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- 2014/12/01 掲載
世界最大のインターネットテレビ企業、ネットフリックスに立ちはだかる試練
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ネットフリックスのビジネスモデルとビジョン
同社の創業は1997年、現CEOのリード・ヘイスティング氏は、「アポロ13」のDVDをビデオショップでレンタルするものの、返却期限を大幅にオーバーして40ドルもの延滞金を支払うはめになりました。それに業を煮やしたヘイスティング氏は、DVDのレンタルをネットで注文し、郵送で届ける仕組みを実現しました。日本でいえば、TSUTAYAのネットレンタルサービス「TSUTAYA DISCAS」の先駆けとも言えるでしょう。
もちろんその時点でインターネットを介してビデオを見れるような構想はあったのでしょうが、1997年の創業当時、ネットはようやく利用し始めたばかり。ネットでDVD並みの映像を視聴することは無理でした。
しかし、ネットのブロードバンド化に伴い、ネットでユーザーが視聴したいコンテンツを視聴できるようになりました。DVDという物理的なメディアを郵送することなく、オンデマンドでビデオを視聴できるようになりました。これがネットフリックスの目指した“インターネットテレビ”でした。
将来、この“インターネットテレビ”はどうなるのか、ネットフリックスではこう定義しています。
Internet TV is replacing linear TV.
Apps are replacing channels,
and screens are proliferating.
As Internet TV grows from millions to billions,
Netflix is leading the way around the world.
インターネットテレビは、既存のテレビ局を置き換える
アプリは、チャンネルを置き換える
そして、スクリーンはどんどん増える
インターネットテレビは数百万から数十億へと成長する
ネットフリックスはそのなかで世界をリードする
従来、既存のテレビ局がテレビ番組を配信するという流れでした。しかし今、動画を視聴するのは、いわゆるテレビだけではありません。PC、タブレット、スマホ、ゲームコンソール、STB(セットトップボックス、ケーブルテレビ等の受信装置)など、あらゆる機器がネットに接続したり、テレビケーブルを接続できます。
だからこそ、テレビリモコンでチャンネルを合わせるのではなく、一つ一つのアプリがチャンネルになります。そして、テレビ、PC、タブレット、スマホ、ゲームコンソール、たくさんの機器がこれからも“スクリーン”になる。そうした時代に、1997年から実績のあるネットフリックスが世界をリードするというわけです。
ネットフリックスのポジショニングと米国の動画配信ビジネス
今後、テレビがインターネットテレビ、あるいはスマートテレビになる中で、この同社のビジョンは素晴らしいと筆者は思います。とはいうものの、こうしたインターネットテレビが、誰も競争相手がいない“ブルーオーシャン”かと言えば、そうではありません。やはり、毎日視聴するテレビをめぐって熾烈な競争が繰り広げられています。下記に現状の米国内のテレビ・ビデオ配信・制作サービスのポジショニングマップを示します。
日本のテレビ業界の場合、基本はテレビ局を中心に番組を制作し、配信されていますが、米国の場合はちょっと複雑です。とはいうものの、提供するサービスから以下の2つの軸で整理できます。
・コンテンツ配信かコンテンツ制作か
ではそれぞれ見ていきましょう。
(1)広告モデル = 無料×コンテンツ制作
いわゆる日本の民放局に近いビジネスモデルです。米国の3大ネットワークであるNBC、CBS、ABC(これにFOXを加えて4大ネットワークとも称します)が該当します。このモデルは、ナショナルクライアントからの広告料を徴収することで、ニュース・ドラマ等のコンテンツを制作し、加盟ネットワークに配信します。
(2)広告+ユーザー投稿モデル = 無料×コンテンツ配信
上記の3大ネットワークの前提は、同社に所属する“プロ”がコンテンツを制作することです。しかし、“プロ”のコンテンツだけが価値があるとは限りません。アマチュアが自分の興味のあるコンテンツを投稿する、この価値を証明したのが、YouTubeのビジネスモデルです。もともとYouTubeは単なる動画投稿サイトでしたが、グーグルによる買収で同社の広告技術と連携し、無料で動画を配信できるサイトながらも、広告でその収入を賄うモデルとなりました。今や人気動画を投稿する人は“YouTuber”などと呼ばれ、プロ並みに稼ぐ人も登場しています。
(3)プログラマーモデル = 有料 × コンテンツ制作
ケーブルテレビ(CATV)が一般的な米国では広く普及しているビジネスモデルで、コンテンツ制作を専門にしている企業です。たとえば、音楽コンテンツを制作するMTV(親会社はバイアコム)、スポーツ番組専門に中継するESPN(同 ディズニー)あるいは24時間ニュースを配信するCNN(同 タイムワーナー)などが挙げられます。彼らはプログラマー(番組製作会社)と呼ばれ、(1)3大ネットワークや(2)広告+ユーザー投稿モデルではカバーできない範囲の映像制作を有償で行っていますが、基本的に自分たちではコンテンツの配信は行いません。
(4)MVPDモデル = 有料×コンテンツ配信
3のプログラマーモデルは、基本的には番組制作が専門であり、配信についてはカバーしていません。そうしたプログラマーが作成したコンテンツを、ユーザーに向けて番組を配信しているのが、CATV(ケーブルテレビ)、衛星放送局(dishNET、DIRECTV)、そしてネットフリックスのようなIT企業です。こうしたコンテンツ配信を担する企業をMVPD(Multi-channel Video Program Distributor:複数チャネルビデオ番組配信業者)と呼びます。
日本でいえば、WOWOW、スカパー、あるいはCATV会社がこれに相当します。視聴者は、CATV、衛星放送、もしくは、ネット(ネットフリックス、Hulu, HBO)を契約し、その中から、プログラマーが提供している番組を個別に契約(MVPDのプログラムによっては、セットとして含まれているものもあり)する仕組みです。
“インターネットテレビ”分野でのリーダーを目指すネットフリックスのポジションは、(4)MVPDモデル。CATV、衛星ではなく、ネットという手段を活用して、ドラマ、映画といったコンテンツをユーザーに配信するモデルです。
【次ページ】試練に打ち勝つネットフリックスの成長戦略
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