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  • 2019/06/04

地上波強すぎ? 日本だけが「グローバル超大作」で盛り上がれない理由

稲田豊史の「コンテンツビジネス疑問氷解」

欧米でのエンタメビジネスは、22本もの映画で描く「マーベル・シネマティック・ユニバース(Marvel Cinematic Universe/通称:MCU)」や、何シリーズにもわたるドラマなどに示されるよう、その内実が大きく変わってきた。膨大な物語の物量、緻密な情報から得られる感動や衝撃は、かつてとは比べ物にならないほどだ。日本がこうした海外の状況をキャッチアップできない背景には、どんな要因があるのか。映画・音楽ジャーナリストの宇野維正氏に聞いた。今回は後編だ。

編集者/ライター 稲田豊史

編集者/ライター 稲田豊史

編集者/ライター。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。 著書に『ドラがたり――のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。 手がけた書籍は『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(原田曜平・著/幻冬舎)構成、『パリピ経済 パーティーピープルが市場を動かす』(原田曜平・著/新潮社)構成、評論誌『PLANETSVol.9』(第二次惑星開発委員会)共同編集、『あまちゃんメモリーズ』(文芸春秋)共同編集、『ヤンキーマンガガイドブック』(DUBOOKS)企画・編集、『押井言論 2012-2015』(押井守・著/サイゾー)編集など。「サイゾー」「SPA!」ほかで執筆中。(詳細

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『ゲーム・オブ・スローンズ』はアメリカを中心にヒットしているが……
(Photo/Getty Images)

前編はこちら(※この記事は後編です)


長過ぎるシリーズについていけない?

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宇野維正 氏

1970(昭和45)年、東京都生まれ。映画・音楽ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌の編集者を経て、2008(平成20)年に独立。著書に『1998年の宇多田ヒカル』『小沢健二の帰還』。共著に『くるりのこと』『日本代表とMr. Children』などがある。
 前回はアメコミヒーロー映画がなぜ長らく日本でヒットしていなかったか、そして2019年にようやくそれが打ち破られる「お祭りイヤー」が訪れたということを、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正氏に聞いた。

 しかし、そのお祭り状況に乗っかってMCU作品を試しに1~2本観てみたものの、ストーリーがいまいち理解できなくて楽しめなかった……という筆者の友人は少なくない。

 これは、MCU作品は1本ごとが独立した映画作品であるものの、別の作品で起こった事件をセリフ内でさらっと言及したり、特に詳しい説明なく別の作品の主人公を登場させたりと、「観客が今までのMCU作品をすべて観ている」ことを前提に脚本が書かれているためだ。

 そもそも主役級の登場人物だけでも膨大、かつ敵の設定や鍵になる重要なアイテムのうんちくが「ものすごく多い」のがMCUなので、一見さんにはかなり辛い作り。にもかかわらず、なぜアメリカほか各国でここまでヒットしているのだろうか。

「まさに、そこが今回の話の核です。これまでのエンタメは“一見さんお断り”がネガティブに捉えられていましたが、今は“一見さんお断り”こそがメインストリームであり、トップコンテンツなんです。MCUを22本、約50時間分観なければ感動できない『アベンジャーズ/エンドゲーム』には、映画22本分の感動がある」(宇野氏)

 かつて映画作品のシリーズものと言えば『マトリックス』なり『ロード・オブ・ザ・リング』なりの三部作が普通で、『パイレーツ・オブ・カリビアン』でも5作、『ハリー・ポッター』でも8作、三部作が3度作られた『スター・ウォーズ』でも9作だった。

「この傾向は、ピークTV(アメリカにおけるテレビの黄金時代/前回記事参照)の中心的存在であり、2019年5月に9年越しの最終回を迎えた『ゲーム・オブ・スローンズ』や『ブレイキング・バッド』(08~13年放映)といった長大なTVドラマシリーズにも言えることです。『ゲーム・オブ・スローンズ』は全8シーズン・73話、全部で80時間くらいありますからね。映画にしろTVドラマにしろ、エンタメの楽しみ方が抜本的に変わったんです」(宇野氏)

 エンタメは大きく変わった。とてつもなく肥大した物語の物量、緻密な情報から得られる感動や衝撃は、かつてとは比べ物にならないほど濃密なものとなった。しかしその一方で、楽しみ方のパラダイムシフトについていけない者は、最先端のグローバルカルチャーを享受することができない。デジタル・デバイドならぬエンタメ・デバイド。観客側の分断が生まれつつある。

