドラマブーム──90年代初頭の『ツイン・ピークス』、2000年代初頭の『24 -TWENTY FOUR-』など──に比べれば「限定的な盛り上がりでは?」と感じるかもしれない。なぜだろうか。
4大ネットワークとはABC、CBS、FOX、NBCのこと。無料の地上波放送でアメリカ全土に番組を放映するテレビ局のことだ。
実際『ゲーム・オブ・スローンズ』はセックス描写や暴力描写がやたら多いですし、『ブレイキング・バッド』は麻薬にまつわる物語。『ウォーキング・デッド』は残虐描写がウリです。アメリカ人の多くは、これらをネットにつないだTVで有料視聴しています」(宇野氏)
とはいえ、それを言うならアメリカの視聴条件もさして変わらない。にもかかわらず、なぜアメリカでは有料放送作品がそこまで人気になっているのか。
ですからネットの定額制動画配信サービス――日本では「サブスク」という奇妙な略語がつかわれることが多いですが――への視聴環境移行がスムーズにいった。TVモニタにケーブルをつなぐのかネット回線をつなぐのかの違いですし、有料視聴にも慣れている。
しかしアンテナを立てて電波を受ける無料の地上波放送や衛星放送に慣れてきた日本では、視聴環境をがらっと変えなければいけない。また、そもそもの権利元がコンテンンツを塩漬けにしたりしてきた。レイティンングフリーの作品の出しどころがなかったんです」(宇野氏)
日本は地上波が強すぎる
もちろん、日本には日本独自の有料放送が古くからあった。WOWOWやスカパー!である。ただ、有料放送に多くの視聴者を見込めない日本市場では、大枚をはたいて海外のTVドラマシリーズを買い付けたところでペイできない。Huluの日本上陸は2011年、NetflixとAmazon Prime Videoの日本上陸は2015年と、ピークTVをリアルタイムにキャッチアップするには少々遅かった。Huluの上陸は比較的早かったが、日本での展開に苦戦して2014年には国内ネットワーク局である日本テレビ放送網の傘下になっている。日本は長らく地上波が強すぎたのだ。
【次ページ】アメリカ人は暇なのか?
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