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- 2016/09/29 掲載
宝生流能楽師 辰巳満次郎氏が語る「伝統芸能が訪日観光客に注力する理由」
芸術とビジネス
「リレー公演」とは
──今回の公演の名前は「能楽堂リレー公演2016能 『葵上』」ですが、この「リレー公演」とは、通常の能の公演とどう違うのでしょうか。もともと、この「単発公演」という公演形式は、能の「一期一会」の精神にのっとっているのですが、働くみなさんは忙しいですし、日本人・外国人観光客にとっては、スケジュールも立てづらい。そこで、「リレー公演」というものを企画しました。
今回試みた「リレー公演」では宝生流の宝生能楽堂と観世流の矢来能楽堂という2つの能楽堂が連携し、平日の夜4回にわたって、能の中でも有名な演目「葵上」を上演しました。
能の舞台は分業制で成り立っており、役割ごとに複数の流派があります。そのため、能の「葵上」といっても、5つのパターンがあります。今回は観世流・宝生流の2パターンの「葵上」を上演しました。
能楽堂版シェアリングエコノミー
──「能楽堂リレー公演」の狙いをお聞かせください。辰巳氏:一言でいえば、能楽堂の活性化です。能楽は千年以上の歴史を誇る日本の伝統芸能で、流派ごとに能楽堂を持ち、そこで観客を迎えています。能楽堂という場所は、いわゆる「劇場」とは異なります。舞台の上で能楽師、狂言師、囃子方(楽器の演奏者)が技を磨いて披露する場であり、流派の能楽師が稽古をする場であり、その流派の能を習いにくるお弟子の方々の稽古の場でもある。能楽堂とは、舞台、訓練場、そして流派というコミュニティー形成などの多様な側面を持つ独特の場所です。
日本全国に約70の能楽堂がありますが、能楽堂は流派と結びついているために、能楽堂間の流派を超えた連携は、これまでほとんど存在しませんでした。たとえばある能楽師が公演をしたいときに、自分の流派の能楽堂が空いておらず、公演を断念せざるを得ないとします。でも、他の流派の能楽堂に空きがある、なんてこともあります。もったいないですよね。こういうことが積み重なって、能楽堂の運営が傾けば、能楽堂の改修が必要になった際に費用を捻出できず、われわれ能楽師が舞う場を失います。
そこで、「流派を超えて連携し、共存共栄を考えませんか」と流派の家元などにお話しし、流派を超えて能楽堂をつなぐ「能楽堂ネットワーク協議会」を立ち上げ、同じ演目を複数日程にわたり複数の能楽堂で上演する「リレー公演」というビジネスモデルを実現させました。「使われていないもの・場所と人をマッチングして利用する」という意味では、UberやAirbnbなどのシェアリングエコノミーに通じるところがあります。
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