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  • 2016/04/25 掲載

夕張市 財政再建10年目の「希望が消えた」現実、国の破綻処理は正しかったのか

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2006年に353億円の財政赤字を抱えて財政破綻した北海道夕張市が、財政再建団体(現在は財政再生団体)の指定を受けて10年目に入った。徹底した経費削減で借金の返済は順調に進んでいるものの、「最低のサービスに最高の負担」と皮肉られる厳しい状況が人口流出に拍車をかけ、街の姿を一変させた。北海学園大経済学部の西村宣彦准教授(地方財政論)は「市民も財政破綻の被害者であり、緊縮財政に耐えている」と指摘する。市は有識者による第3者委員会「市の再生方策に関する検討委員会」(座長・小西砂千夫関西学院大教授)の報告を受け、財政再建と地域再生の両立に方向転換する考えだが、市民の苦境はいつまで続くのだろうか。

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

政治ジャーナリスト 高田 泰(たかだ たい)

1959年、徳島県生まれ。関西学院大学社会学部卒業。地方新聞社で文化部、地方部、社会部、政経部記者、デスクを歴任したあと、編集委員を務め、吉野川第十堰問題や明石海峡大橋の開通、平成の市町村大合併、年間企画記事、こども新聞、郷土の歴史記事などを担当した。現在は政治ジャーナリストとして活動している。徳島県在住。

考えられる限りの緊縮財政で借金返済

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夕張市は札幌と帯広の間に位置する
 夕張市は炭鉱の街として栄え、最盛期の1960年には12万人近い人口を抱えていた。しかし、石炭産業の衰退とともに炭鉱の閉山が相次ぎ、市を離れる人が続出する。市は残された市民が暮らせるよう炭鉱会社から土地、建物、病院などを借金して買い取った。

 炭鉱が1990年にすべてなくなると、市は折からのリゾートブームに乗り、観光振興に舵を切る。だが、進出企業は早々と撤退、市はやむなくスキー場やホテルを買い取り、借金を増やしていった。

 この間、市は単年度決算を黒字に見せかけるため、前年度決算を整理する出納整理期間(4~5月)に会計上の回転資金である一時借入をし、決算上の収支不足を補った。いわゆる赤字隠しだ。一時借入金は地方債より金利が高く、余計に赤字を膨らませる結果となった。

 その結果、財政再建団体の指定を受け、財政運営が事実上、国の管理下に置かれたわけだが、抱えた借金は353億円。年間の税収が10億円にも満たない市にとって、とてつもなく大きい額だ。従来、財政再建はおおむね10年をめどにしてきたが、市には24年という長い返済期間を課せられることになった。

 市は住民税など住民負担を最高額に引き上げる一方、市の出先機関、図書館など公共施設、観光施設を次々に閉鎖する。子育て支援や福祉サービス、各種補助金も相次いで打ち切った。

 市職員は破綻前の263人から100人足らずに減り、給与も全国で飛び抜けて低い額までカットした。小学校は7校を1校、中学校は4校を1校に。市議会の定数も9人に半減するなど、市を挙げて考えられる限りの緊縮財政が続いている。

夕張市10年間の変化
項目破たん前現在
住民基本台帳人口1万3,268人(2006年3月)9,025人(2016年3月)
高齢化率40%(2005年度)49%(2015年度)
借金残高353億円(2006年度)259億円(2015年度)
市職員数263人(2006年3月)97人(2016年3月)
市議会定数18人(2006年度)9人(2015年度)
市長給与月額86万2,000円(2006年度)25万9,000円(2015年度)
議員報酬月額30万1,000円(2006年度)18万円(2015年度)
小学校数7校(2006年度)1校(2015年度)
中学校数4校(2006年度)1校(2015年度)
小学校児童数414人(2006年度)220人(2015年度)
中学校生徒数242人(2006年度)119人(2015年度)
商店数234店(2004年)114店(2012年)
観光入込客数146万9,000人(2005年)59万7,000人(2014年)
(出典:夕張市の再生方策に関する検討委員会報告書、文部科学省「学校基本統計」、経済産業省「商業統計」、北海道「観光入込客数調査」)

財政再建のしわ寄せ、市民生活に

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 市はこれまでに95億円余りを返済し、着実に財政再建を進めてきた。しかし、そのしわ寄せが市民生活を直撃する。重い負担と最低限の住民サービスを嫌がり、若い世代を中心に市民が相次いで流出した。人口は破綻前の1万3,000人余りが9,000人まで減った。

 後に残されたのは、地元で商売を営む商店主や新天地に移るのが難しい高齢者ばかり。高齢化率は国内の市部では最も高い49%まではね上がった。高齢化が深刻な北海道でも群を抜いた数字となっている。

 東京23区の621平方キロより広い763平方キロの市内に小学校は1校しかない。児童数は破綻前のほぼ半数に減った。スクールバスが全域に導入されていないため、児童の6割が一般客も乗る路線バスで通学している。

 路線バスの運行本数は多くなく、1本乗り遅れれば学校に遅刻する。このため、保護者の送迎は日常茶飯事。スポーツ少年団の活動や放課後に級友と遊ぶのにも制約がある。

 地域医療を担っていた市民病院は、規模を縮小して診療所になった。171あった病床はわずか19床に。診療所は自宅療養する慢性患者に訪問診療して対応しているが、交通費がかかるため、患者の負担は割高になる。

 市役所は3分の1に減った職員だけで事務がまかなえず、北海道などから20人ほどの派遣職員を得て対応している。しかし、夜遅くまで残業することも珍しくなく、今も退職を希望する職員が後を絶たないという。

 第3者委員会が1月に開いた意見聴取会では、市民から「市役所が人的破綻寸前になっている」と改善を求める声が上がった。鈴木直道市長も3月、東京の日本記者クラブで会見し「計画的な職員採用で市役所内を立て直したい」と述べている。

廃屋だらけで人影のない商店街

 市は映画の街を標榜しており、1977年公開の松竹映画「幸せの黄色いハンカチ」をはじめ、多くの映画のロケ地となった。市内の商店街やホテルなどには、「太陽がいっぱい」、「網走番外地」など古い洋画、邦画の看板が掲げられ、夕張キネマ街道と名づけられている。

 夕張を訪れる観光客が楽しみのする名物の1つなのだが、周辺の商店街や飲み屋街はシャッター通りを通り越し、人影のない廃屋が目立つありさま。中には傾いて倒れそうに見える建物も少なくない。

 市中心部の本町商店街は昼食時でも閑散としている。閉店する店が相次いだため、商店街振興組合が5月で解散する。地域の振興に向けた取り組みは、新たに設立された「ゆうばり本町振興会」が事業を受け継ぐことになった。

 振興会の田淵徹代表は「振興組合がなくなっても、夕張名物の映画の看板など大事なものは次の世代に残したいが、人が減ってしまったので頭が痛い」と苦しい胸の内を打ち明ける。

【次ページ】国の破綻処理に首をかしげる声も

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