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ユーザー部門の業務改革を期待される情報システム部門の中には、自部門の改革も着実に進めているところがある。彼らは、どのような自己改革を成し遂げたのだろうか。本連載では、情報システム部門のトップに自ら語っていただこう。第5回は、富士フイルムのシステム機能会社である、富士フイルムコンピューターシステムの代表取締役社長 矢嶋 博氏に話をうかがった。
富士フイルムコンピューターシステムは、現在、トップダウンで自社の機能改革を進めている。本改革は、誰かに言われて始めたものではない。システム子会社からの提案によって、親会社CIO、経営トップの承認を得て推進する、「システム部門発」の革新である。
IT機能改革でシステム子会社の付加価値を高める
富士フイルムコンピューターシステムは、これまで、グループの戦略達成を、システムを用いて下支えしてきた。2004年から開始されたグループの経営計画「Vision75」では、連結経営強化の方針の下、SAP導入を中心に、SCM確立やグループ管理会計、財務会計の整備、グループIT基盤やセキュリティの確立を進めてきた。その後実施された「グループ経営の構造改革」では、企業統廃合や地域シェアード会社設立を、システム面で支えてきた。
これらの活動で、富士フイルムコンピューターシステム自身も、大きく成長した。たとえば「Vision75」では、多くのプロジェクトに対応する中で、社員のプロジェクト・マネージメント能力を高めた。単にPMBOKなどの技術を学ぶのみならず、運用テスト段階での要件追加変更を防止するために、プロジェクトメンバーでの活動期間中にユーザーのマネジメントと重要要件を握るといったスキルを身につけた。「グループ経営の構造改革」では、企業買収や統廃合という機密性の高いテーマで、自社の関係者に機密保持を徹底させ、親会社経営側から早い段階で情報を得、IT統廃合の推進スケジュールの提案など、積極的な関与によって迅速な対応を行う方法を身につけた。
これらの戦略達成支援の活動では、多くのプロジェクトを並行して進める必要があったため、社員をプロジェクト・マネージャーにアサインし、企画、業務プロセス設計などはコンサルタントなど外部に委託することが多くなった。その結果、これらのスキルが社内に蓄積されないという問題が発生した。そこで、富士フイルムコンピューターシステムでは、自社の付加価値向上、グループへの貢献拡大のために、社長以下幹部が主体となって、「IT機能改革」に取り組むことを決断した。
IT機能改革では、まず、社内に取り込むべき仕事と外部に任せる仕事を、トップダウンに明確化した。この検討では、自社の限られたリソースをどの業務に配分すべきか、「社内外のどちらのリソースが経済的に優位か」、「自社内に置くことで価値を高めることができる業務はどれか」を軸に評価し、戦略、アーキテクト、ガバナンス、企画、PM、プロセス設計の内製化を決定した。これに合わせて、保守はアウトソーシングすることに決めた。また、今後の経営環境へのITの貢献方法を追求し、EAを用いて、グローバルな業務プロセス、アプリケーションの統合を行い、コスト削減と、経営変化対応力の強い業務プロセスとITを実現すことを決断した。そして、これらを中期戦略としてまとめ、本社のCIO、経営トップの承認を獲得した。
言われるまで提案しない、あるいは、ビジネス側の戦略や計画が出ればこれに追従するというシステム部門、子会社の多い中で、自ら経営環境を分析し、システム子会社発で中期戦略を企画提案、承認獲得したことは特筆に値する。
改革を支える人材を育てる
現在、富士フイルムコンピューターシステムでは、IT機能改革の推進の真っ最中である。
企画やガバナンスの強化では、これに対応する組織を確立、実践力を持った人材をアサインしている。グローバルな業務プロセスとアプリケーションの統合では、EAを用いた標準化により、ITコストを削減すると共に、グローバルな業務ノウハウの共有、国や地域を越えた社内ベンチマークによる改善の推進、経営変化への対応力強化を進めている。また、この推進を支える、グローバルなIT組織体制の強化に取り組んでいる。具体的には、日本にグローバルITマネジメントの組織を作り、日本を含む5極のIT組織をこの下に置き、グローバルグループの最適化が可能な体制の構築を進めている。
IT機能改革では、改革を推進する人材の育成が重要になる。体制など、形だけを作っても、推進能力を持った人がいなければ、改革は進まない。特に業務プロセスの設計は、今後多くの社員が身につけなければならないスキルである。そこで、「方法論」、「プロセス参照モデル」、「業務用語集」という3つの施策で、業務プロセス設計ができる人材の早期育成を進めている。すでに、業務プロセス設計方法論は完成させ、現在教育普及を開始している。プロセス参照モデルは、グループ内の業務を、プロセス系、機器系、医薬系などに分類して、それぞれのベストな業務プロセスを確立している。自社グループ独自の業務用語は、社内データベースへのボランティアによる書き込みと参照の仕組みを作り、整理・共有している。さらに、UISSに準拠した職務機能や行動基準の見直しを行い、人材育成を進めている。
では、次ページより、矢嶋氏との対談インタビューの全体を紹介しよう。
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