最初に注目すべき点として、ユニコーン企業の所在地が、圧倒的に米国サンフランシスコ(30社中11社)にあることが挙げられます。シリコンバレーと呼ばれるパロアルトも含めると、半数近くがベイエリアに集中しています(
図2)。
なぜサンフランシスコなのか。一言で言うと「ベンチャーを設立してユニコーン企業になるまでの環境が整っているから」ということになりますが、その中で投資家(ベンチャーキャピタル、事業会社など)が数多く存在していることが大きいといえます。
いうまでもなく、株式会社は株主がある企業におカネを出資して、その見返りとしてその企業の株式を所有する仕組みです。そして、会社設立まもないスタートアップの段階では、創業メンバーもしくはエンジェル投資家(設立間もない企業に投資する富裕層を中心とした個人)が出資をし、株式を所有します。
とはいうものの、ビジネスを拡大するためには、やはり創業者・エンジェル投資家だけでは限界があります。そこで外部からの資金調達を検討します。そして、資金調達にはいくつかの段階(投資ラウンド)があり、ベンチャーキャピタルを中心とした次の成長のための第1投資ラウンド(シード、シリーズA)があります。シリーズAが終了すれば、本格的な事業拡大のための第2投資ラウンド(シリーズB、C)とだんだん調達額を増やしながら、ビジネスを成長させ、最後は上場もしくは事業会社による買収で、ベンチャーキャピタルは投資した資金を回収します。
具体的に、Uberの資金調達ラウンドを示したのが
図3です。Uberは
図1に示すようにユニコーン企業のなかでの最大の評価額(510億ドル)を誇ります。2009年3月の創業から半年後の2009年8月に創業者メンバーらで最初の資金調達を実施し、その1年後にシードラウンドを行い、この時点での評価額は4百万ドル(1ドル120円換算で4.8億円)で、どこにでもあるベンチャーの一つに過ぎませんでした。
Uberにとって最初の転機となったのが、2011年2月のシリーズAでした。このラウンドで150万ドルを調達するとともに、評価額も400万ドルから一気に6000万ドルと15倍に拡大。タクシー配車でイノベーションを起こす会社があると注目されはじめたのもこの時期です。
そして、Uberのポジションをさらに高めたのが、2011年12月のシリーズBで、評価額も前回の6倍の3.47億ドルまで拡大しました。シリーズCでは評価額35億ドルとなり、いわゆるユニコーン企業の条件を満たすことになります。
その後はシリーズD、E、Fと経て現在に至ります。最初のシードラウンドの評価額は400万ドル、現在のシリーズFでの評価額は51,000万ドルなので、最初のシードラウンドからのリターンはなんと1万2750倍です。たとえば1万円投資していれば、1億2,750万円になって返ってきたのです。
もちろん、評価額が永遠に上昇することはありえません。結局のところ評価額は、その会社の業績(ファンダメンタルズ)に収斂するだろうというのが筆者の見方です。たとえば、Uberの評価額(時価総額)は5億1,000万ドルとされています。株価の割安度を測るために、PER(株価収益率、時価総額÷純利益で求める、低いほど割安)を利用するとして、NASDAQ全体のPERは17・8倍。仮にUberのPERも17・8倍としたときのUberの理論純利益は、51,000万ドル÷17.8倍=2865万ドル(約3,450億円)。日本でいえば、三菱商事(2015年3月期4006億円)に迫る水準でなくてはなりません。
Uberは財務諸表を公開していませんが、実際の利益はここからはほど遠い水準にあるでしょう。したがって、Uberの現状の評価額は期待先行であり、その期待が高い段階で、投資家としては売却のタイミングを探っていると言えます。
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