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- 2019/12/23 掲載
【国内初】宮城県「水道民営化案」可決、安くて安全な水は守られる?
上下水道と工業用水を一括して民間に売却
「官と民がパートナーとして共同で運営し、民間の創意工夫を最大限活用することにより、経営基盤強化を図る最も効果的な取り組み」「ライフラインの中で水道は代替性、選択性がない。慎重に取り扱うことが必要だ」。宮城県議会11月定例会の最終日、コンセッション方式導入に関する条例改正案の審議は、採決前まで賛成派、反対派の論戦が続いた。採決結果は賛成39票、反対19票。県政与党の自民党・県民会議が単独過半数を確保しているだけに、条例改正案の可決が見込まれていたが、村井嘉浩知事は採決結果が発表されると議場に深々と一礼し、大きく息をついた。
宮城県は水道施設を保有したまま、民間企業に上水道と下水道、工業用水の運営権を一括で売却する「みやぎ型管理運営方式」を目指している。コンセッションで売却対象となるのは、上水道が大崎広域水道事業など2事業、下水道が阿武隈川下流流域下水道事業など4事業、工業用水が仙台北部工業用水道事業など3事業。対象区域内に約190万人が居住する。
売却後は民間企業が20年間、運営することになるが、最終責任は施設保有者の宮城県が持つ。宮城県は専門家で構成する新組織を設けて企業による運営状況をチェックするほか、現在の水質を維持するために水質検査を宮城県が実施し、独自に設定した13項目について法律より厳しい基準を設定した。
宮城県企業局水道経営課は「県民の不安を解消するため、万全の措置を講じていく。官民協力の中、民間の知恵と工夫を最大限活用したい」と述べた。
改正条例が施行されるのは24日。宮城県はこれに合わせて事業の方向性を示した実施方針を公表する予定。事業者の公募は2020年3月に始め、2021年3月ごろに優先交渉事業者を決定、2022年4月からの導入を計画している。
運営権売却で20年間に約250億円のコスト削減
宮城県がコンセッション方式の導入を進めるのは、人口減少や水道施設の老朽化で水道事業の先行きに不安があるからだ。宮城県の試算によると、給水量は20年後に現在の約80%、40年後に約70%に落ち込むと推計されている。浄水場や水道管の中には、半世紀以上も前の昭和30年代に整備された老朽施設が残っている。これらをすべて更新するにはばく大な費用が必要で、給水量の減少によって収益が小さくなる中、十分な対応ができるかどうか疑問の声もある。
宮城県は3事業の運営権を民間に任せることで委託期間の20年間に約250億円のコストを削減できるとみている。このため、事業者の公募では3年以上の水道事業経験を持つことを条件に加えるなど、長期的な経営能力を基準に選考を進めることにした。外国企業に対しては日本法人の設立が必要としている。
これに対し、県民の間ではコンセッション方式に対する不安が根強く残る。9月に実施された意見公募では「利潤を追求し、倒産のリスクを抱える民間に任せるのは不安だ」「民間企業でなければならない理由が理解できない」など疑問視する声が推進の声を上回った。
これを受け、反対派の市民団体「命の水を守る市民ネットワークみやぎ」は情報公開や議論が不十分として11月定例会での採決を見送り、継続審議とすることを求める請願を県議会に提出した。
共同代表の佐久間敬子弁護士は県議会建設企業委員会で参考人として「水は公共セクターが責任を持つべき。心配する県民がたくさんいる中、すぐに決めなければならない問題なのか」と訴えたが、賛成少数で不採択となった。
【次ページ】全国では事業の維持が困難と予測される自治体も
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