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予約停止で動員4割減、飲食も大打撃
A氏の興行会社が運営する劇場は緊急事態宣言中、これも厚労省からのガイドラインに則り、上映前日以前の座席予約(Web、窓口ともに)を停止。これも集客減に追い打ちをかけた。先売りがないことで動員が4割ほど減ったという。
筆者の体感からも、それは理解できる。週末に自宅から電車を乗り継いで映画館に行くのは、それなりに億劫だ。悪天候だと出かけるモチベーションも下がる。当日券で観ようと思っていても、いざ当日の朝になると「来週にしようかな……」となり、結局見逃してしまった作品も少なくない。その点、WEBでクレジット決済とともに座席指定予約しておけば、否が応でも観に行こうとする。
新型コロナの影響は、その他にも多岐にわたる。相次ぐ公開延期による、ポスターやチラシ、スタンディーといった販促物の撤去・変更作業。販売済み前売り券の払い戻し処理。さらに、映画鑑賞にはなくてはならないポップコーンやホットドッグといった飲食販売も、大打撃を受けた。
「飲食は劇場の収入のなかでも結構な比率を占めるので、きついです。対応は興行各社によりますが、食べながらのおしゃべりが危険なので、一時的にドリンクのみの販売としたり、本編がはじまって皆が静になるまでは飲食禁止にしたり。動員と同様、飲食売上の2020年は8割減ですね。飲食OKになったあとも、卸業者の在庫がダブつき、賞味期限内に消費しきれず廃棄も多いうえ、販売商品に制限があって、新商品も考案しにくくなりました。これでは努力のしようがありません。コンセッション担当者の士気は落ちまくっています」(興行会社・A氏)
飲食といえば、友人や家族と映画を観た後に語り合う「食事」も大事だ。映画は映画だけ観て終わるものではない。鑑賞後の熱い感想戦もセットで楽しんでいる人は多いだろう。
「公開延期になってしまいましたが、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のように、コアなファンにとって語りがいのある作品って、友達と一緒に見た後、“二次会”で居酒屋に行って、激論を交わし合うじゃないですか。そういう消費活動も、コロナで全部なくなってしまったんですよね。失ったのは、チケット代の1900円だけじゃない」(配給会社・B氏)
もはや「お金」しかない
『エヴァ』の話が出た。筆者も楽しみにしていた作品だ。同作は2021年1月23日に公開が予定されていたが、公開9日前の1月14日に公開延期が発表された。2月19日現在、「公開日未定」だ。
「どこの劇場も、なんとか『エヴァ』まで持ちこたえれば……と、今まで踏ん張ってきた」とA氏もB氏も口を揃える。2007年から続く人気作の完結編、前作は興収53億円のヒット、作を追うごとに興収を伸ばしている。今作はさらに上を狙えるので、期待するのは当然だ。「コアなファンは何があっても観に行く」という、コロナにも影響を受けない作品要件も満たしており、その点も申し分ない。『鬼滅の刃』の客足が一段落したタイミングで『エヴァ』が公開されれば、なんとか食いつなげる──。
しかし、希望は消えてしまった。
「2度目の緊急事態宣言中、20時以降の営業自粛に協力した飲食店には、1日あたり6万円の補償金が出されますが、興行会社に対してそのような補償はありません。Twitterには劇場スタッフのぼやきも流れてきていますが、すっぱり全館休業して休業補償してもらいたい、というのが現場の本音ですよ。私がやり取りしている劇場さんは、どこもできる努力をすべてやっています。だけど、大作・話題作が軒並み公開延期してしまっている現状では、もはや限界。映画館をなくさないようにするには、もはやお金しかないんです」(配給会社・B氏)
劇場を取り巻く状況はそうとう厳しい。ただ、映画業界で苦境に立たされているのは、劇場だけではない。そもそも、新型コロナの影響で「半減した」興行収入とは、チケット代すなわち入場料売上のことだ。これを興行会社(劇場を運営する会社)と、配給会社(作品を劇場にブッキングし、宣伝する会社)が、契約比率に応じて分配する。
つまり、興収が減れば、配給会社の収入も連動して減る。さらに言えば、大小多くの映画宣伝会社が、配給会社から宣伝業務を請け負っている。ここにも影響が及ぶ。
次回は、劇場から川上にさかのぼり、B氏の所属する配給会社や宣伝会社、そして映画の製作現場に新型コロナが及ぼした影響について、深堀りする。
(後編に続く)
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