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  • 2024/01/23 掲載

累計5億個「ベイブレード」大成功の裏側、知られざるタカラトミーの命がけの経営判断

連載:キャラクター経済圏~永続するコンテンツはどう誕生するのか(第19回)

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1997年、タカラ(現タカラトミー)から発売され、今もなお人気を集める玩具『ベイブレード』(現代版のベーゴマ玩具、またその玩具を原作とした漫画・アニメ)。好きなパーツを組み合わせて自分だけのコマを作り、そのコマを相手とぶつけ合い対決するオモチャだが、なぜ世界中でこれほど人気を集めているのか。その理由は、玩具自体の魅力もあるが、熱狂を生み出すタカラトミーの“売るための工夫”が関係していた。今回は、『ベイブレード』が大ヒット商品になるまでの超重要な「3つの分岐点」を解説する。

執筆:エンタメ社会学者、Re entertainment代表取締役 中山淳雄

執筆:エンタメ社会学者、Re entertainment代表取締役 中山淳雄

東京大学大学院修了(社会学専攻)。カナダのMcGill大学MBA修了。リクルートスタッフィング、DeNA、デロイトトーマツコンサルティングを経て、バンダイナムコスタジオでカナダ、マレーシアにてゲーム開発会社・アート会社を新規設立。2016年からブシロードインターナショナル社長としてシンガポールに駐在し、日本コンテンツ(カードゲーム、アニメ、ゲーム、プロレス、音楽、イベント)の海外展開を担当する。早稲田大学ビジネススクール非常勤講師、シンガポール南洋工科大学非常勤講師も歴任。2021年7月にエンタメの経済圏創出と再現性を追求する株式会社Re entertainmentを設立し、大学での研究と経営コンサルティングを行っている。『推しエコノミー「仮想一等地」が変えるエンタメの未来』(日経BP)、『オタク経済圏創世記』(日経BP)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHPビジネス新書)など著書多数。

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『ベイブレード』が大ヒット商品になるまでの超重要な「3つの分岐点」を解説する
(Photo:Abdul Razak Latif /Getty Images)

タカラの重要な分岐点、『ビーダマン』の誕生

 『ベイブレード』を生み出したタカラトミーは、もともとロボット玩具とゆかりが深い企業である。たとえば、米玩具メーカー大手ハズプロ社と共同開発し大ヒット商品となった『トランスフォーマー』(日本、1985年)や『魔神英雄伝ワタル』(1988年)などがある。

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ONE PIECEやポケモン、初音ミクなど、あの有名キャラクターたちは、なぜ成功できたのか?中山淳雄がヒットのカラクリを解説
 当時、同社はこうした玩具とセットになるアニメへ出資をしながら、玩具を展開していた。しかし、競合のバンダイは『ドラゴンボール』(1984~)や『セーラームーン』(1992~)とともに大きく成長し、任天堂も『ポケモン』(1996~)で急成長する中、タカラの主戦場である子供向け玩具の市場はどんどん劣勢になっていた。

 それもそのはず、時代は大ファミコン時代。タカラとしては、何度手を出しても失敗してしまう企業の多い家庭用ゲーム市場、バンダイが独占するアニメ玩具市場を前に、それらと違う“第三の道”を模索していた。

 その末に辿り着いた答えが、“ゲーム性を持った玩具”として、ビー玉をはじき出し合う『ビーダマン』(1993年~)のコンセプトだった(4700万個販売、累計400億円)。

 もはや伝統芸となっていた「変形合体」のロボット玩具の王道に、対戦コンセプトを入れた作品だ。この商品の誕生には、おそらく1987~1991年の第1次ミニ四駆ブームも大きく影響していたと考えられる。

順風満帆ではなかった?『ベイブレード』苦難の時代

 ベイブレードの発明に、ビーダマンの成功の影響があったことを物語るように、開発者の真下修氏(1986年タカラ入社、2001年同社取締役、2006年タカラトミー取締役、2015年退職)は当時、次のようにコメントしている。

「伝統玩具のアレンジは1つの方向じゃないかと気づいたんです。ビー玉があるなら、ベーゴマもあるな、けん玉もあるなと思った」
(出典:竹森健太郎〈2002〉.「タカラ」の山~老舗玩具メーカー復活の軌跡~.朝日新聞社)

 しかし、ベーゴマに着想を得た玩具は、はじめから成功したわけではなかった。1995年に発売した商品はヒットとはいかなかったようだ。遊びを1人で達成させてしまうコンセプトだとダメ、あくまで競争性に軸を置くべきだとして、1999年に『ベイブレード』は誕生した(出典:竹森健太郎〈2002〉.「タカラ」の山~老舗玩具メーカー復活の軌跡~.朝日新聞社)。

 『ベイブレード』は、パーツを組み合わせて自分だけのコマを作れる点、そしてベーゴマを回すための「紐」という熟練性が要求される部分をカットし、コマを回すための「シューター」を使うことで、誰でもバトルに参加できる形にした点で、ベーゴマとは大きく異なる。


 そうは言っても、そうした“新しい遊び”が最初から流行るわけもない。ヒットのタイミングは1999年7月の玩具発売時点ではなかった。初動で20万個を売り上げるも、売上はたったの2億円足らず。この頃、月刊誌『コロコロコミック』(小学館)でのマンガ人気も高かったが、社内では「成功した」という感覚はなかったようだ(出典:竹森健太郎〈2002〉.「タカラ」の山~老舗玩具メーカー復活の軌跡~.朝日新聞社)。

 それでは、その後、『ベイブレード』はいかにしてヒット商品になっていったのか。ここからは、世界的な玩具に上り詰めるまでの「3つの分岐点」を解説する。 【次ページ】タカラ、最初のヒットを掴んだ“命がけの経営判断”

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