アステラス製薬のシステム部門は、ユーザーから頼られている。これは、ITベンダーに丸投げにせず、開発でも、障害でも、どんどん中身に入っていく。ユーザーから言われたことをやるのではなく、自ら構想を持ち、実現できるまで引っ張るといった行動が、継承されてきたからだ。
たとえば、上述のシステム部門の伝統は、「ITプロデューサー」という人材ビジョンとして説明した。また、これを確実に実践させるために、企画段階、開発段階、運用段階のKPIを明確化した。たとえば企画段階では、IT化の効果、この効果を実現するユーザー部門のコミットメントなどがKPIとして設定されている。開発では、プロジェクトの計画達成を。そして運用では、ユーザーが企画段階でコミットした効果の実現とそれに必要なシステムの安定稼働をKPIとし、システム部門が主体的にこれらの実現に参画するよう求めている。
須田氏もこの伝統を継承してきたが、これに加えて、グローバル化推進の中で海外の人材との仕事を通じて、日本の強さを説明する力を身に付けてきた。 須田氏は、日本発のグローバル化の基本は日本の強さに自信を持つこと、そして、日本の強さをグローバルに説明し、納得感と一体感を醸成しながら展開することが重要だと認識するようになった。たとえば「リンギ(稟議)」とは、デシジョンメーカー以外の関係者の意見を聞くことで、ディシジョンを間違えるリスクをコントロールし、ディシジョン後は迅速にこれを実現する仕組みである。「ネマワシ(根回し)」は、リンギ実現の手法となる。
現在須田氏は、先に示したロードマップ以降のグローバルITマネジメントの姿として、日本の良さを組み込んだ「村的」なマネジメントを構想している。これは、日米欧すべてのIT部員が、組織や役割に過度にこだわらず、互いに補完し合い、影響し合う姿である。
では、次ページより、須田氏との対談インタビューの全体を紹介しよう。
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