アメリカの“ピークTV”に乗り遅れた日本

 『ゲーム・オブ・スローンズ』がアメリカで盛り上がっている話題はよく耳にする。また、日本の熱狂的な視聴者が作品について興奮気味に語る様子も、SNSから目に入ってくる。しかし30代以上の読者であれば、過去の日本における海外TVドラマブーム──90年代初頭の『ツイン・ピークス』、2000年代初頭の『24 -TWENTY FOUR-』など──に比べれば「限定的な盛り上がりでは?」と感じるかもしれない。

「“ピークTV”の流れのなかには『ゲーム・オブ・スローンズ』以外に、『ブレイキング・バッド』や『ウォーキング・デッド』といった有力な作品もありますが、日本はその流れに対してリアルタイムにムーブメントを作ってこれませんでした」(宇野氏)

 なぜだろうか。

「その話をするには、アメリカのTVドラマの成り立ちから説明する必要がありますね。まず、かつて日本で話題になった『ツイン・ピークス』の制作はABC、『24 -TWENTY FOUR-』の制作はFOX。つまり4大ネットワークのテレビ局が制作していました。それらの局は日本の地上波と同様、広告収入によって成り立っています」(宇野氏)

 4大ネットワークとはABC、CBS、FOX、NBCのこと。無料の地上波放送でアメリカ全土に番組を放映するテレビ局のことだ。

「しかし『ゲーム・オブ・スローンズ』の制作はHBO、『ブレイキング・バッド』や『ウォーキング・デッド』はAMC。コンテンツへの支持をベースに視聴者からダイレクトに視聴料金を得ること、あるいは配信権をサブライセンスすることで成り立っているケーブル局です。つまり、そもそもネットワーク局とはビジネスモデルがまったく違うんです。彼らの制作するドラマがネットワーク局制作の作品とどこが最も違うかといえば、レイティングフリー、つまり暴力的な描写や性的な描写も遠慮なく盛り込んでいるという点です。

 実際『ゲーム・オブ・スローンズ』はセックス描写や暴力描写がやたら多いですし、『ブレイキング・バッド』は麻薬にまつわる物語。『ウォーキング・デッド』は残虐描写がウリです。アメリカ人の多くは、これらをネットにつないだTVで有料視聴しています」(宇野氏)

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 全年齢視聴可能の『ツイン・ピークス』や『24 -TWENTY FOUR-』は日本でも地上波で放映ができた。しかしレイティングフリーの『ゲーム・オブ・スローンズ』などは日本でも有料チャンネルやAmazon Prime Video、Huluといった定額制動画配信サービスでしか観られない。つまり視聴できる客の裾野が、無料の地上波放送より狭いのだ。

 とはいえ、それを言うならアメリカの視聴条件もさして変わらない。にもかかわらず、なぜアメリカでは有料放送作品がそこまで人気になっているのか。

「アメリカはもともとケーブルTV文化。各家庭が個別にチャンネル契約して有料視聴する習慣が根付いているんです。無料の地上波放送視聴が基本の日本とは違う。

 ですからネットの定額制動画配信サービス――日本では「サブスク」という奇妙な略語がつかわれることが多いですが――への視聴環境移行がスムーズにいった。TVモニタにケーブルをつなぐのかネット回線をつなぐのかの違いですし、有料視聴にも慣れている。

 しかしアンテナを立てて電波を受ける無料の地上波放送や衛星放送に慣れてきた日本では、視聴環境をがらっと変えなければいけない。また、そもそもの権利元がコンテンンツを塩漬けにしたりしてきた。レイティンングフリーの作品の出しどころがなかったんです」(宇野氏)

日本は地上波が強すぎる

 もちろん、日本には日本独自の有料放送が古くからあった。WOWOWやスカパー!である。ただ、有料放送に多くの視聴者を見込めない日本市場では、大枚をはたいて海外のTVドラマシリーズを買い付けたところでペイできない。

「ゼロ年代後半から10年代前半、スターチャンネルやFOXチャンネルなどごく一部の有料局を除いてレイティングフリー作品の日本供給が止まりました。この空白によって、日本における海外ドラマムーブメントは本国アメリカから大きく遅れを取ることになったのです」(宇野氏)

 Huluの日本上陸は2011年、NetflixとAmazon Prime Videoの日本上陸は2015年と、ピークTVをリアルタイムにキャッチアップするには少々遅かった。Huluの上陸は比較的早かったが、日本での展開に苦戦して2014年には国内ネットワーク局である日本テレビ放送網の傘下になっている。日本は長らく地上波が強すぎたのだ。

【次ページ】アメリカ人は暇なのか?

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